長編2 | ナノ
少しだけ、走り出す



『いただいていたクエストを請け負ってくれる人が見つかりました』

少し前に、私が待ち侘びていた連絡が入ってきた。

エレンピオス人は皆、自分で解決できない問題があるとクランスピア社の運営するクエスト斡旋所に行って依頼を出す。
そして報酬を払って、誰かに手伝ってもらえるようお願いする。

些細な事でも依頼できるし、クエスト報酬で生計を立てている人もいるくらい、ポピュラーな制度なんだよね。

それで、今回私が出した依頼には私も同行するから、今はクエスト斡旋所で請負人に会いに行くところ。
どんな人なんだろう。

短い時間だけど二人で行動することになるから、良い人じゃないと困るんだけど……
まあ、会ってから考えればいいかな。

斡旋所はトリグラフの端にある。
とは言え着くまでにそう時間はかからなくて、あっという間に斡旋所の看板が見えてくる。

「こんにちは。依頼人のセレナです」
「いらっしゃいませ。請負人の方はこちらです」

クエスト依頼のファイルを確認してから、斡旋人のお兄さんがカウンターの奥を示した。
目をやる前に、少しだけ緊張する。

「依頼者の方がお見えですよ」

お兄さんの声に、奥にいた請負人さんがこっちに振り向いた。

……あれ?

「あなたは確か……」
「君はえっと、セレナ?」

私の前に立ったのは、この前図書館でぶつかった銀髪のお兄さん。
名前は……そうだ。

「ルドガーさん!」
「覚えててくれたんだな」


ルドガーさんはそう言って笑う。
良かった。間違ってなかったみたい。

「私の事も、覚えててくれたんですね」
「ああ。けどこんなに早くまた会うとは思ってなかったよ」

そうだ。クラン社で会いましょうなんて、そんな話をした気がする。

「ルドガーさんが請負人なんですか?」

私が振り返ってそう聞くと、斡旋人のお兄さんは頷いた。

「セレナが出した依頼だったんだな」
「はい。請け負ってくれてありがとうございます」
「ちょうどいい内容の依頼だったから、俺の方こそありがとう」

そう言ってルドガーさんは柔らかく笑う。

「戦闘エージェントになる為には、魔物討伐のクエストをこなさないといけないからな」

けれど、その言葉が意外なもので、私は目をまるくしてしまった。
てっきりルドガーさんは、私と同じで開発エージェントあたりを目指していると思ってたから。

「ルドガーさん、戦闘エージェント目指してたんですね」
「なんだよ、そんなに不釣合か?」

少しだけ拗ねた様子を見せるルドガーさん。
気を悪くしてしまったかな。謝らないと。

「ごめんなさい、図書館の時のことで、てっきり開発エージェント目指してるのかと思ってただけなんです」

私がそう言って頭を下げると、ルドガーさんは慌てていつもの調子に戻った。

「あっ、俺こそごめん!
あんまりにも兄さんに『お前には向いていない』って言われすぎて、ちょっとムキになっちゃって……」
「お兄さんに?」
「……ああ。けど、今日のクエストを成功させて、向いてないなんてことないって証明してみせるさ」

また明るい表情に戻ったルドガーさんに安心する。

きっと、お兄さんは心配してるんだろうな。
私にも妹がいるから、分からなくもない。
戦闘エージェントって傭兵みたいなもので、命を懸ける仕事だもんね。

「とにかく、セレナは変な心配しなくていいからな。よし、行こう」

そう言って、ルドガーさんは斡旋所から出ていく。
私は遅れないように、斡旋人のお兄さんに挨拶をしてから後を追った。


エラール街道に出てすぐ、ルドガーさんが立ち止まる。

「この先は魔物が出るから、セレナは俺から離れないようにな」
「はい。その為に依頼しましたからね」
「ちゃんと守り抜くから。約束する」

私は彼の言葉に頷いてみせると、バッグの中から一丁の拳銃を取り出す。
ただの拳銃じゃなくて、黒匣が搭載されているんだけどね。

「これが試作品です」

ルドガーさんは私から銃を受け取ると、それを眺める。
大まかな仕組みを説明すれば、ルドガーさんは感心した様に言う。

「これをセレナが作ったのか?」
「そうですよ。これを提出して、今度の考査を乗り切るつもりです」

彼の驚いた顔に、満更でもないと思っちゃったりして。

今回私が依頼したクエストの内容は、この銃型黒匣のモニタリングテスト。
これを黒匣工学の期末考査に提出する為に必要なのだ。

「将来は、クラン社で武器の開発をしたいと思ってて」
「そう言えばセレナ、開発エージェント志望って言ってたもんな」

銃の使用感を確かめていたルドガーさんが、心得たと言った感じに頷いてくれる。

本当なら戦闘エージェントに頼みたいところだけど、学生が依頼するには敷居が高い。
だからクエストを利用したんだけど、まさか戦闘エージェント志望の人が来てくれるとは、運が良かったかもしれない。
少しだけど知ってる人だし、まさしく良い人そうだし。

「それじゃあ、よろしくお願いします。何かあった時のために、機能は劣るけどスペアもあるので、取り替えたいときは言ってくださいね」
「分かった。こちらこそよろしく。良いレポートが書けるように協力するよ」

こうして、エラール街道の魔物討伐が始まった。


失礼かもしれないけど、私が想像していたよりもルドガーさんは強かった。

エラール街道の魔物はトリグラフの中でも弱い分類のようだけど、それでも魔物は魔物。
私は彼の後方で、ただただ周りを警戒しているだけしかできない。

実戦経験どころか、魔物をこんなに近くで見たのは生まれて初めてだったし。
けど、ルドガーさんはちゃんと私の目的を踏まえて、深追いもせず群れからはぐれた魔物を一匹ずつ狙ってくれた。

「この銃、良いな。軽いけど射程が長くて反動も少ないし」

ゲコゲコを仕留めたルドガーさんが、私に振り返る。
もう何匹も魔物を倒したけど、まだ疲れている様子は無い。

戦闘エージェントを目指して特訓してるって言うのは、本当だったんだ。

「ありがとうございます!普段はどんな銃を使うんですか?」

比較をレポートに盛り込むのも良いかもしれない。
そう思って聞いてみると、意外な答えが帰ってくる。

「普段は双剣だよ。銃は練習した事くらいしかない」
「それだけ!?練習程度しか使ったことなくて、これだけ扱えるんですか?」

これは、すごい才能の持ち主なのかも。
事もなさげに言うルドガーさんだけど、数ある武器の中でも銃は人を選ぶ。

「それだけって、さっきセレナが使い方教えてくれたじゃないか」

からからと笑うルドガーさんに、私はどうもこの人の事を勘違いしていたのかもしれないなと思い始めた。

図書館での事で、良い人だけどちょっと頼りなさげと言う印象を持っていた。
戦闘エージェントになりたいなんて意外だなと思ったし、話に聞く彼のお兄さんと同じく、心配な気持ちもあった。

けどここまでの道中で、すごく頼りになったし戦いの才能もあるのかもしれないと言う気がしてきた。

「よし、この調子で行こう。まだ色々試した方が良いだろ?」

考え込んでいた私の意識を、ルドガーさんの問い掛けが呼び戻す。

「あっ、はい!銃弾の種類も黒匣を操作すれば変えられるので、次はそれを」
「了解。じゃ、もう少し先に進もうか」

そう言って内蔵黒匣をいじりながら歩き始めるルドガーさん。
だんだんと頼もしく思えてきたその背中を少し見つめてから、私も歩き始めた。


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