ゴールデンウィーク
ゴールデンウィーク。
それは、皆大好きワクワクな連休である。
私達もGWだぜ、イエーイ、練習ないぜー!!
…なんて、そんな甘い現実が名門聖蹟サッカー部にあるわけもなくー
『……ちょっと。柄本君、風間君知らない?』
「え…風間君? そういえば…見当たらないですね。ど、どうしよう、もうすぐバスが出発しちゃうのに…!」
『……あの馬鹿っ…!』
今日から、2泊3日の合同合宿。
集合場所・集合時間をちゃんと守るように言っておいた筈なのに、風間君の姿は見当たらない。部員は次々とバスに乗りこんでいるし、もうそろそろ出発の時間だ。
『仕方ない…私と風間君はタクシー拾って後で追うから。だから、風間君の遅刻がバレて、連帯責任の罰として走らされたくなかったら…』
「……な、なかったら?」
『1年生全員で力を合わせて、先輩にバレないようにしなさい。』
「は、はいっ!」
『健闘を祈る!!』
「ありがとうございます!!」
ビシッと柄本君に敬礼をすれば、柄本君も敬礼で返してくれた。嬉しいな、可愛いな。にやけそうになる顔を何とか抑え、最後に柄本君がバスに乗ったのを確認。
間もなく、エンジンがかかり、排気ガスを出しながらバスが出る。その後ろ姿が見えなくなるまで、私はコッソリと見送った。…乗る筈だったバスを目の前で見送るって、ツラいな。
『……置いてきぼりな気分…さみしい〜……』
「今日から合宿〜♪」
『……あ、』
風間君。
その言葉は、声に出ることなく、呑み込まれた。
何故なら……
『かぁ〜ざぁ〜まぁ〜〜〜!!!』
「うおっ、咲ちゃんどしたの? スッゲー顔してるけど。…てかバスは?」
『バスは行ったよバカ野郎!
てゆうか、何で社会の窓全開にしてんの!?』
「……社会の窓?」
『ズボン! 股関!!
チャックだけじゃなくてボタンも開いてるしパンツ丸見え!! あと何その大量のお菓子は!? 美味しそう!! …じゃねーよ!!』
「あぁ〜…コレね。コレは、コンビニに行ってお菓子を買いに行ったのはいいけどトイレに行きたくなってね。トイレ行って、慌ててお菓子を買って、ここまで来たんだよ。
いる?」
『いるけど!
今じゃない、今はタクシー、バス追いかけるよ。』
疲れた、もう既に猛烈に疲れた。
お菓子買いすぎでしょコイツ。両手に収まらなくてお菓子落ちてるし。
なのに何でこの人こんな落ち着いてんの。
『取り敢えず、今から電話してタクシー…』
「あ、それはオレに任せて。」
『は?』
「安くすむ、良いアテがあるんだ。」
『……はぁ?』
何を言ってるんだ君は。
この時の私はそう思ってて、風間("君"はもう付けてやらない)のことを全く信用していなかった。
ゆえに、風間が何処かへ電話した5分後、知らないおじさんがトラックでここに来たのにはとても驚かされた。
「よう陣、待たせたな。お嬢ちゃんも乗れよ。
合宿…あるんだろ?」
神か。おじさんは神なのか。
是非ともお言葉に甘えて、乗らせていただこう!
ペコペコとお礼を言いつつ私はトラックの助手席に乗り、風間はトラックの荷台に乗る。そして、私達は遅れて合宿の地へと出発したのだ。
それからは、あっという間だった。
車に乗ってからは直ぐに、柄本君に風間を拾ったことをスマホで知らせた。しかも、途中で皆が乗っているバスに追い付いたため、合宿場所に遅れて着くこともなかったのだ。
『風間、バレないように混じってね。』
「へいへーい」
トラックのおじさんに御礼を言って別れ…
あたかもバスに乗ってた風を装って、バスを降りた皆と合流した。1年の皆が頑張ってくれたのか、先輩達は何も言ってこない。きっと上手く誤魔化せたのだろう。褒美に後で風間のお菓子をあげよう、うむ。
そんな事考えながらも、マネージャーの私はバスから荷物をおろして、運ぶ準備をしているのだが……
「おい…」
「あぁ…来たぞ、聖蹟だ」
「相変わらず気合い入ってんな…誰一人にこりともしねぇ」
「日頃からいかに厳しい練習してるかわかるぜ」
「伝統の黒い大名行列だ」
「一糸乱れぬ行進だ…規律の厳しい聖蹟らしいぜ」
他校の声が聞こえてくる度に笑いそうになる。
何だよ、黒い大名行列って。
てゆぅかお前らも何をそんなに厳つい顔してるんだ…灰原先輩なんか特にいつもヘラヘラしてるのに、今すっごいクールぶってるよ。さっきバスの中でUNOしてたって聞いたけど?
