!単行本21巻までの知識で執筆しました。本誌との矛盾が多々あります。また、不快に感じる描写があるかもしれません。なんでも許せる方のみ観覧をお願いいたします。








「シオーーーン」










「お手。」






人好きする笑顔を浮かべた小柄な女は自分の小さな手を差し出すと俺に向かってそう言った。言っておくがここは休日の渋谷のフードコートの一角で、周囲にはカップルや家族連れが山ほどいる。奴らは女のその言葉を聞いてぎょっとするようにこちらを見る。


「んっなのんなとこでするわけねーーだろ!!アホか!!頭イカレてんのか!!」


「えーーーお家ならいいの?」


差し出された手をバシッと振り払うと不満げに小さな口を尖らせる。そんな俺たちのやり取りを周囲は遠巻きに、しかし興味津々といった面持ちで伺っていた。それにわざとらしく舌打ちをしてまだミックスジュースを飲んでいた女の腕を引っ張って無理やり立たせる。


「行くぞ。ちんたら飲んでんじゃねーよ」


「ちょっ、いったいなあ。ご主人さまには従順じゃなきゃダメでしょう」


「…………」



もう誰かこの女を黙らせてくれ。じゃなきゃ俺まで変態だと思われちまう。


女の見た目は小柄でアイボリーだとか、色素が薄い感じの色が似合う雰囲気をしている。実際、今日もビミョウにサイズの大きなざっくりと編まれた淡いピンクのケーブルカーディガンを着ている。対して俺はこめかみに入った刺青、両耳のピアスに口元の傷。そのアンバランスさが余計に人目を引いていた。


この女はいわゆる俺のいとこというやつで、俺の母親の兄がこいつの親父だ。勘当同然に家を出た母親とこいつらの家との関わりは皆無に等しいが、それでも自分たちの面を汚されるのは嫌なのだろう、俺がガキの頃から悪さをする度実家の誰かがそれをもみ消した。


それは約五年前俺が少年院送りになった時もそうだった。罪状に釣り合わぬ収容期間。まるで殴っても殴っても手応えの感じられないぬいぐるみか何かを相手にしているようだった。フラストレーションが溜まる一方、ふと頭のネジを一、二本抜いてしまえば世界は案外簡単なもので構成されていると知る。殴る奴が居れば殴られる奴が居る。搾取すればされる奴が、それで世界のバランスが成り立っているならば、俺は自由に誰かの頭を踏んずけて上に立てる人間なのだ。それの何が悪い。



「じゃあ今からペットショップに行こうね。きみに似合う首輪を買ってあげる」


「うっせーーぞ黙れ変態女。テメーにギャグボール噛ませて散歩してやろーか」


「ハイハイそうしてほしいならまた今度ね」



そう言って優しく笑った女は空になったプラスチックのカップをゴミ箱に捨てようと俺の少し先を鼻歌交じりで歩いていく。そこに、ふいに小さな子供が飛び出してきてぶつかった。後から駆け寄ってきた母親が頭を下げる。相変わらず人好きのする笑みを浮かべて対応する女の元に、遅れて俺がやって来ると、母親は血相を変えて子供を連れ足早にこの場から立ち去った。

母親に手を引かれ遠ざかっていく子供はぼんやりと俺たちから目を離さない。そんな子供に女はなおも優しい笑顔で手を振る。




「私、子供大嫌いなんだよねえ」




穏やかな笑顔でそう言った女は片手に持っていたカップを無造作にゴミ箱へ捨てた。


高級住宅地にそびえ立つでかい家。手入れの行き届いた庭、いつ何時も塵ひとつ落ちていない美しい屋内。栄養バランスのとれた旨い食事。望むもの、教養、権力。そのすべてが誰かの犠牲の上に成り立つ虚構であるならば、その中で飼い殺される気分はどんなものだろう。きっと頭のネジの二本や三本は外していないと正気など保てない。



「でもね、ペットは好きだよ。特に乱暴な犬を従順に躾けるのは得意なの」


「キッッッッショ。悪趣味」


「ねえ、シオン。シオンだけはマトモでいてね。お利口さんの私の犬でいてね」



休日のショッピングモール。並んで歩く俺たちの横を好奇の視線が滑っていく。気ぃつけろ、俺なんかよりこの隣の女の方が余っ程タチが悪いしイカレてんぞ。いや、そんな女にマトモ認定されてる俺もどっこいどっこいか。


ガキや動物は良い人間と悪い人間を見分けると聞いたことがあるが、果たしてあの子供の目に俺たちはどう映って居たのだろうか。またはこれから向かうペットショップで店中の犬に吠えられたりするのだろうか。それはちょっと面白ぇ。



「やっぱりレザー素材の黒かな。トゲトゲがいっぱい付いたやつ」


「そんなん落ち落ち昼寝もできねーじゃねーーか」


「えっっっ。首輪は散歩の時だけと思ってたけど……。いつの間にそんな従順になってくれてたの……。私嬉しい!!」


「あーーーーー例え話だ例え話!!!!うっせえ!!!キメェ!!!離れろ殺すぞクソ女!!!」


「おいでおいでイイコイイコしたげる。やっぱりシオンはかわいいねえ。アメリカン・ブルドッグに似てるよねえ。だからトゲトゲの首輪きっと似合うよ」



「誰がブルドッグだ!!!そもそも俺が首輪つける前提の話ヤメロ!!!!」



どんだけ殴っても手応えのねえぬいぐるみみてえ。噛み付いて、腕を千切って、腸を出しても、変わらない笑みを湛えて腐った家の中で飼い殺される。
麻痺した感覚はより濃度の高い脳内麻薬物質を欲する。より鮮烈な痛みを、刺激を。


なんだかんだ言って、この女と並んで歩くことを楽しむ俺もまた既に感覚が麻痺しているのだろう。





先天性被/加虐趣味的主従関係

07032021

bgm ドーパミント!/東京事変


すみません……



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