ヒカリ
「なぁ風間…あんたは本当に何も感じないのか?
いつまでも下向いてんじゃないよ。アンタには見る義務がある。」
チカちゃんが話している…というか説法をといている相手は風間。その間にも、時と共に試合は進んでいる。
『こぼれ球…柄本君がフリーだ!
って、あぁっ! 惜しい!!』
「…今のはボールを押し込むだけだったが…躊躇ったな。何故だ?」
ゴール手前。後はゴールの中にボールを押し込むだけなのに、柄本君は躊躇った。もちろん、その隙を逃すほど敵は甘くなく…ボールはあっという間に取られてしまった。
残念がる私と、不思議に思う監督。
だがもう1人…変わった反応を見せる御方がここにいる。
「ほんっと! グズなんだよあいつは!」
「…荒ぶってるな…生方。」
『怖いですね…鎮まりたまへ…』
「黙れそこ!」
『「はいぃっ!!」』
怖いよ、生方様の御降臨だよ、怖いよ。
しかし、チカちゃんは周りの空気お構いなしにキレ気味で語り続けた…柄本君がいかに日頃気遣って生きているかについて。
例えば、集合時間に早めに来たはいいが、時間が心配でトイレに行けずにもじもじしてること。テスト中、消しゴム落としてなかなか手を挙げられずに怪しまれたりしてること。
「ほんっとバカで、どうしようもない奴なんだ!」
「…ひどい言いよう…(ボソッ」
『でも事実ですよ、あれ。(コソッ』
「バカ正直だから、うまく立ち回れないから損もする。あいつはきっと、ずっと息苦しさを感じながら生きてきたに違いないんだ。暗くて寒い海の底で生きてる深海魚は太陽の光を見たらどう思うのかな?」
『"眩しい…!"』
「お前っ…! 生方に聞かれたら殺されるぞ。」
大丈夫、小声で話してるから聞かれないさ。
ちなみに…
風間はその後立ち上がって、歩き出した。
その"光"を見せたのは風間だろうというチカちゃんの問いかけに、どうやら彼は目を覚めたらしい。腑抜けた顔からいつもの顔に戻っている。
『チカちゃん、やるねぇ。』
「…アンタらうるせぇんだよ。人が話してるときに近くでゴニョゴニョと…」
『ありゃ、聞こえてたか。』
「オレは何も言ってねぇからな。」
風間が歩む先は、青函側のゴール。
そしてそちらでは聖蹟がゴールを決めようと奮闘している。ボールを取られては奪い返して…そうするうちに、またもチャンスが降りてきた。
『大柴先輩だ…!』
「…いや、ヘディングパス…!
柄本にボールがいった!」
「入れろ柄本!!」
フリーで、GKと1対1。
残り時間も極僅か、これが最後のチャンスだ。
ベンチにいる来須君達も大きな声援を送る中…一際大きな声がグラウンドに響いた。
「つくし! がんばれつくし!!」
声の主は風間で、彼は青函側のゴール付近で応援していた。いつもはクールぶっている彼が…形振り構わず大きな声を出していたのだ。
それに気付いたのか…
柄本君はさっきまでの迷いを見せる素振りなく、ボールを蹴る。残念ながらそれはGKに弾かれてしまったが…まだボールは死んじゃいなかった。
「…ッ、まだだ、つくし!
もう一度だ! 振り抜け!!」
「〜〜〜ッ!!」
バスッ
「え…? あ、あれ…?
ごめんなさい、どうなって…」
『……ぶはっ!』
風間が"まだだ"といったおかげか…柄本君は直ぐに態勢を立て直して弾かれたボールをシュート。初めて、試合でシュートが成功した瞬間だった。
…素直に喜べばいいのに。
点をいれた本人はオロオロして謝るし、聖蹟の皆はマジかよって口をあんぐりしている。特に大柴先輩、君下先輩、灰原先輩の顔は面白かった。でも一言言うなら、その反応は柄本君にあまりに失礼だろ。
こうして、試合は聖蹟の逆転勝利におさまった。
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