「おい、キャプテンの水樹だ。鹿島への入団が決まってるらしいぜ。」
「マジかよ? プロじゃん!」
『(マジかよ! そんなに凄い人だったのか、うちのキャプテンは。)』
「名門、聖蹟は今年も磐石…」
ちょっと待って。今更だけど私はスゴい有名なサッカー部のマネージャーになったってことか? 周りの声を聞いてたら、聖蹟がいかに伝統ある強豪のチームなのかが…嫌でも分かってきた。
と言っても、
その伝統をものともせず、黄色ジャージを着る金髪長髪男もいるんだけどね。そこは聖蹟のユニフォームを着ろよ、風間。
それにしても荷物が多いな…1年の皆に協力を願おう。風間や来栖、今帰仁などなど、1年にいくらか荷物を持たせて、私は柄本君と一緒にボールを運ぶことにしよう。か弱いもの同士、一緒にこの重いカゴを運ぼうじゃないか!
…って、あああ!!
『ボボボ、ボールがぁ…!!』
「ひ、拾いましょう!!」
『む、向こうのお願い!』
「は、はい!」
膝がカゴに当たって、ボールがいくつか逃げ出してしまった。
おのれ…赦さぬ、我ら聖蹟から逃れられると思うなよ!
なんて、脳内で呟きながらボールを拾ってカゴに戻す。柄本君の方はどうだろうと見てみれば、どうやら彼は他校生に絡まれているではありませんか。
「君、マネか。」
「マネージャーさん。こっそり水樹さんにサインをもらってきてくれないっすか?"ユキチくんへ"って入れてもらってくれ。」
「ええっ!? や、やってみますけど…
い…いちおう…僕も部員なんで……マネージャーではないんですけど……」
柄本君……マネージャーだと完璧勘違いされてる。
しかも大爆笑されてるし。
「マジかよ、聖蹟ってこんな奴でも入れんの!?」
「冗談だろ?」
「流石聖蹟は心が広いぜ!!」
「君みたいなのが聖蹟にいると俺たちも心強いよ!敵として」
何だろう…すっっごく腹立つ!!
確かに柄本君はナヨナヨしててサッカー初心者だし女子っぽい時があるけれど、だからこそ、いつも1番努力してるのは彼なんだ。
それを知らないくせに、何でコイツが馬鹿にされなくちゃいけない。
『ねぇ。』
「ん? 君誰?」
「あ、聖蹟のマネージャー? 可愛いじゃん。」
『そりゃどーも。
それより…うちの部員に何か用? マネージャーは私だから、用があるなら私を通して貰おうか。』
「べ、別に用はねーけど…」
『あっそ。
じゃあ、行こっか! 柄本君!』
柄本君の小さな背中を押せば、「すみません」とこれまた小さな声で謝られた。
別に怒ってないんだけどなぁ…柄本君には。
「あの…マネージャーさん!」
『…なに?』
呼び止められて振り返れば、そこにはヤンキーみたいな強面な人がいた。やっべ、殴られたらどうしよう。
「水樹さんに、サインを貰ってくれませんか?」
『あぁ〜……まぁ、うん、頼んでみよう。』
「あと! ユキチくんへって入れてくれ!」
『はい…分かりました。』
……やっぱ、人を見かけで判断しては駄目だよね!
柄本君だって弱そうだけど、見込みあるってキャプテンが言ってたし。今の人も顔が怖いけど、ちゃんと礼儀ある良い人だったしね。
『柄本君にもいつか堂々とできる日が来るといいねぇ…』
「?
は、はぁ……ありがとうございます?」
『…ん〜…うん、どういたしまして?』
二人でボールを運び、皆の元に慌てて行く。
柄本君は同じ1年生に「言い返せよ!」とか叱られてて、私はと言えば…
「咲」
『臼井先輩?』
「そういえばお前と風間、バスに乗ってなかったよな? どこからわいて出た?」
『えっ』
笑ってるけど、目は笑っていない。
そんな臼井先輩に…
私は合宿に着いて早々、説教という名のいじめを受けるのだった。
(『…ちゃんといましたよ? 後ろの方に。』)
(「呼んだのに返事なかったけど?」)
(『ね、寝てたので……』)
(「嘘。本当は返事あったけど声が違ってた。」)
(『ね、寝起き、だったのでぇ〜……へへへ…』)
(「……咲」)
(『……はい』)
(「オレを騙せられると思ってんのか?」)
(『ごめんなさい風間と一緒に遅れてきました』)
prev /
next
[
back to top ]