音和さん(ツイッターのフォロワーさんであり『君の尸を埋葬』の管理人さん)よりお題をお借りしたお話です

キスのお題22題
手の甲なら敬愛/徳川

素敵なお題を拝借させて頂き、ほんとにありがとうございます!!















徳川くんとは幼なじみだった。家が近所で、小さな頃から一緒にいて、帰り道も、放課後も、一緒に過ごすことが多かった。小学校の頃はそんな私たちを夫婦とかカップルとか周りの男子がはやし立てるから、最初は名前で呼んでたのにいつしか名字で呼ぶようになった。中学に入ったらしっかり者の徳川くんは生徒会に入って、三年生になった今も副会長を立派に務めあげている。私はそんな幼なじみが誇らしくて、尊敬して、けれどちょっぴりさみしかった。小学生の頃、一緒にセミ採りして遊んだり、雪合戦した記憶を思い出す。今では私より身長も伸びて、声も低くなって、エスカレーター式に上がってきた学校も別々になる。

ぼんやりと家から近くのフツーの公立高校を目指している私は、徳川くんがどこの高校を受験するのか知らない。夏が過ぎて、秋に差し掛かった頃、クラスでは中学生活最後の文化祭として盛大な演劇をやろうという話になっていた。

教壇に立つ学級委員長のノリノリな提案に賛同する者は少なく、受験も控えているしと投げやりな雰囲気だった。私はというと教室の特に目立ちもしない隅の方の席でことの成り行きを見守っていた。このまま劇に決まったとしても、私は衣装係とか小道具とか、たぶんそういうのを任される。地味で大変な仕事だ。けれど別に嫌じゃない。そういう小さな仕事をこつこつこなすのが好きだったから、それに目立つことの方が苦手だ。

そんな日和見主義のことなかれ主義な私がクラスの空気と化している中、一人の男子が手を挙げた。神室くんだ。神室くんは生徒会長で、一時期色々あったけど今は立派に生徒会長としての任を果たしている。遊び心があって柔軟な考え方で良い決断を下してくれる。そんな彼はクラスでも一目置かれていた。


「神室、立候補か?」

「いや、演劇をやるならぜひラブストーリーがいいと思ってね。せっかく中学最後の文化祭なんだ、華やかな方がいい」


「……って意見が出てるけど、反対の人?」


にこやかに神室くんがそう言うと、学級委員長は反対意見を訊ねた。けれど元々演劇にすら興味を示してなかったクラスの空気は、まあ、それでいいならいいんじゃない?というようなものだった。それに気を良くした神室くんが続ける。


「ストーリーはシンデレラがいいと思うんだ」

「ベタだな〜」

「まあいいじゃない。それで推薦したいんだ。王子役はぜひ徳川にやってほしい」


「……は?」



トントン拍子に話を進めていく神室くんと学級委員長の会話をみんなぼんやり聞いてたけど、最後の言葉にみんな目を丸くした。そして、名前を呼ばれた当の本人が一番驚いた顔をしていた、当然だけど。

思わず声を上げた徳川くんはすかさずどういうつもりだという表情で神室くんの方を睨む。クラスメイトたちも副会長としては表舞台に立って立派にこなしている徳川くんだけど、演劇の主役だとかは全く引き受けそうにない彼の名前が上がってざわついている。そんなクラスの空気をやり込めてしまおうと神室くんが言葉を続ける。


「徳川はいつも僕や誰かの側に立って支えてくれるようなやつだった。そんな彼を中学最後の文化祭くらい、主役にしてやりたいんだ」

「オイ、神室。俺はそんなこと……」


「いいじゃん!徳川王子!似合いそう!」

「神室くんの言う通り最後くらい徳川くんを主役にしてあげたい!」

「お、お前ら……」


神室くんの友達思いの言葉にクラスが一丸となる。けれどほとんどの人は面倒な主役を適当な理由で誰かに擦り付けてしまおうという気持ちだっただろう。あれよあれよと多数決が始まって、あっという間に徳川くんは王子の座へ。続いて相手役の姫役を決める流れになったのだけど、どこかぐったりする徳川くんに大丈夫かな……と視線を向けていたら予想外のことが起こった。


「ミョウジさんでいいんじゃない?」

「へっ!?」


誰彼ともなく呟かれた言葉に、わらわらと賛同が集まっていく。そうだね、いいじゃん二人。幼なじみだし。女子で徳川と一番仲いいのミョウジさんだし。二人似合うじゃん!

