「……ほおん。ま、できて当然やけどな。」



ミンミンゼミが鳴いてる。むせ返るような熱気がこもった体育館の扉からひとつ駆け抜けるような風が吹いた。


手渡したタオルで汗を拭いながらたった今し方終わった試合のスコアブックを引ったくって目を通す男はいつもの暴言を吐くことなくフン、と鼻を鳴らした。部活動に励む学生らしくない明るい金髪の毛先から、一筋の汗が伝って体育館の床を濡らした。


それ以上何も言うことなくドリンクボトルを片手に踵を返した男、宮侑は汗で張り付いたユニフォームを煩わしそうにたくし上げている。私はそんな彼の様子をぼんやりと見遣って、そして思い出したように雑巾を持って慌ててコートに入る。途端、思い切り滑って盛大に床に突っ伏した。顔を上げると相手チームの選手もその派手な音に何事かと視線を向けている。辛い。


「ダッサ」


少し離れた場所から冷たく見下ろして侑が言う。そんな彼をバレない程度に睨んで床の汗を拭く作業に専念した。



高校二年生、夏休み。今まで夏休みと言えば昼過ぎに起きて、テキトーな昼食を食べて、クーラーのきいた部屋でダラダラと漫画を読んだりテレビを観たりするだけのものだった。何の目標も将来の夢もない至って等身大の女子高生である私にとって。


それが今年の夏はちょっと違う。八月に入り全盛期を迎える夏の暑さは気温三十度を軽く上回り、そこに数十人の男たちが汗を流しながら白熱した試合を繰り広げるのだから、去年の私には考えられない光景が目の前に広がっていた。

私の通っている稲荷崎高校がバレーの強豪校であることは知っていた。けれどそんなことは私には関係なく、単に自分の学力のレベルと家から自転車通学できる距離の学校を選んだだけだ。そんな私が二年生に進級した時、幼なじみの銀島結に“バレー部のマネージャーやってくれへんか?”と両手を合わせて頼まれたのだ。


どうやら長年マネージャーなしでやってきたが、キャプテンの負担、そして監督の今年の全国大会へ懸ける期待が大きいとのことで急遽マネージャーを募集することになったらしい。人のサポートなんて向いてない、と初めは断っていた私だったが、できれば信頼のおけるチームの身内がいい、と頭を下げる幼なじみに力になりたいと思ってしまった。そして私は今ここにいる。



「ミョウジ。膝大丈夫なん。えらい音したけど」

「あ、はい。大丈夫です。いつものことなんで……」

「ほおん。ほんならええけど。ええ加減学習しいや。いつか大怪我すんで」


「……す、すんません……」


「お前落ち着いてやればできんねんから焦んな。もっと冷静なれ」


「すんません………」


「返事ははい。やろ」


「すんま………ハイ。」



雑巾がけを終えた私が戻るとキャプテンの北さんが私の赤くなった膝を見ながら声をかけてきた。一見心配していると思いきや思わぬ角度からジャブを放ってくる油断出来ない人だ。けれどその言葉はいつも的確で隙がなく、その正論に重みを持たせる彼の行動もまた思わず誰もが一目を置いてしまうほど洗練されたものだった。

この人がいるなら私必要なかったんじゃ……?キャプテンの負担とは……?と考えてしまうこともあるが、そんな私に彼は決まってお礼を言う。ドリンク作ってくれてありがとう、洗濯物ぎょうさんあんのに回してくれてありがとう、チームのために勉強してくれてありがとう。そう言われると、もう少しみんなの力になりたいと思うし、チームの一員であると認められているようでがんばりたくなる。なんて飴と鞭のうまい人だ。



