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ある朝。

「そーだルドガー、たまにはセレナとごはん食べよう!ルドガー作ってあげてよ!」
「セレナに?」

ルドガーの家で朝ごはんのキャラメルバナナパンケーキを頬張りながら、エルが突然言い出した。

「そう!この前、セレナもいっしょにごはん食べたいって言ってたから、ルドガーに頼んであげるねって言ったんだー」

エルはキジル海瀑でセレナと約束したことについてルドガーに説明した。

「ね?いいでしょ?」
「ああ、そうだな。なら今日の昼飯でも誘ってみるか。だめなら夜でもいいし」
「さんせー!」
「午前中ジュード達とクエスト受けにいく約束があるから、それが終わったら食材買いに行かないとな」

善は急げだ。そう言いながら、ルドガーは早速セレナに予定確認のメールを送信した。


Character episode1 私のいない世界


「あ、メールだ。ルドガー……?」

兵装開発部門のオフィスで相変わらずパソコンに向かっていたセレナは、傍らに置いてあるGHSが震えていることに気付き、メールを開いた。

“突然だけど、今日の昼うちに昼飯食べにこれないか?エルの提案。”

ルドガーからのメールの内容はこうだ。
セレナは一旦メール画面を閉じてスケジュール管理アプリを開く。
それから再びメール画面に戻し、”返信”のボタンを押した。
その口元には笑みが浮かんでいる。


「セレナ来れるってさ」
「やったー!」

すぐにOKの返信が来て、2人はハイタッチをした。

「じゃあちゃちゃっとクエスト終わらせないとだね!」
「おう!」

ルドガーは2人分の食器を手早く片付けると、出掛ける支度をし始めた。


「あっさり終わったね」
「ジュードのお陰だよ」
「あら、私もいるけど?」
「勿論ミラもだ」
「ま、分かってるなら良いけど……」

クエストは、トルバラン街道の魔物退治を何件かこなした。

ヘリオボーグへ行くのに街道を使うジュードと、暇だからと言ってミラが同行してくれた為、ルドガーは予定の時間より早く完了報告を終えることができた。

「このちょーしで買い物へゴー!」

エルが拳を突き上げながらまるでバレリーナの様にくるりと回転して見せた。

「なあに?買い物って。そんなに楽しみなの?」

ミラが呆れた様な声で、しかし微笑みながら言った。

「ルドガーがごはん作って、セレナといっしょに食べるんだよー!」
「セレナと?これから?」
「そう!あ、ミラも来る?いいよねルドガー」
「ああ、勿論。人が多い方がセレナも喜ぶんじゃないか?」
「別に私はどっちでもいいけど……あなた達がそう言うなら」

