1万hitお礼企画作品 | ナノ

炭よ、ありがとう。


日の光を反射して、水面がキラキラと輝いている。
白い砂浜に寄せては返す波が飛沫を上げ、気持ちの良い音を立てていた。

そんな水際をパシャパシャと走る、水着姿がふたつ。

そのひとつは、ピンク色のワンピースタイプの水着のフリルを揺らしながら駆けるエル。
もうひとつは、ミントグリーンと白のドット柄のビキニ姿でその後を追うなまえだ。

「待ってよーエル、転ぶよー!」
「だいじょーぶだし!はやくあっちの広いとこに行こうよー!」

二人はきゃいきゃいと笑い合って、視線の先にある開けた場所を目指す。
その少し後ろから、ルドガーとミラ、ジュードが二人を見守りながら歩いてくる。

「まったく、エルはともかくなまえまであんなにはしゃいじゃって。」
「エレンピオス人のなまえにはこんな綺麗な海は珍しいだろうから、仕方ないよ。ね、ルドガー?」
「あ、あぁ。そうだな。」

腕組みし呆れたように言うミラに、いつも通り苦笑いでそれを諌めるジュード。
しかし話を振られたルドガーは、ルルカラーのパーカーに見を包み、心ここにあらずで生返事をした。

(落ち着け俺!まだ一日は長いぞ!)

その視線の先にはミントグリーンと白のドット柄。
そして普段目にすることがあるわけも無い、曝け出された背中や太腿。

(本当に良くやった、エル!)

海水浴に行きたいとエルが言い出した日から、何度目か分からない心の中でのガッツポーズを決めるルドガー。
分史世界で訪れたキジル海瀑の美しさに、エルは、すっかり虜になってしまったらしかった。

そして意外にもなまえがすぐにその話に食いつき、ジュードやミラ、他の仲間達も誘って皆でやってくることができた。

アルヴィンとレイアは先に行って場所取りと魔物払いをしてくれており、ローエンとエリーゼ、ガイアスとミュゼも後をついてきている。

ちなみにルルはあまり水に触れたくないのか、ふらりと散歩に行ってしまったようだ。

「みんなおそーい!」

水色と白のストライプのビキニに日焼け後が眩しいレイアが、現れた一行を見つけて手を振る。

その横で、黒いボディスーツの上だけを脱いだアルヴィンが、もぐもぐと口を動かしていた。

「あーっアルヴィン、なんか食べてるー!レイアも!」

二人の元に駆け寄ったエルは、アルヴィンとレイアの手に見なれない串に刺さった食べ物が握られているのを見つけた。

「おたくらが遅いから、手持ち無沙汰だったんだよ。」
「イカ焼きって言うんだってー。あそこにお店が出てるの。」

そう言ってレイアが指差した先には、この海瀑に似合わない、屋根のついた厨房のようなものが数件並んでいた。

「イカヤキ…ヤキソバ…カキゴオリ…?」

エルはその屋根に書かれた文字を、一つ一つ怪訝な顔で読み上げていく。

「あれ、うちの社の飲食事業部門が考案したやつだ。
新しい形態で外食産業に革命を起こすとかなんとか、部長が熱弁してたっけ。」

エルの隣に並んだなまえが思い出したように手を叩く。

「確か名前は…そう、屋台だったはず。」
「でもなんでわざわざこんな所に?」
「あ、ジュードたちも!遅いよーもう。」

なまえの話を聞いていたらしいジュード達もやってくる。
ジュードのその疑問はもっともなものだ。

「どうも、世界中ありとあらゆる場所に展開することで需要を調べてるんだって。まだ試用段階みたいだから。」
「こんな魔物が出るかもしれないところにまで出店するなんて、仕事熱心なのか無謀なのか。」

(なまえの生足…なまえの生背中…)

「ミラの言うことももっともだけどよ、食ってみると結構イケるぜ。」
「ほんと?アルヴィン、それ飲食エージェントに伝えさせてもらっていいかな!?」
「そんなエージェントまでいるのかよ!まあ俺は構わねえけど。」

(なまえ、あんまり動くと…あああアルヴィンに寄ったら駄目だ!!!)

「なまえ!」
「ん?なに?」

突然ルドガーに名前を呼ばれ、なまえが振り返る。
しかしルドガーはハッと目を見開き、ただふるふると首を横に振るだけだった。

「どうしたの、ルドガー?どこか具合悪いとか?」

心配そうにルドガーを覗き込むなまえ。

(ややややめ、やめろなまえ!
俺にも、そんなに寄ったら…けど寄って欲しい!だめだ寄って欲しくない!!…いや欲しい!!!)

