※ 律、高校生設定です。少し捏造してます。




















スマホのラインをチェックしても、企業アカウントしかメッセージは届いてない。

別に、そんなこと慣れっこで、でも更新されてるアイコンの写真をチェックしてしまう。楽しそうな飲み会の写真。新入社員歓迎会とかだろうか。


左手にぶら下げたスーパーのビニール袋を見て、またエコバッグ家に忘れたなあと思う。中に入ってるのは見切り品のお惣菜。サラダは家に帰って作ろう。


ギリギリに決まった就職。親も友達も安心し、喜んでくれた。その後は思い出したように卒業旅行したり、飲み会したり、あっという間に気づけば夏のはじまりを迎えていた。
お盆休みを過ぎて辞める新人が多いと先輩から聞かされていた。それって釘刺されてる?とか思いながらも気持ちはわかるなと思った。

平凡な中小企業のOLとして就職した私は、仕事に大して期待や理想を持っていた訳では無いけど、それでもどこかやるせなさを感じていた。多分それも、誰だって思うこと。上司に言われなくても辞める気はない。

それは辞めたって次も同じだろうし、そんな気持ちを真に受けるほど子供だと周囲に思われるのは嫌だったからだ。



少し年季の入ったアパートの階段を上る。4階。米なんか買った日には毎回エレベーターがないことを恨む。そこの角部屋が私の家だった。

残業を終えいい感じの時間なのでご近所から夕食のにおいが漂ってくる。と言ってもこんなアパートに住むのは同世代の独身が多いので、大方スーパーの惣菜かほか弁だろうが。



「………え。」

「おかえりなさい。遅かったですね」



階段を上った先、私の部屋の前にいたのはスポーツバッグを抱えた男の子だった。以前会った時のブレザーは脱いでいて、カッターシャツの袖は肘まで巻くられている。いかにも部活終わりの高校生と言った感じだ。


「……何してんの律くん」


「何って、あなたが帰ってくるのを待ってたんですよ」


事もなげにそう言うと読んでた本をカバンにしまった。今時待ち時間にスマホいじるんじゃなくて本読んでる学生って、しかも見た目爽やかなスポーツ男子っぽいのに、そのギャップだけでモテそう、とか思ってしまう。


「あのねえ……急に来られてもウチの冷蔵庫にはもう味噌とマヨネーズしかないし、お惣菜も一人分しか買ってないし」

「はあ、引っかかるとこそこですか。まあ、それなら心配いりません。差し入れにこれもらったんで、一人じゃ食べ切れないんで一緒にどうかと」


そう言って足元に置いていた紙袋を掲げる律くん。その中にはチラッと大きなお重が入ってるのが見えた。ずいぶん気合の入った差し入れだ。運動会みたいだ。


「そんなん友達か家族と食べりゃいいじゃん」

「前会った時あなたがお金と食事に困ってそうだったので」

「男子高校生に情けをかけられる私って……」


なんだかここで話していてもラチがあかなそうなので(しかも近所迷惑になるし)、仕方なしに家に入れることにした。「食べたらすぐ帰ってよね」
、と言うと律くんはわかったのかわかってないのか適当な返事をした。


律くんこと影山律くんとは、私が大学時代にバイトしていたコンビニで知り合った。初めはよく来る中学生だなあ、くらいにしか思っていなかったけど、徐々に仲良くなり去年連絡先を交換した。

律くんは成績優秀、スポーツ万能のいわゆる優等生だ。希望の高校に入学してからは勉強に部活に精を出し、青春真っ只中だろう。
そんな律くんと私の関係は別に何ということもない。ただの生意気な高校生と、ちゃらんぽらんなOLだ。今年に入ってからは何度か彼から連絡が来て、映画を見たり花見に行ったりしたけど、ここ最近は音沙汰がなかった。


そりゃあ、楽しい高校生活が始まって、暇だから相手していたつまらない社会人の女なんて忘れてしまうだろう。そう思っていた矢先だった。それが急に今日、家の前で待っていたのだから結構驚いた。彼女ができた報告でもしに来たのかしら。