口々にそんな勝手なことを言われて、神室くんも「みんなそう言ってるけど、どうかな?ミョウジさん」と笑顔で訊ねてくる。クラスの期待と視線がこっち向いてる。
そんな、私は衣装係とか小道具とか、裏方の仕事をやるつもりで……なんて言葉は死んでも出てこなかった。この状況で断れるほど、私に度胸はないのだ。なんたって日和見主義のことなかれ主義だから。



「…………や、り、ます……」



私の返事におお、とクラスの安堵が聞こえた。私じゃなくて良かった、俺じゃなくて良かった、そんなほっとしたため息が。















「……悪かったな。巻き込んでしまって」


「う、ううん!徳川くんが悪いんじゃないよ……誰かがやらなきゃいけないことだし……」


「……」


放課後、珍しく生徒会の会議もないということで久々に徳川くんと帰ることになった。隣を歩く彼は少し眉間にシワを寄せて、バツが悪そうにしている。ちなみにあのホームルームのあと神室くんはこってり徳川くんに絞られていた。けれど決まってしまったものはどうしようもなく。結局徳川くんも私も役を引き受けることに変わりはなかった。


とぼとぼと歩く帰り道。ふいにちらりと隣を歩く徳川くんを見上げるとまた背、伸びたかなと思う。喉仏もちょっぴり隆起して、どんどんあの頃の徳川くんとは変わっていく。それが寂しいのかなんなのか、よくわからない感情が胸の中に渦巻いた。



「オイ、前見ろ。危ないぞ」



薄汚れた自分のローファーのつま先を凝視して、そんなことを考えていたら前から人が歩いて来たことに気づかなかった。急に肩を引かれて徳川くんの方にぐらつく体。すれ違いざまにぶつかりそうになった人に徳川くんはぺこりと軽く会釈をしてくれた。私の代わりに。


「ごっ、ごめん……!!」


かあ、と急に顔が熱くなる。触れられた肩が熱をもってるような気がする。よくよく気づくと徳川くんは私を気遣ってか、車道側を歩いてくれているし、今も軽く肩を引かれただけなのにぐらついた体に、男の子の力強さを感じた。なにもかも、あの頃とは違うんだ。男の子、なんだ。


そう考えると自然と徳川くんとそっと距離をとってしまう。少し寂しくて、少し不安で、……ドキドキする。

その日の帰り道は何を喋ったのかよく覚えていない。











徳川くんは忙しい生徒会活動や受験勉強の合間を縫って稽古に励んでいる。そんな彼の足を引っ張りたくないと私も休み時間や放課後を利用してたくさん練習をした。
何度も練習を重ねて、台詞も立ち回りも板についてきた頃。それでも私は徳川くんから発される台詞や、身振り手振りなどに一々ドキドキしていた。



「あなたをずっと探していました」



「……」


徳川くんがその台詞とともに、静かに私の前に膝まづく。そして私より大きく成長した、男の子らしい手を伸ばして、そっと、私の手をとるのだ。その手に触れられるたびにそこが熱を持ったように感じる。かすかに震える指先を、徳川くんに勘づかれやしないかいつもヒヤヒヤしていた。

そして私が一番緊張して仕方ないシーン。私の手をとった徳川くんが、優しくその手の甲に口づけを落とす場面。もちろんフリなんだけど、その伏せられた瞼や、私の手の甲にそっと唇を寄せ、影を落とす様なんかを眼下で見ていたらもういても立ってもいられないのだ。

