Mind and the Body


「じゃあ、あなた全く覚えてないの?」

『うん、皆に会う前のことは全く。』

「でも私達のことは忘れてないのよね?」

『うん。アレから日にち経ってるけど、皆に会った時のことはよく覚えてる。だからどんどん記憶を失う病気ってわけじゃあないみたい。』


あの日から約一週間が経った。
前のペースだったら、きっと今頃皆と出会った時のことなんて忘れているはず。でも忘れていないということは、つまりそういうことだ。


「どうしてかしらねぇ…不思議なこともあるもんだわぁ。」

『ね。何で前の世界での記憶だけ忘れたんだろ。』

「君の存在が元の世界でも消えたからじゃないかい?」

『あー…有り得る。じゃあ私はもう一生ここで住むわけね。皆よろしく、私のことちゃんと守ってあげなよ?』

「守るどころか1番最初に君のこと見捨てる確率が高いと思うよ。」


そう言って、マーモンはルッスーリアの手作りバームクーヘンを口に運んだ。可愛い、うごめく頬っぺたがキュートだ。しかし触ることは許されない。以前それしたらとんでもない目に遭ったからね!




〜 Mind and the Body 〜




「ちなみに、アレから透けたりすることはもうないのかしら?」

『あるある。』

「あるのかよ。」

『ベルが思っている以上に、ベルと違って私はデリケートなのよ。』

「ただの雑魚じゃん。」


最後のバームクーヘンをめぐってベルとフォークで戦う私。フォークとフォークがガシャリと鳴り、ルッスーリアに怒られた。しかも空いてる手でベルがそれを手掴みして食べたから負けたし。私よりはるかに食べたんだから最後くらい寄越せよ。


「うまっ」

『チッ…消えるまでにはならないけど、やっぱり透けることはあるよ。ちょうど昨日気付いたんだよね。私の感情と比例してるって。』

「感情と?」

『そ。暗くなったり沈んだりしてたら、身体が消えかかるんだよね。でも気分変えて、気持ちを明るくしたら元に戻るんだ。』

「面倒くせぇ女、電球かよ。」

『ベルは発言に気を付けないと電球女に毒盛られるかもよ。』


そう。あの時は"頑張って生きる"って豪語したけれど、心と身体は別だからそう簡単にはいかない。脳ではちゃんと前向きに行かなくちゃって考えてるのに、心ではつい"存在しない"ことについて色々と悩んでしまう。


『はぁ〜…心と身体は複雑だわ〜…』

「何? 気取ってんの?」

『何? さっきから私に意地悪なこと言ってきて。私のこと好きなの? 私の心と身体をあげるとか言って欲しいの?』

「……んー、くれるなら貰うけど。」

『えっ』

「まぁ!」


ギョッとしてベルを見れば、ベルは至って真面目な顔をしてる。ちなみにルッスーリアはくねくねして喜んでます、ちょっと怖いです。


『…マジで言ってんの?』

「マジで。」

「あらぁ〜♪ ベルちゃんったら、どうしたのぉ!?」

「ししっ♪ だって心と身体が手に入ったら、御主人には逆らえねぇ忠実なパシリができるじゃん?」

『だと思ったよクサレ王子。』


次の瞬間、ナイフが飛んできた。
あまり暴れないのよと注意するルッスママは是非とも私を助けて欲しい。さっきから掠り傷できてるんだけど。


『あっ こういう時に暗い気持ちになったら避けなくても当たらなくね? 身体透けるし。』

「バーカ 暗い気持ちになれるもんならなってみろって。そんな余裕与えねぇけどな。」

『ぎゃっ!』


この体質を活かせられるかと思ったけど、どうやら無理そうです。


  

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