1万hitお礼企画作品 | ナノ

Happy kindly new year


普段ならクランスピア社の制服に見を包んだ人達が行き交う大通りは、がらんとしていてどこか寂しい。

リーゼ・マクシアのような季節の移り変わりは無いものの、年に一度のこの光景が年の瀬を迎えるのだと実感させる。
賑やかな商業区とは違い、オフィス街のあるチャージブル大通りは閑散としていた。

「全然人がいないね〜。」

マンションフレール302号室のリビングの窓から、外を眺めてエルが言う。

「ナア〜。」

エルと並んで同じ様に眼下の景色を眺めていたルルは、相槌を打ってからキッチンへと目をやった。

「ルドガー、ちょっとこれ見てもらってもいい?」
「ん?どうしたなまえ?」

「ルドガー達、忙しそうだね。」
「ナァ。」

なまえの声に釣られて視線を移したエルは、並んでキッチンに立つルドガーとなまえを見て言った。

二人はエルがクリスマスにプレゼントした色違いのエプロンをして、なまえの前にある鍋をのぞき込んでいた。

「これ、甘すぎるかな?」

なまえが鍋の中身をひとさじ掬って味見する。
それを見ていたルドガーが、なまえの持つスプーンごとその手を握って、残りを自分の口に運んだ。

「いや、俺はこのくらいが好みだな。」
「そっか。ならこれでいいね。」

安心したように笑うなまえは、もう片方の手で鍋に蓋をする。

その一連を見ていたエルは感心して呟いた。

「なまえ、ずいぶん慣れたよね。」
「ナア〜!」

それにはルルも同意らしい。
確かに以前のなまえなら、今のルドガーの行いで固まってしまっただろう。

名残惜しそうになまえの手を離したルドガーが、今度は手元のボウルの中身をひとつ摘んでなまえの口に入れた。

「うん、美味しい!」
「そうか?良かった。」

こんなやりとりも今では自然に行われている。

「よし、じゃあ全部完成だな。」

壁掛け時計に目をやり時間を確認してから、ルドガーはそう言うと持っていた皿をテーブルに置いた。

「わあ、なにこれ!?おいしそう!」
「エル、まだ食べちゃダメだよ?」

途端に目を輝かせてテーブルに寄るエルの前に別の皿を置きながら、なまえが笑う。

「それはお煮染め。こっちは栗きんとんね。」
「オニシメ…?」
「野菜とかお肉を煮た奴だよ。
リーゼ・マクシアの田舎の料理なんだって。」

首を傾げるエルになまえが料理を指差しながら説明していく。
その間にも、次々とルドガーが別の皿を運んできた。

「後はこれを箱に詰めれば完成だな。」
「ナア〜!」

中が赤く外側か黒い箱を取り出して、ルドガーは次々と料理をそこに詰め始めた。
それを見上げているルルが一鳴きし、少し自分も食べてみたいと主張する。

「ルルも、明日になったらだぞ。」
「今夜は別のごはんがあるからね。ルルには普通の猫缶。」

そう言ってなまえがルルの皿に彼の夕食をよそう。
味もカロリーも別格なロイヤル猫缶は、明日までお預けのようだ。

「トシコシって面白いね。」

ルドガーが得意気に重箱の中身を見下ろしている横で、エルがルドガーとなまえを交互に見ながら言った。

「なんか、わくわくする!」


年末の休暇は家でゆっくり過ごそうと提案したのはルドガーで、なまえとエルは今夜ルドガーの家に泊まることになっている。
年始はジュードやレイア達とも集まることになっているので、この休暇もあっという間に終わってしまいそうだ。

「明日は兄さん達のところに年始の挨拶に行って、その後ジュード達がうちにくるからみんなで食べような。」

ルドガーは最後に煮豆を盛りつけて、にこりと笑った。

「これ全部合わせておせちって言うんだよ、エル。」
「オセチかー。エル聞いた時ないからどんな味がするか楽しみ〜。」

朝からルドガーとなまえがせっせと作ったおせち料理は、明日みんなで食べようとルドガーが提案したものだ。

「さて、明日の準備も終わったし後はのんびりしよう。」
「はーい。あ、なまえとルドガーは二人の世界に戻っていいよ?さっきみたいに!」

そんなエルの言葉には、さすがに二人して頬を赤らめたのだった。


「エル、寝ちゃったね。」

時計の針が0時まで残り10分を指したところで、なまえが寝室から持ってきたブランケットをエルにかけてやる。

"年越しソバ"と言うクランスピア社の新商品を食べてからテレビを見て過ごしていた三人と一匹だったが、エルとルルはいつの間にか寝てしまったようだ。

「日付が変わる直前に起こしてやろうか。じゃないとあとで怒られそうだ。」
「ふふ、そうだね。」

二人とも幸せそうに眠る少女の横顔に自然と柔らかい表情になる。

「エル、今年は本当に沢山がんばったもんね。」

横になるエルの頭を撫でながらなまえが言う。

故郷を、父親を亡くしたエル。
一時は自らの消滅さえ覚悟していた幼い少女。

しかし、エルの頑張り無しにはオリジンの審判は越えられなかった。
なまえもルドガーも、この一年に起こった怒涛の出来事を思い返しながらエルの寝顔を見ている。

「今年は、特別な一年だった。」

なまえの隣に座ったルドガーがぽつりと呟く。
未だエルに視線を向けているが、どこか遠くを見つめているようだった。

「うん…そうだったね。」

なまえも、エルを撫でる手を止めて答える。

お互いに普通ではありえない経験をし、今までと大きく環境が変わった年だった。

「けど、悪いことばかりじゃなかったな。」

そう言ったルドガーはなまえに向けて優しく微笑む。

「なまえに出会えたし。」

「私も、ルドガーに出会えて良かった。」

なまえも同じ表情になってそう返す。

「去年までは、ユリウスさんに弟がいたなんて夢にも思わなかったくらいだし。」
「俺も、兄さんの会社での話はほとんど聞いたことなかったから。」
「明日クレーム言わなきゃ。なんでもっと早く教えてくれなかったんですかって。」