「なまえ、ルドガーはちょっと暑さにやられてるだけだから大丈夫だよ。」

困ったように笑いながら、ジュードがルドガーの肩に手を置いて代わりに返答する。

「ルドガー、あっちの滝にアタマつっこんできたら?」
「それより私が今ここでスプラッシュを浴びせてあげるわ。」

「い、いや、遠慮します…」

エルとミラに詰め寄られたこともあり、いくらか冷静さを取り戻したルドガーだった。

そこへ、残りの仲間達もようやく追いついてくる。

「あら、美味しそうな匂いがすると思ったら。」
「ミュゼも何か食べたら?私、次はフルーツ焼きそば食べたい!」
「良いですね、私も食べたいです!」
「ずるいぞー!ボクもー!」
「まだ食うのかよ…」

ミュゼ、レイア、エリーゼとティポが屋台に熱い視線を送る横で、アルヴィンがレイアに呆れた声を上げた。

「良いではないですか。女性はたくさん食べる方が健康的で素敵ですよ。
では、今日はジジイが奢らせていただきましょう。」
「まぁ、嬉しいわ〜。」
「ほんとにローエン!?ありがとう!」
「ローエン流石です!」
「キャー、ローエンカッコイイー!」

ローエンが自慢の髭を撫でながらウィンクする。
ミュゼ達は、ティポまで黄色い声を上げて屋台へ向かうローエンに着いていった。

「ローエン、やるな。」

その後を、頭にタオルを巻いたガイアスが見送る。

「ふんどし、だけどな…」
「エル、フンドシって初めて見た。」
「あんまりまじまじ見ると夢に出るよ?エル。」

アルヴィンがローエンの後ろ姿を見て呟くと、エルが難しい顔でまじまじと見たこともないその水着を凝視した。
しかしなまえがそう返すと、エルは慌ててその逞しい臀部から視線をそらしたのだった。

「さて、僕たちはどうしようか?海に入る?」
「エル、入りたいー!」
「あなた波に攫われそうだから、ついていってあげるわ。」

ジュードが、話題を変えようと提案すると、エルは元気よく手を上げて答える。
ミラは仕方なさそうな物言いだが、何だかんだ楽しそうな表情を浮かべていた。

「俺は砂浜を走る。」

そう言い残し、ガイアスはあっという間に走っていってしまう。
蹴り上げられた砂埃で辺りが真っ白になり、ガイアスの姿は見えなくなった。

「俺はここでのんびりしてるわ。食ったばっかりだしよ。」
「私もエルたちと海に入ろうか…」
「なまえ!」

砂浜に座り込んだアルヴィンの後になまえがそう言うと、突然それを遮ってまたしてもルドガーがなまえの名を呼んだ。

「どうしたのルドガー、やっぱり具合悪い?」
「いや、気分は最高だ!」

一同の注目を浴びながら、ルドガーは爽やかな笑顔でそう言い放つ。
なまえ以外の全員が呆れた顔をしていたが、そんなものは彼の目には入らない。

「その辺散歩しないか?ルルがどっか行っちゃったから探すついでに。」

(完全に、ルルは口実だな。)
(ルドガー、頑張れ…!)
(馬鹿馬鹿しい。)
(ルドガー、またツイデって言ってる。)