「お邪魔します」

「どうぞ〜〜散らかってるけど気にしないでね」

「大丈夫です。想定内なので。」

「んだとコラ」


相変わらず皮肉は忘れない子だ。
散らかってるけれど、さすがに人を上げれないレベルではなかった。平凡な1LDKの部屋。律くんを適当な場所に座らせると、荷物を置いて一先ず着替えようと洋服を持ってバスルームへ向かった。一応お客がいるので部屋着はまずいだろう。


「着替えるから適当にテレビでも見てて。冷蔵庫の飲み物も飲んでいいし。あ、食べ物は味噌とマヨネーズだけだよ」

「…ええ、お気遣いなく」


そう言うと律くんはテレビの電源をつけた。それを横目で見てバスルームに入る。なんだかこの部屋に自分以外の誰かがいるって不思議な感覚だ。
学生の頃も、飲み会と言えば大学から近い友達の家だったし、両親も数える程しか訪れたことがない。

少しの居心地の悪さと、久しぶりに誰かと一緒に過ごす空間に仕事の疲れが少し癒えた気がした。












「うわあ、すごい……すごすぎて引く………」



テーブルの斜め前には律くん。右手にはテレビ。テーブルには、3段もある豪華絢爛なお重が鎮座していた。その中身はエビのワイン蒸し、ヒラメのムニエル、ハート型のだし巻き玉子に、スコッチエッグ。等々。様々な趣向を凝らした料理が美しく盛り付けられていた。ぜひレシピを教えて欲しい。



「これを律くん一人に?差し入れ?」

「そうですね」

「……女の子?」

「まあ、そうですね」

「はあああ………」



薄々感づいていたけど、やはり女の子からの差し入れらしい。それも中身を見ればわかる、かなり本気だ。訊ねてみても本人はしれっとしているし、普通に考えて律くんを好きな子が、律くんのために作った料理を私が食べるのはいい気がしないだろう。


「私、やっぱり自分で買ったお惣菜食べるよ。作った子に悪いし」

「とは言ってもさすがに僕一人じゃ食べきれませんよ。捨てる方が申し訳なないです」

「それならご家族の人と一緒に…君たしかお兄さん居たよね?」

「家族がいいなら、どうしてナマエさんは駄目なんですか」


私がお重から目を逸らして半額シールの貼られた冷えたお好み焼きをレンジにかけようと立ち上がろうとしたところ、それを静止するように律くんに左腕を掴まれた。

テレビからバラエティ番組の乾いた笑い声が聞こえる。私は彼にそう問いかけられて、その答えをすぐに見つけることができなかった。掴まれた手首はほんのり熱くて、彼の手のひらが熱を帯びていることを知った。


「それ、は」

「いい加減、ちゃんとこっちを見てください。僕もう、子供じゃないんで。」


ぐ、と少し力を入れられて、強制的に顔を上げさせられる。答えを見つけられない私は寄る辺なく真っ直ぐ彼の目を見ることができない。視線がぐらつく。でも律くんはしっかりとこちらを見ていた。

あの大晦日の日に、必死で私をつなぎ止めようとした男の子はもういないのだと知った。もう、彼が私を映画や花見に誘った理由も、今日こうして差し入れを持参して部屋の前で待っていたことも、わざとらしく聞くことはできない。
今はっきり聞いてしまったら恐らく、今までのらりくらりと交わしてきたようには逃げられなくなる。そして、私が彼から逃げていた理由にも、向き合わなくてはならなくなる。



「…律くん、痛い」

「…すみません。でも、僕はあなたのことが好きです。ずっと前から。こうして差し入れの弁当であなたが嫉妬すればいいと、邪で短絡的な考えをしてしまうほど。」

「………」

「僕はちゃんと言いました。あの時言えなかったことも、汚い気持ちも全部。次は、あなたの番だ。」



あの大晦日、私と離れるのが寂しいと、やっとの思いで言った彼は、ずいぶん手強く成長してしまったようだ。それもほんの数ヶ月の間に。私は彼の真っ直ぐな黒い瞳を怯えるように見つめて、そして私の腕を掴むその手に、そっと反対の手のひらで触れた。彼の体がほんの少し震えた。