「また北さんに正論パンチ喰らわされたん?顔死んどんで。」


「あ………銀、お疲れさま」



ユニフォームで汗を拭いながらやってきた幼なじみにタオルとドリンクを渡す。他の部員には配り終えたはず。確認のためにぐるりと辺りを見回していると、先ほどまで侑が開いていたスコアブックを手に取って捲る銀。そこで喉の渇きを思い出したのかそのまま床に腰を下ろしてドリンクボトルのキャップを捻った。天井を仰ぐと汗の伝う彼の喉仏が何度も上下する。開け放された扉の向こうから爽やかな風が入ってノートのページをパラパラとさらった。


「スコアブック書くの慣れてきたみたいやな」


「うん。銀が教えてくれた試合の動画見てたらなんとなく判断基準わかるなってきたわ。ありがとな」


「そうか。それならよかったわ。ラインジャッジやないねんから明確な判断基準はない思うんやけど俺はーー、まあでも」


「“全部見えてる人”がおるからな……」


「それなあ」


座り込む銀の隣になんとなくしゃがんで私たちが視線を向けるのは例の金髪の男。入部した当初は本当にコテンパンにやられた。たった数ヶ月で何かが劇的に変わるわけではないけれど、それでも先ほどこのスコアブックを見て鼻を鳴らしたアイツは少しでも私を仲間として受け入れてくれただろうか。悔しい気持ちと、ギャフンと言わせてやりたい気持ちが交差する。


「ありがとおな、マネージャー続けてくれて」

「えっ、どうしたん急に改まって」


「ナマエ、侑にえらい言われ方されとったやろ。ナマエやったらみんなに平等に接してくれるやろし、時間かかっても真面目に最後までやり遂げてくれる思て頼んだけど」


「…………」


「ほんまは心配やってん。キッツイことばっか言われて辛いんちゃうかて。誘ったらあかんかったんちゃうかて」


「…………そおやなあ」



体育館の向こう側ではまた何か侑が口喧嘩をしていて、その様子を少し離れた場所から淡々と動画撮影する角名。相手校の引いた視線が注がれる中、静かに我らがキャプテンが歩き出す光景を私たちはいつもの事のように眺めていた。


「初めは悔しくて不甲斐なくて仕方なかったけど」


「………」


「それでも試合になったら、あんまり楽しそうにみんなが燥ぐから、なんか私まで楽しなってもうて、この人らの青春に私の青春を懸けたい、おもてもうてんなあ」


「ははっ、青春てか」


「せやで。みんながアホみたいに楽しく燥ぐために、私ができることなんでもしたい思てもうたわ。ずるいなあ」


「そう思わせる奴がおることは分かるよ」


「うん。だからなんも心配することないで、銀。誘ってくれてありがとうな」



蝉時雨と熱気の中、時折心もとない風が頬を撫でる。でもそれだけでは足りなくて束ねた髪のうなじを汗が伝う感触がした。視界では案の定キャプテンの正論パンチを食らった侑が口を尖らせて項垂れている。不意にその様子を見ていた私たちの視線に気づき、眉を寄せて銀の名前を呼ぶ。なんやめんどくさいのに捕まってもうたな、と言いたげな苦笑いを残して銀は呼ばれた方へ走っていった。

と、そこに入れ替わるように相変わらずどこか気の抜けた無表情をたたえた男がのっそりとこちらにやって来た。男は先ほどまで侑と口論していた双子の片割れ宮治。ここ稲荷崎高校では知らぬ人はいないほど色んな意味で高い知名度を誇る兄弟だ。



「ドリンク替えある?」

「あ…うん。どうぞ」

「怒鳴ったら喉乾いてもうたわ、おおきに」



そう言って先ほどまで銀が座っていた隣へ腰を下ろす治くん。受け取ったドリンクボトルの口を開けると勢いよく喉を鳴らして飲んだ。私はと言うと少し銀と話をするだけの予定だったのに、思わぬタイミングで現れた彼の存在に完全に立ち去る機会を逃してしまった。でも今立ち上がってどこかへ行こうものなら、なんだか感じが悪い。まるで会話を拒否してるみたい、と余計な気を遣ってしまうのは私が少し、宮治くんを怖い、と思っているからだ。


