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セレナが最後にエル達の元へ辿り着くと、ミラがエルの前に跪き共にカナンの地へ行くことを誓っているところだった。

それからミラは続ける。
カナンの地は全時空で唯一“魂の浄化と循環”を行っている場所であることや、分史世界が増え続けていることによりその浄化が破綻寸前にあるということ。
そしてその浄化が破綻した時世界には“瘴気”が溢れることや、それは人にとって猛毒であることなどを説明した。

「カナンの地に住むと言われている大精霊オリジンは、なんとかしてくれないんでしょうか」

エリーゼの問いにミュゼが険しい顔で答える。

「多分その価値が人間にあるかどうか試すのが、オリジンの審判なのでしょうね」
「……つまり、カナンの地に辿り着き、審判に合格してみせるしかないわけだな」

ガイアスが腕組みしながら言う。
それを受けてミラが大きく頷いた。

「そして、大精霊オリジンに願うのだ」
「『全ての分史世界を消滅させてほしい』って……」

ジュードが続きを呟いた時、ルドガーのGHSが着信を告げた。
それはヴェルからの、時空の狭間から障害が消えたことを確認したと言う連絡だった。

ヴェルの淡々とした声に、ジュードが思わず声を荒げる。

「クランスピア社はリドウに何を命令したんですか!」
『え?リドウ室長が何か?』

ヴェルが一瞬だけ素の声色を出した。
それによりジュードは、あの一連の事件はリドウが単独で行ったのだと理解せざるを得なかった。
セレナを見れば、彼女も心底申し訳なさそうな表情で首を横に振っている。

『ただし、時空の狭間は現在かなり不安定な状態になっています。
分史世界への侵入が可能なレベルに落ち着きましたら、またご連絡します』

そう言ってヴェルは通話を切った。
ジュードは未だに怒りの行き所がなく拳を握りしめていた。

「勝手なことばかり……!」

そんなジュードの肩を、ミラが優しく叩いた。

「私が無理矢理実体化したせいだ……断界殻を解放した貴重な猶予のマナを使ってしまっているからな」
「じゃあ……」

ジュードがミラの顔を見上げた。
ミラは相変わらず凛々しい表情で告げる。

「この世界に長く留まることはできない」

ジュードは目を見開き、悲しげに瞳を揺らがせた。
予想はしていたことだったが、本人が口に出すことでそれは現実に変わる。

その時再びルドガーのGHSが鳴る。
着信の相手はまたヴェルだった。

どうやらビズリーが、ルドガーに『本物のマクスウェルに会いたいから連れてこい』と命じたようだった。

「みんな、マクスウェルのミラのことばっかり……」

セレナの耳には、消え入りそうな声で呟いたエルの声が届いていた。
セレナはルドガーの横に立つと、彼のGHSに向かって声をかけた。

「ヴェルさん」
『その声は、セレナ様ですか』
「今日はもう遅いので、父への面会は明日でも構いませんか?皆を一度休ませてあげたいのですが」

ヴェルは数秒黙り込んだが、どうやら隣にはビズリーがいるらしく、是非を確認してから予定を調整しているようだった。

『……かしこまりました。ルドガー様、社長は明日は9時から30分程度時間が空いておいでですので、そこにアポイントを入れておきます』
「……分かった」
『それでは失礼します』

そう言って再び通話は切れた。

「あの社長にとっちゃあこれも仕事の一環、ってか」

アルヴィンが皮肉を込めて言う。
セレナはルドガーの隣で申し訳なさそうに眉を下げていた。
それを見てか、ローエンが口を挟んだ。

「せっかくセレナさんがお父上との間に立って提案して下さった貴重な時間です。今日はもうゆっくり心と身体を休めましょう」
「そうだな。俺達も和平条約締結の報せを各方面にせねばならぬ」
「……俺も、ノヴァから督促が来てるから手続きしたりしないと」
「ま、俺も仕事あるしおんなじか。じゃあ、明日また集まろうぜ」

ガイアス、ルドガーが続ければ、アルヴィンが頭を掻きながら最後にまとめた。

それを合図に皆それぞれ帰路につきはじめた。
セレナはローエンに歩み寄る。

「ローエン、ありがとう」
「なんのことですかな?それより、セレナさんもお疲れでしょう。ゆっくりとお休みください」

そう言って、ローエンはただ微笑むだけだった。

それからレイアとエリーゼがセレナの元へやってくる。
レイアがエルの方を見ながらセレナに耳打ちした。

「……エルとルドガーにはセレナが着いていてあげてくれるかな」
「私達じゃ、エルを余計に傷付けてしまいそうなので……」
「セレナにしか頼めないんだよう」

エリーゼとティポもレイアに続けた。
セレナはそれに力強く頷くと、レイア達に軽く手を振ってルドガーとエルの元へ駆けて行った。

「エル……トリグラフへ戻ろう?」

セレナはエルに手を差し伸べる。
エルはその手をしばらく見つめた後にゆっくりと取った。
それからセレナはルドガーに顔を向ける。

「明日、私も一緒に行くね」

ルドガーは頷き、そしてエルの反対側の手を取った。

「帰ろう」

そうして、2人はエルを促して駅へ向かって歩き出した。

その3人の後ろ姿を、ミラが静かに見送っていた。



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この辺りからエルが段々静かになっていってしまうの、寂しいですよね。



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