14-02
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ルドガー達がようやく地上に出ると、目と鼻の先にトリグラフの入り口が見えた。
その時タイミング良くルドガーのGHSが着信を告げる。
その相手とは……
『俺だ。無事かルドガー?』
「兄さん!」
電話から聞こえてきたのは彼の兄の声だった。
15年も一緒に暮らしてきたのに、もう随分とその声を聞いていなかったように感じる。
ユリウスは電話口で、ルドガーがカナンの地へ行く決意がどうしても変わらないものなのか確認した。
ルドガーは、どうしても行かなくてはならないと答える。
『分かった……こうなったらお前はもう引かないだろうな』
ユリウスはおそらく電話の向こうで溜息をついているだろう。
だがその声色は優しく、呆れたように笑っているのかもしれない。
『全てを話そう』
「兄さん……!」
『俺は今トリグラフにいるんだが、先にジュードをうちのマンションの前に送ってきた』
「ジュードは無事なんだな」
ユリウスの話が聞こえたミラが安心したように言った。
ユリウスはそれを肯定してから話を続ける。
『ジュードから聞いた。俺はこれからセレナのところへ行く。
すぐに片付けて彼女も連れて行くから、お前達はうちで待っていてくれ』
「俺も行く!」
『お前を待っている時間はない。それに、アルクノアくらい俺一人で十分だ』
「でも……!」
『お前も連戦で疲れているだろう?こっちは任せておけ。じゃあ切るぞ、時間が惜しい』
ルドガーの返事を待たずにユリウスが通話を切ってしまった。
「兄さん……」
ルドガーは暗くなったGHSの画面に目を落としながら苦しげに呟いた。
しかしミュゼがルドガーの肩にふわりと手を起き、優しく言う。
「行きましょう。私たちもセレナのことは心配だけど、あなたのお兄さんなら大丈夫……でしょう?」
「ミュゼの言う通り、ユリウスに任せて平気だろう。セレナかて戦うことができるしな」
「ユリウスがああ言ったのには何か訳があるのだろうしな。私達は先に戻っていよう」
ガイアスとミラもそれに賛同し、ルドガーを促した。
ルドガーは後ろ髪を引かれながらも、喧嘩別れのような形になってしまったままのセレナの無事を兄に祈った。
「ジュード!」
「みんな、無事で良かった……」
ルドガーは自宅マンション前のトリグラフ公園に着くとすぐにジュードの姿を見つけた。
ジュードはゆるりと顔を上げ再開に安堵したが、その表情は何故か暗いままだった。
「さあ、あとはユリウスがセレナを連れてくるのを待とう」
ミラがジュードの様子を伺いながらそう言った。
しかしジュードは苦しげに眉を寄せると、消え入るような声で告げた。
「ユリウスさんは多分、戻ってこない」
「えっ?どういうこと?」
ミュゼが驚いてジュードに問う。
他のメンバーもジュードの態度に疑問符を浮かべている。
「セレナのことを助けたらここを離れるって言ってた。それで、伝言を頼まれたんだ。
……決心がついたら来い、って」
「決心?」
今度はルドガーが怪訝な顔で問いかけた。
ルドガーの目を見るジュードの瞳は揺れている。
「ユリウスさん、カナンの地へ入る方法を教えてくれたんだ。カナンの地へは、“魂の橋”を架けてそれを渡らないといけない……って」
「魂の橋?なんだそれは」
「さっきのあいつも橋がどうとか言っていたけど……聞いたことがないわね」
ミラやミュゼにも馴染みの無い単語らしく、二人は顔を見合わせる。
ジュードは一呼吸置いてから、一同が思いもよらなかった事実を告げた。
その拳はきつく握り締められており、僅かに震えていた。
「強い力を持ったクルスニクの一族の命を、ひとつ……生贄にする。それが魂の橋を架ける方法なんだって……」
「なんだと!?」
ガイアスがジュードに詰め寄る。
他の3人はあまりの衝撃に言葉を失っていた。
「強い力を持ったクルスニクの一族……」
我に返ったミラがジュードの言葉をゆっくりと復唱する。
ミュゼがルドガーの後ろ姿を見た。
「つまり、ルドガーかユリウスを……殺せば、ってこと?」
その言葉に、ルドガーが目を見開かせる。
ジュードは力無く頷いた。
「ユリウスさん、家にルドガー宛の手紙を残してきたって言ってたんだ。とりあえずそれを……」
ジュードが言い終わる前に、ルドガーは一目散にエントランスへと走って行ってしまう。
その横顔は怒っているようにも、泣き出しそうなようにも見えた。
後に残された仲間達はその背中を無言で見送ることしかできなかったが、やがてジュードが顔をあげ、“もう一つの伝言”について語りはじめたのだった。
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原作沿いなので、どうしても更に悲しい展開が続きます……
Chapter15に行く前に、またオリジナルの章を挟みます。
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