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「ねぇねぇ見た?入り口出たところにいたイケメン!」
「見たー!しかもすっごいガタイ良い人じゃなかった?」
「そうそう、その人!」

セレナはオフィスに入ってきた同僚の女性達の話し声にふと顔を上げた。
出社してきたときにはそんな人物はいなかったはずだが。

「セレナは見なかったの?」

隣の席に座ってパソコンを立ち上げながら同僚の一人が言った。

「私早めに来てたから、見なかったな」
「えー勿体無い!」
「そんなにかっこよかったの?」
「そんなにかっこよかったんだってば〜。
渋くてさぁ。見慣れない顔立ちだったし、リーゼ・マクシア人なのかな」
「まだ居るし、見て来たら?ここからじゃ顔分からないよ」

もう一人の同僚が窓から下を眺めて言った。

さすがに20階から下の大通りにいる人の顔が認識できるほど普通の人間の視力は良くない。
セレナはパソコンの画面と同僚の顔を交互に見てから、どうしたものかと苦笑いした。

「そういえばうちの新しいエージェントと一緒にいなかった?」
「えー、イケメンしか見てなかった」
「名前なんだっけ……銀髪の。戦闘エージェントって聞いた気がしたけど」

「銀髪のエージェント……?」

その言葉を聞いて、セレナの頭に一人の青年の顔が浮かんだ。

「それってどんな格好の人だった?」
「うーん、青っぽいシャツ着てたような気がする」
「ほんとに?私、ちょっと行ってくるね」
「何、セレナはそっちの方が好み?」

頭を捻る同僚にセレナが答えると、謎のイケメン推しの同僚が怪訝な顔をした。
セレナはその言葉に慌てた様に首を振ると、パソコンと繋いであった黒匣を取り外してポケットにしまう。

「そ、そう言うわけじゃないよ!知り合いだと思うから、ちょうど話があっただけ!」

そう言ってセレナは立ち上がると、急いでオフィスから出て行った。

「……あやしい」
「こっからじゃ見えないから見に行く?」
「君たち、この後営業部門との打ち合わせだよね……?」

課長が呆れた様子で2人に言うと、彼女達は顔を見合わせてから慌てて資料の用意をし始めたのだった。

Chapter9 ガイアスの試験

「やっぱりルドガーだった!みんなも、おはよう」

セレナがビルを出ると、通りに面した一角に今だに小さな人だかりが形成されていた。
その中に目当ての人物を見つけて、手を振りながら歩み寄った。
レイアとミラもいたようで、輪を作っている。
ルドガーが向き直り、エルも大きく手を降った。

「おはよう」
「セレナだ!おはよー!」

「……あっ。確かにガタイの良いイケメンだ」

セレナは仲間達の元にやってくると、ルドガーと話していたらしい男を見上げて小声で呟いた。

「ん?ガタイがなんだって?」
「いやいや、こっちの話。上で噂になってたの。人だかりができてる中に新人エージェントがいたって聞いて、ルドガーかなと思って」
「ルドガー、ウワサになってるって!ユーメイジン!」
「ははは」
「だらしない顔だこと」

ルドガーに顔を覗き込まれたセレナが慌ててごまかすと、エルの言葉にルドガーが満更でもなさそうに頭を掻く。
それをミラが白い目で見ている。

セレナは心の中でルドガーに謝った。

(ごめん、噂になってたのはこっちのイケメンさんなんだけど)

その時セレナの頭の中に、先程同僚に言われた言葉が蘇る。

『セレナはそっちの方が好み?』

(こ、好みとか、別に……)

そしてチラリとルドガーの横顔を見て、その言葉を掻き消す様にブンブンと頭を横に振った。
どうもあのキジル海瀑での出来事が頭をよぎる。

エルが不審な顔をしてセレナを見ている。

「ルドガー、こっちは」

その様子を見ていた男が、セレナを指してルドガーに問いかけた。
セレナはハッと気が付くと、男に向き直って一礼した。

「すみません!私はセレナ・ロザ・バクーと申しまして、クランスピア社の者です」
「セレナも分史世界破壊を手伝ってくれてるんだよ」

レイアがセレナの後ろから顔を出して補足してくれる。
男は紅い瞳を細めてセレナの顔を見た。

見返したセレナは、どこかでこの男と会ったことがあるような気がしてきたが、思い出せない。

「ああ、ローエンから聞いている。お前がセレナか」
「ローエンのお知り合いで……って、もしかして!?」

セレナはそれを聞いて、男の顔を凝視した。
すると、この男とは会ったことがあるのではなく、見たことがあるのだと言うことに気付いた。
しかも、テレビや新聞で。

「まさかリーゼ・マクシアのガイ……」
「アーストだ」

しかしセレナの言葉はその男によって遮られた。
呆気に取られて男の顔を見れば、有無を言わさないと言った表情である。

「あ、アースト……さん?」
「そうだ。一介の市井の男、アーストだ。
ただの金持ちの道楽息子でな。一般人故、敬語はいらないぞ」

「セレナの考えてる通りの人なんだけど、付き合ってあげてくれる?」

レイアがセレナに耳打ちした。
アーストはそれをチラリと見たが、何も言わなかった。

「よろしくお願いしま……よ、よろしくね、アースト」
「うむ」

そう言ってセレナが恐る恐る差し出した手を握りながら、ガイアスは敬語はいらないと有無を言わせぬ雰囲気で目を見開く。
そして、セレナがしっかり”アースト”と呼んだことに満足したのか、大きく頷いた。

しかし目と目が合うと、セレナはその紅い瞳に圧倒され、たじろぎそうになってしまう。

(この目、何故か苦手……)

けれどもすぐにそれでは失礼だと自らを叱咤し、何事もなかったように微笑みを返したのだった。
ガイアスはその様子に気付いてはいたものの、何も言わなかった。

2人の握手を見届けると、ルドガーが話し出した。

「ちょうど任務が入ったんだ。アーストも来るって」
「そうなんだ。私も、また次の任務に連れて行ってくれるよう頼もうと思ってたんだ」
「じゃあ、セレナも一緒にいこー!」

セレナの言葉にルドガーが頷くと、エルが元気良く続けた。

「まさかルドガー、国王とまで知り合いだったなんて」
「あはは……」

ローエン、ジュードも有名人だが、アースト……ガイアスはさらに超のつく有名人だ。
しかしまさかこんなところで知り合いになるとは思わなかったセレナは、同僚達が”ガタイの良いイケメン”と盛り上がっていたこの男の横顔を盗み見て、首を捻った。



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BNGルームでしたっけ?ビックリナイスな便利グッズ開発ルーム。
そこが夢主のオフィスなんですね。
……階数あってるかな。




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