「…外、出よう。少し空気に当たりたいから」



私が静かにそう言うと、彼はわかりました、とだけ言ってそっと私の手を離した。











外に出ると夏の夜風が心地よく肌を撫でた。少し外を出るだけの軽装の私と、制服姿の律くんが並んで歩く。…身長、以前会った時よりまた伸びた気がする。同じだった目線は幾分か上の方にある。


「どこ行くんですか」

「んー、コンビニ。」


アパートから少し歩いたところにあるコンビニ。大通りに出ると夜とはいえ車も多く、人通りもそれなりにある。ふいに背後から自転車のベルの音が聞こえて、律くんの隣をそれなりのスピードで通り過ぎていった。それを見てああ、車道側を歩いてくれてたんだと気づく。そんなの、どこで覚えたんだろう。


「コンビニって、あのコンビニですか」

「うん、誰も知ってる人いないと思うけどねー」


以前バイトしていたコンビニ。私と律くんが初めて会った場所。就職してからも近所ということもあり時々立ち寄るが、当時一緒に働いていたメンバーはほとんど入れ替わり、顔を合わせるのは店長のみとなってしまった。その店長も今の時間には不在だろう。


「なんか買って公園でも行こうか。欲しいものある?」

「いや、自分で払いまーーあれっ、」


コンビニを前にしてそんな会話をしていると、目の前の自動ドアが開いて一人の男の子が明かりの中から出てきた。彼もまた高校生くらいだろうか。黒髪のおかっぱで、夏だというのに黒の詰め襟の学ランを着ている。
そんな彼を見るなり律くんは驚きの声をあげた。それにつられて目の前の男の子もこちらを見る。


「あれ、律。部活帰り?ずいぶん遅いね」

「いや、僕はちょっと人のところに寄ってて…。そういう兄さんは?」

「バイト帰りだよ。喉が渇いたからさ」


どうやら律くんのお兄さんらしい。律くんとはまた違った雰囲気を持つ彼だけど、どことなく目元や雰囲気は似てるなと思った。というか、お兄さん。って言っても彼も高校生だろうがーー自分の弟が得体の知れないどう見ても学生じゃない女と夜にコンビニに来るなんて、怪しすぎる。

喉が乾いたらしいお兄さんは何故かパックの牛乳を買ったと律くんに見せていた。その横で律くんとの関係をどう答えようかめちゃくちゃ焦る私。不意にお兄さんの視線が私に移る。


「ええと……」

「律、この人は?」

「前言ってたミョウジナマエさん。」

「…ああ、この前お花見行くって言ってた」

「あ、え、ええ。はい。初めましてミョウジナマエです。律くんとは知人というか友達というか決して怪しい関係では……」

「律の彼女さん」

「………………いや、違」

「そうだよ兄さん」

「違」


律くん。何そんな爽やかにお兄さんに嘘ついてるの。お兄さん、「律がお世話になってます」じゃないよ。怪しもうよ。どう見ても結構な年の差だよ。

コンビニ前でそんな会話をする私たちを仕事帰りのサラリーマンや学生が煩わしそうな視線とともに隣を通り過ぎていく。私たちは少し横に移動して話を続けた。


「いやあの違……お兄さん、話を」

「今日もナマエさんの家に寄ってたんだ。10時までには帰るから母さんたちに言っておいて」

「いや、お母さんはヤバイ。私、社会的に干され……」

「そっか、わかった。気をつけてね」


「お兄さん。話聞こうお兄さん。」


この兄弟、見た目はあまり似てないけどマイペースぶりは似てる。そして意外と我が強い。

ご両親も彼女の存在を知ってるとして、それが胡散臭い社会人のOLだということがバレたら……いやていうか、私彼女じゃないし!!