初めの方こそ囃し立てていたクラスメイトも、今では静かに演技を見守るから余計にそのしんと静まり返った空間に緊張がこみ上げる。



「あなたを愛しています。どうか后になってください」



そう言って静かに頭を垂れ、お姫様に懇願する王子様。そしてお姫様が王子に返事を返す……というラストシーン。私の手をとったまま頭を下げる徳川くん。きれいに七三に分けられた黒髪の後頭部に、小さなつむじが見える。かわいいな、なんて思っていたらどこからともなくヒソヒソ声が聞こえる。


「(ちょっと!ミョウジさん!セリフ、セリフ!!)」


「!!あ……っ、」


あまりの緊張で逆にぼんやりしてしまっていた。いけない、徳川くんやみんなに迷惑かけちゃいけないのに。慌てて真っ白な頭の中を駆けずり回って探し出した台詞を、こちこちに固まった口で紡ぐ。


「っわ、わた、しも、あなたを愛しております……喜んで。」



「……ハイカットー!!ちょっとダメだよミョウジさん!!ぼーっとしてちゃ!!」

「は、いっ!!ごめんなさい……」


カットがかかって張り詰めていた教室の空気は緊張の糸が入れたようだった。完全にやからしてしまった私に、監督を買って出た学級委員長のお叱りが飛ぶ。けれどそれまでは順良く進んでいた芝居なので、クラスメイトも今日の練習はこれで終了か、という和やかな雰囲気になっていてほっとする。


「ご、ごめんね徳川くん……なんか、その……場の空気に飲まれちゃって……」

「ん?ああ、気にするな。それまではしっかりできてたしな」


練習が終わってすぐにそっと徳川くんに声をかけると、気にしてないという風に言ってくれた。けれど、本番はほんとにちゃんとしなくちゃ。そう考えるとプレッシャーだけど、やると決まったからにはしっかりやり遂げたい。なんだかんだ、クラスもいい雰囲気だし、こうしてみんなで何かをするのもきっと最後だから。


「……どうした?」

「う、ううん!なんでもない……」


「……」


そう考えると、しんみりしてしまった。私は家から近い、フツーの公立高校に通う。徳川くんは?
それだけのことが何故か聞けない。それに聞いてどうするんだろ、きっと徳川くんカッコイイから、高校行ったら彼女とかもできて、賢いしスポーツもできるから楽しい学校生活を送るんだろうなあ。私のことは、いつか一緒に遊んだただの幼なじみとして記憶の奥底に眠るのかな。

ううん、そんなネガティブなこと勝手に考えて、落ち込んでたってダメだ。聞いてみよう、どこの高校受験するの?って。ただ、それだけのことを。



「徳川くん!あのっ……」

「ミョウジさん!君は授業中でも芝居中でも、よくぼーっとしてることがあるから集中力がアップする方法を教えてあげよう!!まず、この五円玉を見るんだ。これを……」


「えっ、あの……委員長……」



勇気を出して徳川くんの名前を呼んだのに、横から現れた委員長に話しかけられて言うタイミングを失ってしまう。しかも結構どうでもいい話だ。いや、普段からぼーっとしてる私が悪いのか……。
仕方なく委員長の話を聞いてたけど、一向に終わる気配がない。隣で待ってくれてる徳川くんも、これから委員会の仕事とか、勉強とかがあるだろう。待たせてはダメだ。そう考えて「ごめん、また今度にするよ」と言うと徳川くんは少しの間を置いて「わかった。」と言ってカバンを持って帰っていった。

私は委員長の話を聞きながら、その学ランの背中を見れるのもあと少しだな、と思いながら見送った。











あっという間に文化祭当日。私は現在体育館の舞台袖にいて、他のクラスの劇が終わるのを待っている。このクラスの劇が終わったら、私たちの番。
胸に置いた手から心臓のこれ以上ないくらい速い鼓動が伝わってきて、これ私死ぬんじゃ……?と思うくらいだった。

薄いブルーのドレス、歩きづらくて足を引っ掛けてしまわないか心配だ。ネックレスやイヤリングやティアラ、小道具も揃えてくれて、このドレスも衣装担当の子が夜なべして頑張ってくれて、なんとしてもこの劇を成功させなくてはと緊張と、やる気が出てくる。
それに、今までこんな大役を任されることなんてなかったから、色々大変だったけど引き受けて良かったな、と思う。本当に中学生活のいい思い出になった、なんてまだ始まってもいないのに感慨深く思ってしまう。

