「君が連続失踪事件の犯人か?答えるんだ。」



メキメキとアスファルトが割れていく。両足では支えきれなくなって、両手をついた。「シゲオ!」隣で僕を呼ぶエクボの声がする。


「…連続失踪事件…?何のことかわからないけれど、犯人は僕じゃあないよ」

「なら、ここで何してた?あの小道を通って来たんだろう。鈴美さんはもういないぞ。どうしてここに戻ってこれたんだ、……それに、なんで君のスタンドにはダメージがないんだ!?」


とてもよく喋る男の子は焦っているようで、僕を地面にめり込ませながらエクボの様子を確認しているようだった。エクボはと言えば僕が平気そうなので心配するのをやめて鼻クソをほじっている。その様子が男の子には気に障ったようだ。


「馬鹿にしてんのか!早く質問に答えろ!」

「ええと、ごめん…。こいつの態度が悪いのは謝るよ…。でも、さっき言ったように僕は犯人じゃないし、君の言うスタンド?も知らないよ。僕は、昔助けてもらったお姉さんの言葉を思い出してここに来ただけなんだ。」



地面についていた手を、徐々に剥がしていく。空中に飛散したアスファルトたちが元に戻って、地面が修復されていく。体勢を立て直した。めり込んでいた古びたスニーカーが顔を出す。僕の男の子の目線が、同じになる。



「僕、超能力者なんだ。こっちは悪霊のエクボ。ーー君の背後のドラゴンボールのキャラみたいなのも、同じものかな?」



地面と体を立て直して、改めて男の子に事実を告げると、彼は更に驚きの表情をしていた。なおも彼の…おそらく重力のエネルギーは僕に向けられていて、こうして普通に立っているのも正直しんどい。とてつもないパワーだ。それも、彼はきっと僕が怪我をしないように加減をしている。


少しの間をあけた後、男の子は僕への攻撃を静かにやめた。そして僕とエクボの顔を交互に見ながら改めて訪ねた。



「…超能力?……悪霊…??」



先ほどからの超常現象の連発に気づく通行人は案外居らず、というのも僕がすぐに地面を修復してしまったからかもしれないがーー単なる友達同士の喧嘩に思われているようだ。そして僕の世界でそうだったように、こちらの世界でもエクボや彼に取り憑く悪霊?の存在は一般人には見えないようだった。



「そう。君のもそうなの?」


「僕の…いや、こいつはエコーズact.3。僕のスタンドさ。…ええと、超能力者ってやつは…スプーンを曲げたり、トランプの数字を透視したり、…君のは壊れたものをなおせる超能力ってこと?」


「ううん。スプーンも曲げれるし、透視もできるよ。コイツを除霊することもできる」


そう言って親指でエクボを指すとびくりとして僕の後ろに隠れた。その様子をぽかんとして聞いていた男の子だったが、いつの間には彼の隣の『スタンド』が消えていた。


「“スタンド”…。そいつは君の意思で消したり出したりできるってこと?」

「まあね。僕自身の精神のようなものかな。君のは違うようだけど」


「僕は取り憑かれてるだけだから」



一通りお互いの説明を終えた後、男の子はどうしたものかとポリポリ頬を掻いてから、思い出したように僕に訊ねた。

周囲は昼間だというのに結構な人通りがある。道行く人は皆半袖や薄着なので、季節は僕の世界と同じ夏なのだと思わせる。もしかするとまだ夏休みなのかもしれない。ただし太陽の日差しは心なしか優しい。秋が近いのかもしれない。


「そうだ。君はさっき助けてもらったお姉さんって言ったね。それって杉本鈴美さんのこと?あの、大きな犬を連れた…。それで、小道を通ってここへ来たと言ったけど、一体どこから…」


杉本鈴美、初めて聞く名前だったけど、どこか懐かしく感じた。大きな犬を連れたというヒントから、やっぱりあのお姉さんの名前なのかなと思う。けれど、男の子は彼女はもう居ないと言った。薄々勘付いていたけれど、彼女も、あの犬もこの世の者ではなかったのだろう。だとすると成仏したのか。それなら何故、僕はここへ呼ばれた?


「たぶん、その人で間違い無いと思う。ピンクのリボンのついたワンピースを着て、ショートカットで、カチューシャをしてた。僕は小さい頃あの小道で迷子になって、彼女に助けてもらったんだ。その時、いつか僕の力を誰かのために使いたくなったら、杜王町を助けて欲しいと言われた。」


「そうか…鈴美さんは昔から吉良吉影やその他の犯罪者から町を守ろうとしていた」


「…でも、彼女は今…?」


吉良吉影、という新しい名前を聞いた。それが誰なのかは知らないけど、おそらく町の平和を脅かす人間なのだろう。ちらりとエクボを見ると、長話に飽きたのか辺りをキョロキョロと見回していた。さすがのエクボも並行世界に来たことはないだろう。



「鈴美さんは成仏したよ。でも、君がここに呼ばれた意味はあると思うよ。吉良吉影というスタンド使いの大量殺人鬼を倒して、町の平和が戻ったように思えた。でも最近、また新たな連続失踪事件が起きてる。」



親しみやすそうな男の子の顔が、キリリと引き締まった。その眼には町を守ろうとする確かな勇気と覚悟が宿っている。それは最後に見た杉本鈴美さんの眼差しと同じだった。



「僕たちはそれを調べてるんだ。鈴美さんがいない今、生きている僕たちがこの杜王町を護るんだ。この話を聞いて、君も同じ気持ちならーー僕と一緒においでよ。」




僕は静かに頷くと、歩き始めた男の子の後を追った。あくびをしながらエクボもついてくる。



「僕の名前は広瀬康一。君は?」


「影山茂夫。みんなからはモブって呼ばれてるよ。」

「そうか。モブくん。よろしくね」

「よろしく。…最初はあんなに警戒してたのに、けっこうあっさり信じるんだね」

「いやあ…僕も仗助くんから話を聞いて、スタンド使いに対してピリピリしてたからさ…。それに、」


軽く握手を交わしてお互いの話をする。まさか異世界で友達ができるとは思っていなかったからびっくりだ。いつになっても自己紹介をする空気は照れる。

僕は杜王町の澄んでいて賑やかで、心地の良い風を感じながら鈴美さんとの約束を果たすために歩みを進めた。そして、自分の中に思い出した自分の力を肯定したいという感情に、向き合うために。



「君はきっといいヤツだ。一見地味だけど、言動や、瞳の中にサワヤカな強い意志を感じたよ。だから信頼できたのさ。」



僕も彼に対して同じような印象を持っていた。きっと意志の強い、いいヤツだと。




「ありがとう、康一くん。」






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