*並行世界*

前回のおまけその1と同時刻に起こっています。前回の最後にあったようにその2のこちらでは清蘭、朱麗一行サイドのお話になります。










前の街を出てからそう日にちもかからずに次の街へとついた一行。そんなに日にちがかからなくとも食料は減るもので、買い足しをするために街を一回りしていた。






『なー八戒まだ買い出しすんのかー?俺、腹減ったー』
『悟空あんた我慢≠チて言葉しらないわけ?』
『姉貴、このチビザルが知ってたら天地ひっくり返るって』
『あー、確かにねー』
『はぁ!?うっせぇよ!!このアバズレ姉弟!!』
『『なんだとぉ!!??』』



いつものことながらくだらないことで言い合いが起こる。いつものこと過ぎて誰もさして気にかけないのだが、お腹が減っていると多少気が荒くなるもので姉弟は声揃えて反論する。言いはしないもののきっとお腹は減っているのだろう。


『悟空、アバズレっていうのは女性だけですよ』
『八戒!!?訂正するべきはそこじゃないわよ!?』



すぐさま八戒が訂正を入れてくれるものの、その訂正箇所は朱麗が望んだものとは少し違っていた。




『ねぇ兄さん。私も少しお腹減ったからあっちの売店で肉まん買ってきたいんだけど…』
『あぁ、構わん。好きなだけ買ってこい』
『……相変わらずのシスコンですこと』
『清蘭、俺肉まん2個な!!!』



こちらはこちらでいつも通りに妹を溺愛するのだった。
そんな最高僧の姿も見慣れてしまった。


……いや、同じ三蔵なのにちがう三蔵に会ったような…?




『三蔵のことなんか見て、何考えてんだ?』
『いや、なんでもない。少しあっちの方でも見てきましょう?』


考えていたってしょうがない、そう判断した朱麗は悟浄を連れて見ようとする。が、すぐさま八戒に声をかけられた。


『おっと、悟浄には荷物持って欲しいので。頼めますよね?あと朱麗も手持ち無沙汰なら手伝ってください☆』
『ありゃりゃ…』




八戒が食材を選んでいる間、待ちぼうけの悟浄の足に清蘭より背丈が1回りほど小さな女の子が足を引っ掛けてしまったらしく、その女の子は派手に転んだ。
悟浄はわざと引っ掛けた訳では無いものの、自分が足を出していたために少女が転んだことには代わりはなく慌てて起こす。


『っと、悪ィ。平気か?』



すると少女が返事をする前に「莉藍!」と少し先の方から先程の少女より一回り大きな女の子が駆け寄ってきた。面持ちからして姉と言ったところだろうか。




『ほぉ〜お前さん莉藍っていうのか』
「うん!そうだよ!」
『怪我はねぇか?』
「妹がご迷惑をおかけしてすみませんっ」



莉藍という妹のそばへと駆け寄ると悟浄に向かって軽く頭を下げる。すると結んである長いポニーテールがふわんっと重力に従って下へおちると同時に、シャンプーのいい香りがふわりと悟浄の鼻をくすぐる。
一瞬頬の筋肉が緩みそうになった。だが後ろと横から何をされるかわからないことを思い出すとまたいつもと変わらない顔をしてみせる。

悟浄の横にたっていた朱麗とその後で肉まんをほおばる清蘭の2人はその淡く青い髪に一瞬なにか、吸い込まれる気分に陥った。



『…あなたずっと長い髪のまま?』
「え…?私は短い方が楽でいいんですけど、母が「女の子なんだから!」って切らせてくれないんです」



質問を投げかけてから自分の質問が初対面の人に急にするような事でないことに気付きハッとするが、彼女は少し不思議そうにしただけで返答をしてくれ、母が、のところですこし苦笑いを見せる。



『そう…。でも短いのも似合うと思うけど、長い髪も似合ってるわ。』




朱麗はどこか懐かしむようにそういった。



『私は朱麗、あっちで肉まんほおばってるのが清蘭でその隣で肉まんを両手に持ってるのが悟空。足を引っ掛けたのが弟の悟浄ね。あと今買い物してていないんだけど八戒と、あそこで不機嫌そうにタバコ吸ってるのが三蔵ね!』
「三蔵って…あの…?」
『そ!でもまぁ、ただの生臭坊主よ。あの子が莉藍であなたは?』
「あ、申し遅れました。葵、と申します」




すっと背筋を伸ばし改めて名前を名乗るその挨拶をする姿に、庶民というよりは貴族を思わせた。



『そんなかたくならなくていいのに、まぁいいわ葵ね』
「つい癖で…。…?」
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
「莉藍、そこ…」
「あーーっ!!」


