【友猫】



「刑部、なんだそれは」

吉継の部屋に入るなり、三成は多少気味が悪そうな色を含んだ声で言った。
吉継の膝に丸まるようにして眠っている小さな白い猫を見て、そう言ったのである。

「なんだ……とは?見てわからぬか、猫であろ」

「それくらい、わかる」

「では、何を言いたいのだ三成」

吉継はクク……と喉を鳴らして笑った。
この、どこか不気味な男と、可愛らしい子猫の組み合わせはどうにも不釣り合いだ。
三成は「ふん」と鼻を鳴らすと、吉継の前にあぐらをかいて座った。
吉継の手が、猫を撫でているのを不思議そうに覗き込む。

「貴様が猫などを好きだとは知らなかった」

「別段、好きでは無い」

「なら何故、猫など拾ってきた」

「……そうさなあ」

吉継の膝の上で、猫は気持ちよさそうに欠伸をした。
背中が小さく膨らんだり萎んだりしている。眠っているらしい。
三成は猫を触りたそうにそわそわとしていたが、手を伸ばす気配は無い。吉継はそれを見て、彼に気づかれぬよう笑った。

(この猫が、三成、ぬしに似ていたと言ったら……激怒するであろうなあ)



***


屋敷の庭に、子猫が居た。
一匹で寂しそうに泣いていたのだった。
しかし吉継が近づけば警戒したような瞳を向け、唸った。

(可愛げのない奴だ)

吉継は動物を愛する気持ちなどは特に持ち合わせてもおらず、そんな猫から距離を取った。
自分とは関係のない命だ。放っておけば死ぬだろう。
どこぞでのたれ死ねばいい。
しかし、その猫は吉継が遠ざかるとしきりに鳴いた。
鳴いている……というよりもギャアギャアと言う絶叫に近かった。

(煩い猫め)

どこぞへ放り出してしまおうと、その子猫の首根っこを掴んだ。
猫の叫びが止まる。相も変わらず警戒した猫の真っ黒な瞳が吉継を見ていた。
孤独そうな、何者をも否定するその強気な色。
しかし奥には寂しさも見えかくれするあまのじゃくな瞳が。

「……おぬしは我が友にそっくりだ」

似ていた。
友、石田三成に。
猫は「にゃあ」と潰れた声で鳴いた。

(これは捨て置くことは出来ぬ)

こうして、吉継は三成に似た猫を屋敷で飼うことにした。


***




猫の名前を三成と名付けて愛でているのは、本人には秘密である。
癇癪持ちのこの男のことだ。屋敷を破壊されかねない。

「刑部、何故猫など拾ったのだ、答えろ」

返事が無いのに苛々したのか、三成は不機嫌そうに言った。
しかしその手は猫に触れたがっているようで未だそわそわしていた。

「はて」

何と言ってごまかそう、と吉継は考えた。
考えた結果、

「我は心優しき男故」

そう、言った。

「嘘を吐け!」

直ぐに三成がそう叫んだのを聞いて、吉継は苦笑した。
膝の上の猫は悠長に腹ばいになりながらすぅすぅと寝ているのだった。



END





三成は猫っぽい
そして大谷さんは基本いい人だと思う。
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