そんな時、背後からぽん、肩に手を置かれた。



「……緊張してるな」



振り返ると、ネイビーの軍服を着た徳川くんがいた。作りや装飾も控えめだけど、その格好は普段の彼とはまるで別人でぽかんとしてしまう。しかもいつもは七三にきっちり整えられた前髪が下ろされ、おでこや眉をほんのり隠している。


「……カッコイイ……」


「……は?」

「……あっ!!」


思わず口からぽろりとこぼれ落ちた言葉を慌てて拾おうにもそんなことできるはずがなく、私の顔は自分でわかるくらいみるみる真っ赤になって、私ができることと言えばぎゅっと目を瞑ってうつむくことだけだった。


「ああああのっ!!えっと、その……」


「……お前も、よく似合ってる」


「…………えっ……、」


ぽそり、と呟かれた言葉に閉じていた目を開けてパッ!と顔を上げると、今度はバツが悪そうにこちらを見ようとしない徳川くんの姿がそこにあった。ほんのり、耳が赤い。そんな徳川くんを見て更に私の体温も上昇する。

ざわざわとざわつく舞台袖。奥では開演の時のセットづくりのスタンバイなど、慌しく裏方のみんなが走り回っていた。そんな中悠長な時間を過ごしてられるのも、主役の私たちぐらいだろう。私たちはそんなクラスメイトや、流れるように展開される舞台上のお芝居に目を向けながら会話をした。



「……中学生活も、もう終わるね」

「……そうだな」

「……徳川くんは、どこの高校行くの?」

「隣町のごま油高校だ。……そういうお前は、」

「私は近所の塩高校だよ。……そっか、離れ離れになっちゃうねー……」


「……」



良かった、自然に聞けた。そしてやっぱり徳川くんはすごい。私じゃ到底及ばない高校を目標に、一生懸命勉強して、それを取りに行ける強さがある。ほんとに、尊敬する、誇らしい幼なじみだよ。


「徳川くんはやっぱりすごいね」

「何だ急に」

「私の自慢の幼なじみだよ」

「……」


そう思った気持ちを素直に伝えると、徳川くんは少しの間黙り込んで、そして静かに口を開いた。目の前では他のクラスの劇がクライマックスに入っている。


「お前の方がすごいだろ」


「……え??どこが!?」


「……昔からいつもソンな役回りばかり任されて、それでも嫌な顔せずにきちんとこなしてた。」

「そ、それはまあ……決まっちゃったものは仕方ないし、」

「お前は誰かのために一生懸命になれる優しいやつだ。俺はお前のこと、尊敬してるぞ、ナマエ」


ナマエ。数年ぶりに呼ばれたその名前に、目を丸く見開いた。急にそんなことを言われてベタ褒めされて、何がなにやらと思っていたら最後に名前を呼ぶなんて……ズルすぎるよ、徳川くん。

それでも嬉しかった。私が彼のことを尊敬し、誇らしく思っているのと同じように、徳川くんも私のことを認めてくれていたなんて。昔と変わらない、同じ場所な立てていたなんて、そんなこと思わなくて。


会場から拍手がわいて、段幕が下ろされる。すぐに舞台袖へと引っ込む今まで劇をしていたクラスの人たち。そして、それと入れ替わるようにセットを搬入する私たちのクラスメイト。



「緊張、ほぐれたよ。ありがとう、徳川くん」



彼に勇気づけられて、あんなに速かった心音も少し落ち着いた。徳川くんの「ああ」という少し素っ気なくて落ち着いた声が耳に残って、再び幕が開いた時の拍手の音に気圧されることなく私はステージに上がることができた。