脳内でセルフ突っ込みしていると、不意にお兄さんに名前を呼ばれた。驚いて振り向く。やはり年齢だとか、職業だとかを聞かれるのだろうか。


「ええと、ナマエ、さん」

「は、はい」

「……律があなたの話をするようになって、それがすごく楽しそうだなあって思ってて」

「………は、はい」

「だから、なんと言うか、律のこと、これからも笑顔にしてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。」

「…………は、い……」


「ちょっと兄さん、余計なこと言うなよ」

「僕も一応、律の兄さんだからね。挨拶しておかないと」


訊ねられた言葉は、かなり予想外のものだった。私と会う時はかなり澄ました様子の律くんだったけど、お兄さんには、一体どんなことを話したのだろうか。私があげたヌガーの入ったチロルチョコの話?大晦日に見たイルミネーションとか、映画とか、一緒に見た桜とか。

お兄さんの言葉に、今まで律くんと過ごした時間を思い出した。



「……ナマエさん。何してるんですか。入りますよ」



挨拶をしてお兄さんと別れて、私たちは店員と客としてじゃなくあのコンビニに再び入店した。お互い適当にドリンクを買って、少しお菓子も買った。夕飯を食べそびれたのでお腹が空いたのだ。

そして強情な彼のことなので、支払いはきっちり割り勘(むしろ払うと言われたがこちらも社会人としてきっちり断った)。それらを携えて私たちは夜の公園へ向かった。











あの大晦日、イルミネーションを見た公園。そこは結構な広さがあり手入れも綺麗にされている。そうなると夜にも関わらずちらほらとカップルが集っては二人の時間を過ごしていた。

その光景を横目に少し気まずく思いつつ、私たちも空いているベンチへと座った。あの大晦日の日だって同じようなことをしたのに、私と彼の中で何が変わったのだろうか。


「…寒くないですか?」

「大丈夫。律くんこそ」

「僕は平気です。体温高いので」


そう言われてそういえばさっき、手のひらがあたたかかったなあ、と思い出す。そして私たちがここへ来た目的も嫌でも思い出す。


「………」

「………」

「……何か喋ってください」

「え、ええと……」


何。この感じ。この友達以上恋人未満の焦れったい感じ。いや、律くんは友達だけど恋人じゃないし。いや、いやいや………。


「……今日は、天気いいね」

「夜ですが」

「……明日、晴れるかな」

「曇りみたいですよ」

「………」


「………じゃあ僕が聞きます。手、握っていいですか。というか、握りたいんですけど」


困った時の天気の話もこうも真っ暗な中に星しか見えてなければ使い物にならない。切り札を失った私が再び黙り込むと、律くんが追い打ちをかけてきた。

驚いて思わず彼の方を見ると、彼は表情を変えず、しかししっかりと私の目を見てそう訊ねてきた。


「だ、ダメ。」

「なんで」

「………ええと、手汗ヤバイしああ、さっき買ったいちごオレ飲みたいしその」

「そんなの全く気にしないしいちごオレなら後で気の済むまで飲んでください」

「ええええ」


そんなの最初から拒否権なんてないじゃないか。というか、なんだこのオラオラ男子は。可愛かった律くんはどこ行った。

そんなことを考えているうちに私の左手は律くんに強奪され、彼の指先が私の指先を包む。その控えめな触れ方が余計に体温を、指の震えを意識させて心臓の音が嫌に耳に響いた。


「だ、ダメだよ律くん」

「だからなんで」

「……君と私じゃ年の差が大きいし」

「7歳です。たったのとは言いませんが今どき珍しくないと思います」

「それ以前に君未成年だし」

「ならたったの2年で18です。それこそたった2年です」

「………私は、」


「他に問題がありますか。言ってください。全て論破できます。」


「何この子強すぎる……」


律くんの私の手を握る指先に力が籠る。私の手のひらは緊張のせいで、本当にほんのり汗をかいていて、でも律くんは言葉通りそんなの気にしないと言わんばかりに畳み掛けてくる。

そう、言葉通りに。あの意地っ張りで、プライドが高くて、あまり素直になれなそうだった律くんが、正直な言葉を私にぶつけてくれているのだ。優しい気持ちも、汚れた邪な気持ちも。



「…僕のこと、嫌いですか」

「……嫌い、な訳ない。」

「……それじゃあ、ナマエさんは僕のこと、本当はどう思ってるんですか。正直に言ってください」


彼の瞳に、懇願と、少しの意地悪な色が見えた。まるで今までの借りを返してやると言わんばかりの、してやったりな目。それにほんの少し負けた気持ちになりつつ、私も彼の目を真っ直ぐ見て自分の言葉をぽつぽつとこぼした。