怖い、と言えばえ?それ侑の方ちゃうの?と十人中十人に言われるだろう。ただ、私にとって思ったことをあけすけに言う良くも悪くも裏表のない侑よりも、いまいち何を考えているか分からない癖に、先ほどのように急に乱闘を始めたりする底の読めない治くんの方に妙な緊張を感じてしまうのだ。


「なんや、ここええ風入るやん」


「う、うん」


「さっきの試合の俺の決定率どれくらいやった?」


「えっ、あ、ええと……待って計算するから………」


「…………」


「……52.7%やね」


「そおか」


「…………(え、それだけ……??)」



相変わらずマイペースに質問するだけして言葉を切った治くんは飲んでいたドリンクのキャップを閉めるとごろんと横になった。寝転ぶと余計に彼の体格の大きさがわかる。ユニフォームのパンツの裾から伸びる長い脚は彼の大きな体を宙へ押し上げる逞しくしなやかな筋肉が隆起していた。


「……休憩、もうあと十分くらいで終わるで」


「知っとる。時間なったら起こして」


「…………」


寝転がった治くんの髪がさらりと横に流れておでこがあらわになった。侑とは違うすこしトーンを抑えたアッシュグレーの髪の毛が日の光に透ける。私はなんとなく監督やキャプテンに怒られやしないかと周囲の様子を伺ったが、別段誰も気にしていないようだった。各々が一番良い形で休憩を取れとのことだろう。

そんな私を相変わらずの無表情でじっと見上げていた治くんに気づく。いつもは頭ひとつ分以上高い位置にあったその顔を、こうして見下ろすとなるとなんだか不思議な気分になる。掻き分けた前髪のせいか、その特殊なシチュエーションのせいか、威圧感があって怖かった彼がどこか幼く見える。

いつもとは違う理由で心臓がひとつ大きく鳴った。



「…………」


「………(あ、寝た。はや。)」



数秒目が合ったのち、治くんは黙って目を閉じた。しっかりとした太めの眉が心做しか緊張をほどくように下がって、心地よさそうに寝息を立てて上下する大きな体はなんだか子供みたいだなあと可笑しくなった。
起こして、と言われたものだから移動するにもできなくなってしまった。この場を立ち去りたい気持ちと、でももう少しだけこの寝顔をみていたいかも、と思う気持ちとが綯い交ぜになって眠る治くんの隣に変な体勢で小さくしゃがみこんだままの私。そんな私たちを発見した侑が治くんに豪速球をぶつけてまたも喧嘩になるまであと数秒。











日中の暑さは少し和らいで、それでも肌に張り付くような湿気を含んだ空気と、沈みゆく真っ赤な夕日が体育館を満たしている。あれから更に休憩を挟みつつ三試合をこなした両校は目に見えて疲れ切っていて、体力モンスターだと思っていた宮兄弟もさすがにぐったりと項垂れていた。

ボール、ネットの片付け、床のモップ掛け。相手校の選手の手伝いもありあっという間に片付いた。私もタオルやドリンクボトルを洗い終え、日誌を書いて監督へ報告した。それを踏まえて今日の練習試合の反省会を終えた選手たちはやれやれと各々肩の力を抜きながら部室へ戻って行く。そんなみんなを見送り、私も戸締りの最終確認をして出ようとしたところ、ふと残っていた二人の相手校の選手と目が合った。


「今日はお疲れ様でした」


「お疲れ様でした。ええ勉強させてもらいました。ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ」


「めっちゃすっ転んでましたけど膝いけましたか?」


「えっっ、」


「オイ失礼なこと言うなや!!すんません、でもほんまに大丈夫ですか?気ぃつけてくださいね」


「え、いや、あはは……はい、大丈夫です……ご心配をおかけして……」



丁寧な対応をしてくれるのは相手校のキャプテン。さすがしっかりしてるけどそのフォローが今は心に刺さる。もう一層笑いものにしてくれ。その隣ですんません、となぜ怒られたのか疑問です、という顔で謝るもう一人の後輩に苦笑いをしながら返事する。