「ほんとに?それなら、水辺を歩きたいな。」
「勿論!水辺でも水中でも火の中でも歩く!」

見守る四人の気も知らず、なまえは密かに想いを寄せているルドガーからの申し出に胸をときめかせていた。
なので、ルドガーのおかしな物言いにも気づいていない。

「けど、私で良かったの?」
「良いに決まってるだろ、じゃあ気が変わらない内に早く行こう!」

少しだけ不安そうにミラを横目で見てから、なまえがそう問う。
しかしルドガーはオーケーされたことで舞い上がっていて、気にも留めず歩きだそうとした。

「魔物が出るかもしれないから、早くルルを見つけないとな!」
「みんな!魔物だよ!!」
「ほら、魔物が…って、ん!?」

右手と右足を上げたルドガーの言葉に、遠くから叫ぶレイアの声が重なる。
反射的に返事を返しかけたルドガーだったが、慌てて屋台の方に目をやった。

そこには、水棲型の魔物が水から上がってきたらしく群れをなしていた。

「大変だ!屋台の人達に被害が出る前に倒さなきゃ!」
「エルはそこの岩に隠れてて!」
「わかった。みんな気をつけてね!」

ジュードが先陣を切って駆け出す。
なまえはエルに隠れる場所を指示して同じように魔物へ向かう。
そしてルドガー、アルヴィン、ミラもそれに続いた。

元々魔物が出ることは想定していたので皆武器の用意をしていたこともあり、すぐに魔物を取り囲むことに成功した。

「ロックブレイク!」
「ネガティブゲイト!」
「旋風棍!
みんな気をつけて、この魔物変な黒い液体を噴くよ!」

ローエン、エリーゼが精霊術で何匹かの魔物を纏めて消し去る。
レイアが棍を振るいながら、あとから来た仲間達に注意を促した。

「エザリィフリック!
こいつらはスミを吐く魔物ね。毒ではないけど目に入ったら大変よ。」

ミュゼが魔物を睨みつけながら同じく注意を促す。
しかしルドガー達も大人数なだけあり、あっという間に魔物の数は減っていった。

「カタラクトリボルバー!これで終わりか!?」
「ええ、そうみたいね。」

共に技を放ったルドガーとミラがあたりを見回す。
どうやら視界にもう魔物はいないようだった。

棍を肩に担いで、レイアが安堵のため息をつく。

「はあ、びっくりしたね〜、けどもう安心かな!」

しかしその時、後ろの岩陰から黒い液体が飛んでくる。

「レイア、危ない!」

レイアの向かいにいたなまえがそれに気付き、慌ててレイアを突き飛ばす。

「わっ!なまえ!?」

レイアは間一髪のところで飛んできたものを避けることができたが、止まりきれなかったなまえが背中にその液体を受けてしまう。

「きゃあっ!」
「なまえ!!!」

砂浜と言えど地面に叩きつけられ、しかも背中に衝撃を浴びたなまえは意識を失ってしまった。

「グオオ!」

ルドガーが一目散になまえに駆け寄ろうとするも、岩陰からそのスミを吐いた魔物が現れた。

「さっき倒した魔物より大きいです!」
「強そうだよ〜!」
「親玉のようですね。」

エリーゼとティポ、ローエンが口々に言う。
確かにその魔物は、先程までいた魔物達と同じ様だが数周り大きいものだった。

「あのスミを浴びると厄介そうだな。遠くから攻撃できる奴が気を引くぞ!」

「その必要はない。」

銃を構え、舌打ちしてからアルヴィンがそう言い放つ。
しかしそこへ、遥か遠くから駆けてきたガイアスの声が響いた。

「遅くなってすまん、俺に任せろ!」

そう言いながら、ガイアスは走りつつ刀を構え、力を込める。

「はぁぁぁぁぁぁ…!」

「待てガイアス!」

だが、しばらく俯いて黙っていたルドガーがそれを制した。
ルドガーは双剣を握り締め、わなわなと震えている。

「こいつは…俺がやる!!」

憎しみの炎を燃えたぎらせ、ルドガーは魔物を睨みつけた。

しかしガイアスも刀を構えてしまった手前、このままでは一匹も魔物を倒していないのもあって物足りないらしい。
引き続き力を溜めると、それを解き放った。

「では、共に決めるぞ!はぁぁぁぁぁぁ!!」
「分かった!うおおおおお!!!」

それならと、ルドガーも双剣を握る手に力を込める。

「機は熟した!」
「なまえとの散歩を!」
「閃剣斬雨!!」
「邪魔しやがって!!」

ガイアスの力が具現化され降り注ぐ光の雨を、絶叫しながら駆け抜けていくルドガー。

「む…一体何があった?」
「貴重な生背中を汚しやがって!! 駕王閃裂交!! 」
「が、駕王閃裂交!!」

あまりのルドガーの気迫に押されたガイアスだった。
だが若干タイミングがずれつつも、二人同時に魔物を斬りつける。

ほとばしる閃光。
広がる衝撃波。
叫ぶ魔物と飛び散る屋台。