「…私、社会人になって、急に先が見えなくなった気がして。これまでは高校卒業したら大学行って、その次は就職で…って考えなくてもゴールが見えた。でも今は違う。」


「………」


「仕事って、明確なゴールがない。それに、私には大きな夢もないし、それなりに楽しく仕事して、いつかは結婚して、ぼんやりとした未来しか描いてないことが急に恥ずかしくて、怖くなったの。」


「………」


「でも、律くんは今まで通り私を忘れないでいてくれた。君の好意にはもちろん気づいてたし、嬉しかった。でも君が希望の高校に入って、部活をして、充実した毎日を送ってるのを見て、私もいつか飽きて忘れられるんだろうなって。その日が来るのが怖かった」


「なんだよそれ、そんなの」


「だから君の好意に気づかないフリをして、この関係がダラダラ続けばいいなって、君の気持ちを無視した最低なことを考えたの。……ごめんね……」



自分の中の、幼稚で汚い部分をいつか彼に無破られて、飽きて捨てられるのが怖かった。未来ある彼が、しかもそれを取りに行ける人間である彼が、いつか遠くに行ってしまうその時が怖くて。


「……いいですよ、そんなの。僕だって新しい会社で格好いい上司がいるだとか、仲良くなった同僚がいるだとか、いつかそんなことになる前にできれば会社なんてクビになれって思ってました」

「ええええ……それはさすがに酷いよ……。食べていけなくなる……しかもそんな奴いないし……」

「……それで、あなたが、僕の目の届くあのコンビニで、面倒くさそうにまたレジをしてくれたらいいのにって。この数ヶ月ずっと。思ってました」


「……律くん」



相変わらず心臓の音はバクバクうるさいけれど、でも、律くんのその言葉を聞いて胸の奥につっかえていた何かが外れたような気がした。同時に私はずいぶん狭い世界を見ていたのかもしれないと思い知る。

律くんも私も、お互いの世界を完全に知ることはできない。だからこそ知りたいと思う。そしてその心の片隅にはいつもお互いの存在がある。きっとみんなそうなのかもしれない。だから孤独でも頑張れるんだ。


「もう一度聞きます。…僕のこと、嫌いですか」

「……嫌いじゃない、よ」

「…そんな言葉ないですけど。もっとちゃんと、ハッキリ僕に言ってください!」


もう一度きっぱりとした声で問われて、こくりとひとつ喉を鳴らした。手汗がすごい。もやは私のものか律くんのものかわからない。心臓の音は私を急かすように突き動かして、私は覚悟を決めたように彼の指に自分の指を絡め、きゅっと握った。




「……私も、律くんが、好き、です」




たぶん私は今耳まで真っ赤なんだろう。今が夜でよかった。明るい場所でこんな顔を見られたら死んでしまう。

告白の返事はまるで22歳の社会人とは思えないほど拙いと言葉と情けなく震えた声で。けれど律くんはその言葉を聞いた瞬間、もう片方の手も握る私の手に重ね包み込んだ。目の前の彼は暗がりでもわかるほど、そして今まで見たことのない屈託のない顔で笑った。



「僕も好きです。たぶん、世界一好きです」

「ちょっ!!!やめてそれ!!恥ずかしすぎる!!!」

「キスしていいですか。したいんですけど」

「ちょ、まっ、律くん!?落ち着こう律くん。冷静になろう」


「僕は冷静ですよ。それに十分待ちました。あなたの部屋に入った時も手を握る程度に止めましたし。そもそも簡単に男を家に入れすぎだろ。我慢した僕を褒めて欲しいくらいです」


「あれは君が勝手に押しかけて来たんでしょ!!というか、それとこれとは今話が違……」


「違わないです。…ああ、外では人目が気になりますか?じゃあ家に戻りましょう。早く立ってください」


「律くん!!話聞こう律くん!!」


「あともう一回好きって言ってください」

「律くんーーー!!!」



そんなこんなで私たちはお互いの気持ちを伝え、私たちの関係は少し変わりました。色々あったけど、やっぱり私たちの関係はまだまだ続きそうです。



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