「稲荷崎でマネージャーさん見たのは初めてやったけど、今年から入ったんですよね」

「はい、全くの素人で毎日勉強の連続ですが……でも精一杯チームのサポートしたい、思ってます」


「はああ、なんや色々大変そっすね……強豪やし、バケモンおるし」


「はははは(ホントそうなんですよ)」


「今日マネージャーさん見てて選手のことよお見てはるんやな、思いました。大変や思うけど頑張ってくださいね。インターハイ、お互いベストを尽くしましょう。」


「えっ!は、はい、ありがとうございます!」


果たして私の何を見てそう思ってくれたのかは謎だったけど、こんな風に面と向かって褒められたのは久しぶりだ。それもほとんど初対面の人に。少し気恥しいようなそれでも嬉しさが勝って差し出された手を笑顔で握り返す。そんな私たちの間に隣の後輩の「あ。」という声が響いた。


「なんや、ミョウジさんまだこんなとこおったん」


「……あれ、治くん?」


「あ、お疲れ様です」


「お疲れ様です」


そう聞き覚えのある声に振り向くと、扉のところに立っていたのは治くん。ユニフォームの上をTシャツに着替え、ジャージを羽織っている。彼の方こそもうとっくに帰ったと思っていたのに何してるんだろう。キャプテンと挨拶を交わす治くんは相変わらず意図の読めない無表情でのっそりとこちらに近づいてきた。握手を交わしていた手がほどかれる。


「戸締り確認済んだ?」

「う、うん。あと入り口のドア閉めるだけ……て、どうしたん?もうとっくに帰ったかと思っとった」

「ミョウジさん待っててん。もう遅いから送ってくわ」


「えっっ…………!?」


「着替える?」


「えっ、あ、う、うん一応……」


「ほな下駄箱んとこで待っとくから終わったら来て」


日が沈むのは早い。体育館の中を赤く照らしていた夕日は気づけばすっかりその姿を隠し、向こうの空は夜の色を帯びてきている。

治くんは淡々と要件だけを伝えるとほな。と踵を返したが、思い出したように振り返ると「そや、インターハイお互い頑張りましょね」とキャプテンと固い握手を交わしていた。隣では圧を感じたのか後輩がうわあ、と悲鳴を上げている。


嵐のように来て去ってゆく後ろ姿に私の理解が追いつかない。え、なんで治くんが私を送ってくれるの?どういう風の吹き回し?様々な疑問がぐるぐると頭の中を巡ったが、とにかくこれ以上彼を待たせる訳にはいかない、と鍵を片手に残った二人と体育館を出た。













「治くん……!ごめん!お待たせ!」



まさか誰かと一緒に帰ることを想定していなかったからかなり焦った。汗ふきシートで体を拭いて、制服に着替えていると思ったより待たせてしまった気がする。急いで玄関へ向かうと大きな体を下駄箱に凭せ掛けてスマホゲームか何かに興じているところだった。

ほんとに待っててくれた。私が声をかけると淡々とおん。とだけ返事が帰ってきた。慌て気味にローファーを履くと少し先で大きく伸びをする治くん。


「ほな帰ろか」


「う、うん」



その合図とともに歩き出す私たち。半袖の制服の、肌が夏の夜風にさらされる。隣に並ぶべきなのか、半歩後ろを歩くべきなのか、微妙な距離感に戸惑っていると不意に治くんの右手に握られているものに気づいた。1リットルのカルピスウォーター。でか。それにストローさして飲んでる。


「………(どんだけ飲むねんこの人。乳酸菌ってそんな摂ってええもんなんか……?)」


「……飲む?」


「!!い、いい」


「あ、そ」



喉が渇いたと思ったのか、私の視線に気づいた治くんがそう訊ねてくれた。それを反射的に断ってしまったためまたも気まずい空気を感じる。いや、そう感じているのは私だけで、治くんとしては親切心かただの気まぐれか、ともかく私とこうして帰り道を歩くことになんの感情もないんだろうけど。