ミラは相変わらず照れ隠しなのかそっぽを向きながらも付き合いが良い。

「ジュードもどうだ?」
「僕も良いの?そうだね、ぜひご馳走になろうかな」

ルドガーがジュードも誘い、このまま全員で店に寄ってからルドガーの家に行くことにした。


「お邪魔しまーす!」
「どうぞ」
「メガネのおじさんの家だけどね!ルドガーはイソーロー」

約束の時間きっかりにセレナが到着した。
わざわざ私服に着替えて来たらしい。

ルドガーがダイニングまで案内すると、その足元から顔を出したエルが付け足す。
一言余計だ!と、ルドガーはエルの頭を小突いた。

「わあ!美味しそう!」

セレナが席に着くと、すぐにルドガーが料理を配膳してくれた。

カリカリに焼いたベーコンの乗ったグリーンサラダに、オニオンコンソメスープ、それからオムレツ。
横にはバターロールが添えられている。

「これ全員ルドガーが作ったの!?」
「今日のパンは買ってきたやつだけどな」
「話には聞いてたけど、ほんとにすごい!」

セレナは目の前に置かれた料理に目を輝かせた。

「冷めないうちにどうぞ」
「わあい!いただきまーす!」
「さ、みんなも食べてくれ」
「いただきまーす!」

セレナに続いてエル、ジュード、ミラも手を合わせた。
ルドガーも席について、全員で食べ始める。

「美味しい!これ、トマトオムレツなんだ!」

セレナはオムレツを頬張って、再び目を輝かせた。

「エルのはチーズオムレツ!」

エルはトマトが嫌いなので別メニューにしてもらっているのだが、何故か自慢気だ。

「前にアスコルドで、トマトオムレツ食べたいって言ってたろ?」
「覚えててくれたんだ」

ルドガーがニコニコしながら答えると、セレナは驚いた。
それを見て、ルドガーは得意気に頷いた。

ジュードがスープに息を吹きかけて冷ましながらセレナを見る。

「セレナはルドガーの料理食べるの初めてだったんだね」
「うん。なかなか機会が無くって。エル、ありがとね」
「えっへん!」

褒められたのが嬉しいらしく、エルは満足そうに頷いた。

「セレナは料理するのか?」

あまり私生活について話したことがなかったルドガーの疑問に、セレナは頬を掻いた。

「普段はしないかな。というかほとんどしないんだけど……させてもらえないって言うか」
「そういえばあなた、お嬢様なんだってね」
「セレナもパパが作ってくれるの?」
「さすがにビズリーさんは作らないだろうね」

ミラが言うと、エルが首を傾げる。
ジュードが冷静にツッコミを入れた。

「普段はシェフが作ってくれるよ。お父様は家で食べないことも多いけど。
私もお昼は大体社員食堂か外でランチとかだから」
「シェフ!?すごー」
「あそこ社員食堂あったんだ」
「うん。でもこっちの方がかなり美味しい」

エルとジュードでは気になるポイントが違うらしい。
ジュードに答えたセレナは、ほぼ無くなりかけているトマトオムレツを指差した。
ルドガーは満足そうに頷いている。

「私は一応料理も習ったけど、こういう家庭料理はあんまり」
「習ったって、お抱えシェフにか?」
「うん。一応……いつでもお嫁に行ける様にって」
「お嫁に!?」
「ビズリーさん、そう言うことさせるの意外かも……」
「……古い考え方ね」
「セレナ、ケッコンするの?」

ルドガーの問いにセレナが答えると、全員違った反応をする。
しかし全員を驚かせてしまったセレナは苦笑いをした。

「一応、クランスピア社社長の娘だからね。いつかは”そういう相手”と結婚して家庭に入ることになるんじゃないかな……」
「政略結婚……ってことだね」
「私が嫁に行って政略が成り立つか心配だけど」

頭の良いジュードは、セレナが言わんとしていることを簡潔に言い当てた。
セレナは最後のオムレツを飲み込むと、空になった皿に目を落としてそう言った。

「セレナは自分の好きなひととケッコンできないの?」
「どうだろう。まだ相手がいるわけじゃないし、もしかしたらその人を好きになるかもしれないし……」
「あなたはそれで良い訳?」

エルが悲しげな顔をして聞くので、セレナはなんとか心配させまいと言葉を探していた。
しかしミラの核心をついた問いに、黙ってしまった。

全員の皿は綺麗に空になっていたので、ルドガーは沈黙したままそれを流しに片付け始めた。
ごちそうさまーと、エルが行儀良く両手を合わせた。

「あ、ルドガーごちそうさま!」

セレナは慌てて自分の皿を持ち上げるとルドガーの元へ持って行く。
そしてミラに振り返った。

「私、お父様には返しきれない恩があるから」
「だからって……」

ミラが続けようとしたが、それはルドガーのGHSの着信メロディに遮られてしまった。

『分史世対策室です。新たな分史世界が発見されました。
侵入点はトリグラフです。座標をお送りしますので、よろしくお願いします。』

電話の相手はヴェルで、いつも通り分史世界破壊任務の連絡だった。

「仕事?」
「ああ」

ジュードがルドガーの顔を覗き込みながら聞くと、ルドガーは頷いた。

「私も行くね」

セレナが流しに皿を置き、ルドガーに振り返る。
ルドガーがいいのか?と問えばセレナは笑って見せた。

「勿論。仕事は一段落ついてるから、上司には連絡しておくね」

そして自分のGHSを開いた。

「僕も行くよ。ごちそうさまルドガー」
「ミラもいこ?」

セレナが電話をかけている後ろで、ジュードが急いで洗い物をしているルドガーの横に残った食器を運びながら言った。
エルは今だに釈然としない顔をしているミラを気遣いながら、その手を小さく引いたのだった。



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たまにはオリジナル展開を。



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