激しい断末魔の後に、魔物の親玉は消え去った。

ルドガーはそれを確認することもせずなまえの元に駆け寄る。
なまえはレイアに治癒術をかけてもらい、エリーゼとミラに支えられて座っていた。

「なまえ、大丈夫か!?」
「ルドガー、平気だよ。ありがとう。」

なまえはもう大丈夫だと立ち上がって見せ、ルドガーはほっと胸を撫で下ろした。

「ごめんなまえ、私のせいで…」
「ううん。治癒術ありがとう、レイア。」

申し訳なさそうに眉を下げるレイアに、なまえは心配無用と笑いかけた。

「なまえ、背中が汚れちゃってます。」
「せっかくの水着も、黒くなっちゃってるよお…」

エリーゼとティポがなまえの背中を払ってやるが、スミはなかなか落ちないようだ。

「仕方ないよ。けど、着替えに戻ろうかな。」

残念そうな表情でなまえがそう言った。
それを聞いたルドガーは、2000万ガルドの借金を背負わされた時並の絶望を味わう。

しかしそんな彼の視界に、いつの間にか戻ってきたルルが映る。

「そうだ!」

ルルを見て閃いたかと思うと、ルドガーは着ていたパーカーを脱いで、なまえに差し出す。

「これ着てろよ。それなら後ろは見えないだろ?」
「ルドガー、メイアン!」
「だろ?」

純粋なエル以外は生暖かい目でその様子を見ていたが、なまえはなまえでその提案に戸惑っていた。

「え、借りちゃってもいいの?これ、ルドガーが着てた…」

最後の方は誰にも聞こえない小ささで、なまえはそう呟く。
ルドガーはずいとパーカーを差し出し、今日一番の力強さで説得した。

「これなら濡れても平気だから、このままみんなとここで遊べるだろ。
俺は平気だから!そう、たまには日焼けしてみたいと思ってたし!」

「嘘くさ…」
「ミラ、言ってやるな。」

ミラとアルヴィンがコソコソ話している声に気付かないなまえは、やがて遠慮がちにだったがそのパーカーを手に取り、ゆっくりと羽織る。

「じゃあお言葉に甘えて借りるね。ありがとうルドガー。」
「ああ、どんどん甘えてくれていいぞ!」

「ジュード、今日のルドガーはジョーゼツだね。」
「多分、暑さにやられてるんだよ、エル。」

「後ろ、これで平気だよね。スミ、透けて無い?」

一応確認してもらいたいらしいなまえがルドガーに背中を向ける。
しかしそれがいけなかった。

(こ…これは!!!)

ルドガーが目を見開く。

パーカーは男物のサイズなので、なまえが羽織ると背中どころか腰の下まで覆われてしまっている。

下がビキニなので、まるで裸にパーカーだけを羽織っているように…ルドガーには見えた。

(俺のパーカーを、なまえが、裸に、パーカーだけ…!)

なお、なまえは裸ではない。

「ルドガーが考えてること、当ててやろうか。」
「ほっほっほ、アルヴィンさん、ジュードさんが今にも殺劇舞荒拳を放ちそうですよ?」
「ややややめろって優等生!てかお前も分かってんのかよ!」
「もうアルヴィンてば!やめてよ…ってルドガー!」

「ルドガー!!しっかりして!」

ジュードがアルヴィンに詰め寄ろうとした瞬間、ルドガーが頭から倒れ込んだ。
なまえがすぐに駆け寄り、仰向けにする。

「ルドガー!?ねえどうしちゃったの!?」
「すごい血だよ〜!」

どこかで聞き覚えのある台詞を、ルドガーの顔を見たティポが言う。

「おやおや、鼻血のようですね…」
「ルドガーしっかり!レイズデッド!」
「いやまだ死んでないからねレイア。治癒功!」

なまえの生膝に頭を乗せられ、ルドガーは遠のく意識の中思う。

(俺は今、最高に幸せです!)

一方その頃、ガイアスは散らばった屋台を片付けさせられていた。

「むう…どうして俺だけ…」
「ホラあんた!文句言ってないでさっさとしとくれ!こちとら商売上がったりだよ!」
「そもそも俺達以外には魔物しかいないのに商売も何も無いだろう…!」
「あぁん?アンタが壊したんだろう!」
「俺だけではないのに…何故だ、何故なのだ…」
「ガイアス、頑張ってね〜。」

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長編夢主でルドガーお相手のギャグのリクエストで書かせていただきました。
ガイアスが使い勝手良すぎて…ごめんね、ガイアス。

原作に水着衣装があるので、一度書きたかった水着イベントをテーマに選んでみました。

ちなみにタイトルを「安心してください、着ています」にしようか血迷いましたがやめました。
雪奈様、リクエストありがとうございました

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