「なんか食べてく?」


「なんかって?」


「マクド入るとか」


「うーん夕飯入らんなるわあ」


「ほんなら肉屋のコロッケ。商店街にうまいとこあんねん」


「……治くんそんなお腹すいてんの?」

「おん。もう腹減ってしにそう。腹と背中がくっつきそう」


「っ、ふ、えっ、そんなに!?」



おん。部活終わりの男子高校生舐めたらアカンでえ、と続けられて堪らず吹き出してしまう。何考えてるかわからんこの人の中身、ほんまは食べ物のことばっかりなんとちゃうの。眠たいとかお腹すいたとか、今まで抱いていた治くんのイメージとのギャップに笑いが止まらんなってまう。

爆笑する私に「ごっつウケるやん」と淡々と返されてさらに笑いが止まらない。


「い、いやごめん……治くん、なんかクールやし何考えてるかわからんなあ思ってたから、ギャップがおもろくて……」


「なんも間違っとらんで。俺はクールな男や」


「あかんやめてもうお腹痛い」


気づけば隣に並んでた。近づいた距離、夜風に撫でられて爽やかなライムの制汗剤のにおいが届く。


「そういえば、なんで今日送ってくれたん?」


「なんでて、暗いのに女子一人やったら危ないやん。いつもは周りに誰かおるけど、今夏休みやし」


「そっか……ありがとう治くん」


「ほんなら俺もひとつ質問。」


「なに?」


彼に対する苦手意識はすっかり消え去り、すんなりと出てきた質問に対する彼の答えはあまりにもシンプルで、そして優しいものだった。ぶっきらぼうに見えるけど案外優しいんだ。そんなチームメイトの新たな一面を知ってほっとした気持ちになる。

そんな私にいつもと同じような眠たい目を向けた治くんはカルピスウォーターを一口飲んだあと淡々と言い放った。




「今年のインハイ優勝したら俺と付き合ってくれへん?」






「ぶっ、ごっほけほ、……………は!?」


何も飲んでいないはずの私が何故かむせて、治くんは相変わらず飄々とカルピスを飲んでいる。なんだ。どういうことだ。今何が起こった。



「……………ごめんどういうこと?」


「そのままの意味やけど。月末のインターハイ優勝できたら付き合ってください」


「…………な、なんで………?」


「なんでて……好きやから?」



淡々と言ってのけた治くんに立ち止まって顔を真っ赤にする。そんな私を振り返って治くんはまた私の知らない新しい表情を見せる。にやりとした意地悪そうな笑顔。そうや、この人あの宮侑とDNAおんなしなんやった………!!!!


「……か、考えさせてください」

「考えるも何も大会月末やっちゅうねん」

「…………」



「ま、全力で他のチーム叩き潰したるから、その勇姿ベンチで見といてやあ」



日はどんどん暮れてゆく。闇に溶け込む向こう側、いつの間にかでっかいパックジュースぜんぶ飲み干した彼がそれをごみ箱へ捨て、行くで。とこちら側で立ちすくむ私を待っている。草むらから聞こえる虫の鳴き声と、国道を通る車の排気ガスの音だけが無言の私たちの間に横たわっていた。


「寒ない?」

「あ……うん、平気。ありがとう……」


「とりあえず腹減ってしゃあないからはよ商店街行くでーー」


「う、うん」


やっぱり掴みどころがない。優しいのか意地悪なのか、本当のところ何を考えているのかもわかりそうでわからない。くわ、と大きく欠伸をする隣を歩く男を見上げて思う。けれど並んだ歩幅、私に合わせてくれているのだと気づく。時折掠める手の甲は自分のそれとは比べ物にならないほど大きい。その大きさを比べてみたい、と少しだけ思ってしまった。


ほんの少しだけ、夏の終わりに夢を馳せた。



18042021




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