そう言いながらなまえは笑う。

「こんな素敵な人のこと内緒にしてたなんて酷いです、ってね。」
「俺も、こんな可愛い子いたなら紹介してくれよって言わないと。」

ルドガーも楽しそうに笑った。

なまえが、改まってルドガーに向き直る。
そしてぺこりと小さく頭を下げた。

「今年はお世話になりました。」

ルドガーもそれを真似て頭を下げる。

「こちらこそ、お世話になりました。」

「来年もよろしくお願いします。」
「俺の方こそ、来年もよろしくお願いします。」

そして二人とも顔を上げる。

照れくさくなって、二人して声を上げて笑った。

「うぅん…二人ともさわがしいよ…」

その声に意識を呼び戻されたエルが身じろぎした。

「エル、起きろ。もうすぐ年が変わるよ。」

時計を確認したルドガーが、ちょうど良い頃合いだとエルを起こす。

「え!?ほんとに!?」

その言葉に一気に目が覚めたらしいエルが起き上がる。

壁掛け時計の短針と長針が重なるまで、あと2、3分になっていた。

「二人とも何してたの?」

向き合ったままのルドガーとなまえを見て、エルが不思議そうに首を傾げる。

「うーん、年越しのごあいさつかな?」
「そんなところだな。」

「ふーん。じゃあエルもごあいさつする!」

顔を見合わせた二人に、エルが言った。

それからエルはソファから降りると、ルドガーとなまえの横に立った。

「二人とも、今年はいろいろありがとう!」

そして、少しだけ間を置いてから眩しいくらいの笑顔を浮かべた。

「来年もよろしくね!」

その時、どこからか年明けを告げる鐘の音が聴こえてくる。
つけっぱなしだったテレビ番組からも、新しい年を祝う音楽が流れてきた。

「あ、もう今年になっちゃった!」
「ナア〜。」

照れたようにはにかむエルの足元で、起きてきたルルが
鳴く。

「あけましておめでとう!ルドガー、なまえ、ルル!」
「あけましておめでとう。」
「おめでとう!」
「ナァ!」

元気よく告げるエルに、ルドガーとなまえとルルが続く。

「知ってる?リーゼ・マクシアだと、新年になると精霊にお願い事をするんだって。」

レイアから聞いた話を思い出したなまえが言うと、ルドガーもエルも、ルルさえも首を傾げる。

「願い事って例えばどんなのだ?」
「うーん、健康とか金運とか…?」

レイアは恋愛運がどうとか言ってたけど…と呟きながら、なまえは記憶を辿る。

「じゃあエルはねー…」
「あ、エル!お願い事は人に教えちゃ駄目なんだよ。」

エルの言葉の続きを、なまえが慌てて遮った。

「お願い事は心の中で、精霊に向けて祈るんだって。」
「へー。精霊って、ミラとかミュゼとかか?
…もしかしてオリジン?」
「うーん、どうなんだろう?
少なくともクロノスには祈りたくない気がするけど…」
「叶えてくれなさそーだもんね!」

そう言いつつ、三人は頭を捻りながらも願い事を考える。

「よし、俺は決めた。」
「私も。」
「エルもー!」

それぞれ目を瞑り、頭の中で願い事を告げる。
思い思いの精霊達に向けて。

「ばっちりお願いしたよ。」

エルが胸を叩くと、ルドガーもなまえも微笑んだ。

「エルは何をお願いしたんだ?」
「えっとね、エルはルドガーとなまえと…」
「エル!だからダメだよー!」

ニヤリと笑みを浮かべたルドガーが聞くと、素直なエルはすぐに答えようとする。
しかしそれはなまえがきちんと制した。

「あっ!もうルドガーのイジワルー!」
「あはは、悪い悪い。
けど、多分エルの願いは言ったって叶うよ。」

足元でルドガーを軽く叩くエルの頭を撫でて、ルドガーは自信満々に答える。

それには、苦笑しながらもなまえも大きく頷いた。

ルドガーもなまえも、エルの願い事が何かは少女の顔を見ていれば分かった。
それに、三人とも同じ願い事をしたのだから。

「とにかく、今年もよろしくな。」
「よろしくー!」

なまえは二人の顔を交互に見て、幸せな気持ちが胸いっぱいに広がるのを感じた。

「今年もよろしくね!」

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「ルドガーと年越しのお話」のリクエストで書かせていただきました。

エレンピオスに果たしてお正月の風習はあるのでしょうか?(笑)
ドラマCDのジャケットでルドガーユリウスエルが初詣している絵がとても好きです。

ただこの年はユリウスやビズリーの喪中(?)なのであまり派手にお祝いするムードにはしませんでした。
が、湿っぽいのも兄さんにしかられそうなので、こんな感じにさせていただいた次第です。

りも様、リクエストありがとうございました!

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