『な、なに!?』



葵がふとうつむいた時、妹莉藍のスカートの裾が切れてしまっていることに気付き莉藍は声をあげた。



「どうしよう…お気に入りだったのにぃ…」




お気に入りだというエプロンドレスの裾の所が転んだ拍子になのか、裂けてほつれている。



『おや、どうしたんですか?』
『スカートが破けちゃったみたい』
『これくらいならすぐ直せますよ。ここではなんですので、あちらの河原にでも行きましょうか』




八戒にそう言われ一同は河原へと移動した。
待ってる間悟浄と悟空は川で水切りをしてなにやらかけているようだった。おやつか、デザートといったところだろうか…。




『さて、と。たしかこのカバンどこかに…ありました』




カバンの奥底から出てきたのはソーイングセット。もはやさすがとしか言いようがない。
裂けてしまったところはスカートの裾の部分なのでそのまま縫い直しを始める。



「お兄ちゃん、私のお姉ちゃんより上手だねっ!」
「ちょっ…」

『まぁ、すぐにボロボロにしてしまう方が沢山いるので自然とうまくなってしまいましたね』
「でもお姉ちゃんはね、お勉強もよく出来るし剣術も、武術もできてかっこいいお姉ちゃんなんだ〜!」
『それは素晴らしいお姉さんですねぇ!莉藍さんは大きくなったら何になるんですか?』
「うーんっとねー、莉藍は大きくなったらお姉ちゃんみたく強くてかっこよくなりたいの!」



『さすが八戒、すぐに仲良なっちゃって』
『保父さん、だものね♪』
「あの、ほんとすみません。ご迷惑をかけてしまって」
『いいのよ!元はといえなアイツが足出してたのが悪いんだから』
『そうそう!でも莉藍ちゃんに怪我がなくて良かった!あ、スカートはすこし破けちゃったけど…』
「あれ、私のお下がりなんです。新しい服だって沢山あるのにアレがほんとに気に入ってるみたいで」
『本当に莉藍ちゃんはお姉ちゃんが好きなのね!』




そう清蘭が言うと葵はどこか恥ずかしそうにはにかんだ。そんな葵を見ているとどこか不思議と懐かしさがこみ上げてくる気がした。そして清蘭は一呼吸おいてから1つの質問を投げかけた。





『あのね、唐突かもしれないんだけどさ』
「なんでしょう?」
『葵ちゃんは今幸せ…?』
「幸せ…。たまに自分の暮らしが窮屈だと感じることもあるけど、莉藍と両親と4人で暮らせてやはり幸せだと思います」
『そっか、ならよかった…!』
「??」
『なんでもない、こっちの話!』




葵は清蘭のその質問に迷いもなく答えてくれた。その答えを聞いてなんだかほっとして清蘭の顔には笑がこぼれる。
聞くところによれば今日は母親の誕生日でケーキを取りに行くところなのだとか。




『これでいいですよ!』
「お兄ちゃんありがとう!」
「本当にご迷惑をおかけしました」




葵は改めて軽くお辞儀をした。




『葵…』
「…??」
姉貴




その青い髪が揺れるのを見ているとどうしても目を奪われて吸い込まれてしまう。どこかに何かを置き忘れている気がして、いっそこの前吸い込まれてしまえば思い出せる気がした。

何かを思い出せそうな気がしたところで悟浄に呼ばれふと我にかえった。




『あ、ごめんね。お母さんの誕生日、いい日になるといいわね!』
「ありがとうございます」
「ジープちゃんもまたね!」

『きゅー!』
『莉藍、だっけ?たまには葵お姉ちゃんの言うこと聞いてあげなさいよ〜?』
「わかったぁ!またね、ばいばぁい!」
『ほんとにわかったのかしら、まったく』





一瞬の出会いでありもしかしたら永遠の別れかもしれない。
なのにどこか懐かしく、出会えたことに喜びを感じた。その分別れは寂しく感じるのだった。
自分たちに非があったとはいえ普段ならばここまで世話を焼くこともなかったかもしれない。とても不思議な気持ちだった。





『行っちゃったね』
『…そうね。さて、私たちも先に進みましょ!買い物は終わったんだっけ?』
『姉貴、俺のタバコ買ってねぇ』
『あー、走って行ってきて。じゃないと置いてくから』
『はぁ!?ふざけんなよ!』
『そういうことだ。ついでに俺のマルボロも買ってこいよ?』
『っざけんなー!!』










『ねぇ清蘭』
『なぁに朱麗』
『この旅終わったらさ、またここに来てあの2人会いにこない?』
『それ、私も思ってたとこ!』
『それじゃ、決まりね!!』












今日も
今日とて
日が沈む






明日は明日の




日が沈む































***
いかがだったでしょうか
一応これですべてになります。
あとに あとがき としてすこーし書かせていただければと思います!

もうほんのすこしだけお付き合いいただければ幸いです♥




読んでくれてありがとうございました。

2015.12.21
黒音 未唯


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