【友猫3】




特に用事も無いにも関わらず、三成はよく吉継の屋敷を訪れた。
どうも、白い子猫を気に入ってしまったらしい。顔は相変わらず不機嫌そうだが、きゅっと結んだ口元がむずむずと動いているのを見て、

(どうも喜んでいるらしい)

と吉継は猫の"三成"と戯れる友を見て思った。
しかし、どうにも猫は三成が苦手なのか(同族嫌悪、というやつなのかもしれない)、差し出された三成の指を無視してただ彼の前をうろうろしていた。
痺れをきらした三成は、猫を無理矢理持ち上げると自らの膝に載せる。
無理矢理に据え置かれた彼の膝から逃れようとした猫の尾を、三成が引っ張った。
猫は「ぎにゃあ」と潰れた声を出して、三成の白い手を引っ掻いた。
真っすぐな赤が三成の手に浮かんで、血がぷくりと浮いていた。

「……ッ!この猫めが!可愛いげの無い奴だ!愛玩動物なら愛玩動物らしく人間に媚びろ!」

三成がそう言って逃げ出した猫の胴を掴んだ。
猫はいやいやをする様に首を振る。再び、三成はその猫を自らの膝に据え置いた。
猫は、不機嫌そうに唸っている。

(……まことに似ておる)

媚びないのは、石田三成も同じだろう。
多少でも他の武将どもに媚びでも売っておけばいいものを、この素直過ぎる男はそれを嫌った。
それが自分の首を絞めていることを知っているのだろうか。

「刑部、この猫の名前はなんだ」

「ふむ……名、か」

三成の問いに吉継は唸った。
名前は"三成"だが、この男の前でそんなことは言えない。
不機嫌最高潮となった三成を制することは、流石の吉継にも無理だった。

「たま、と言う」

「ふん、面白味にかける名前だ」

妥当な名前を言うと、三成はつまらなさそうに鼻を鳴らした。

「たま、貴様は私に従うか」

三成が猫を抱き上げ、言った。猫は「にゃあ」と鳴いた。
吉継には「私は"たま"では無い」と聞こえたが、三成はその鳴き声を肯定と受け取ったらしく、満足そうに頷いた。

「私を裏切るなよ、たま」

珍しく、三成が笑う。
いつもの皮肉気な笑顔では無い、心からの笑顔だった。

(なんと)

それは、秀吉が死んで以来、初めて見せた笑顔かもしれなかった。
吉継は、少し猫に嫉妬した。親友とも言える自分の前ですら笑わなかった三成が笑ったのだ。なんとなく、悔しい気持ちになった。

「猫は気まぐれなものよ三成。ほれ、"たま"、菓子をくれてやろう」

吉継は近くにあった饅頭をちぎって、猫の鼻先で揺らしてやる。
猫は「にゃ!」と叫ぶように鳴くと、饅頭にかぶりつこうとしたが、吉継は手を引いた。
饅頭を追うようにして猫は三成の膝から降りた。

「くそっ!裏切ったな、"たま"!」

「裏切りとはまた大層な」

「貴様が刑部の飼い猫でなければ八つ裂きにしていたところだ」

三成はそう言うと、猫の胴をまた掴んで、無理矢理膝に据え置く。
そのまま乱暴に、猫の頭の毛がぐしゃぐしゃになるまで撫でた。
猫は三成の膝の中で、諦めたように妙に長く鳴いたのだった。




END




ただぬこと戯れる三成を書きたかっただけです。
三成は動物見るとそわそわしそう触りたくて。
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