物語は滞りなく進んだ。私も徳川くんもみんなも、楽しんで演技をしているのが伝わってくるようだった。そして、流れるようにラストシーンへ滑り込む。


「あなたをずっと探していました」



徳川くんがその台詞とともに静かに私の足元へ膝まづく。そしてそっと手をとると、その瞼を伏せ、私の手の甲に唇を近づけた。ここまではリハーサル通り。私は今日の衣装やイメージの違う髪型も相まって、徳川くんの格好良さにドキドキしていたけど、頭の中では何度も次の台詞を思い浮かべていた。

大丈夫。ちゃんと言える。そう自分に言い聞かせていた時、予想外のことが起きた。


ふに、とやわらかいものが、優しく私の手の甲に触れたのがわかった。「え」と思うと同時にそれはそっと離れ、硬直する私は動かない頭をなんとか回転させて次は頭を垂れて、徳川くんがお姫様に懇願の台詞を言うんだ、と考えた。そして私が応えたら舞台は無事に終わる。

ショートしかけの頭でなんとかそこまで考えた私だったのに、手の甲から顔を離した徳川くんは、頭を垂れることなく、それどころかちらりと上目がちにその切れ長な目で視線を寄越して、そして言うのだった。



「好きです。ミョウジナマエさん。俺と付き合ってください」




ハッキリとしたその力強い声が、会場に響き渡った。しん、と静まり返った体育館の、お客さんの頭上にはことごとく疑問符が浮かんでいることだろう。もちろんそれは私も同じだ。
あんなに気を張ってたのに、私の顔はみるみる真っ赤に染まって、もう次の台詞も出てこない。真っ白な頭に浮かぶのはたったひとつの言葉だけで、それも意地悪な視線で見上げてくる徳川くんを前にしたら中々喉をせり上がらない。

けれど、一言一言を、噛み締めるように音を発して、言葉を紡いだ。




「……私も、好きです。……喜んで。」







「おめでとう!!!」



しん、と静まり返った体育館の中に、大きな祝福の声とともに一人の拍手が響いた。視線を寄越すとそこには生徒会長として文化祭の切り盛りをしていた神室くんがいて、その言葉と拍手に弾かれるようにわあっ、と会場は黄色い声に包まれる。


「……えっ、ええっ!?!?」


私は恥ずかしいやら信じられないやらであたふたしてしまうけど、徳川くんや舞台袖のみんなも出てきてぺこりと頭を下げるので私も慌てて同じようにした。

どうやら舞台は無事に終了したらしい。中学生活最後の文化祭も、無事に幕を下ろした。けれど、私たちの関係は。



「……なに、アドリブしてんの……めちゃくちゃ恥ずかしかった……」


「……神室に唆された」


「神室くん……最初から確信犯だったのか……」



鳴り止まぬ拍手の中、舞台袖でクラスメイトに渡されたペットボトルの水を片手に階段に腰を下ろす私たち。水を持ってきたクラスメイトや、後片付けをしていたみんなは気を遣ってくれたのか、ニヤニヤしながら別の場所へ移動してくれた。それに気恥ずかしく思いながらも、心臓はまだドキドキしてる。


「……でも、感謝しなくちゃ。私一人じゃ絶対、気持ちを伝えられなかったから」

「……そうだな。」


気まずそうにそう呟く徳川くんに、未だに両思いであることが信じられない。それを確かめるように、ドキドキしながらそっ、と距離を詰めてみると徳川くんは少しぴく、と反応した。そして眉間に少しシワを寄せてこちらを見る。


「……怖いカオ。お疲れさま」


「……お前、えらく軽いな……俺が言うのにどれだけ緊張したか……」



はあ、と漏らしたため息とともに項垂れる徳川くんに、目を丸くする。そんな素振り一切見せないのに、やっぱり徳川くんも緊張したりするんだ、と当たり前のことを思ってしまう。そしてくすりと笑ってしまう。好きだなあ、と思う。


「カッコよかったよ、徳川くん」


「……うるさいぞ」


「高校生になってもよろしくね」



「……ああ。」


笑顔とともに差し出した手のひらを、眉間にシワを寄せるのをやめて、優しい顔をしてくれた徳川くんがそっと握ってくれる。
この文化祭が終わっても、中学生活が終わっても、私たちの関係は終わらないみたいです。



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