江戸の町外れに、小さな教会がひっそりと存在していた。

その扉の前に佇む、純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁が一人。
本来ならば、父親と共に教会へ入場するはずだが…彼女は一人きりのまま、その大きな扉を開いた。



「異三郎さん…!!」



参列者どころか神父さえもいない…がらんとした教会の中。
花嫁は愛しい花婿を目指しバージンロードを足早に歩いていく。



「…なまえさん…とても綺麗です。やはり貴女は白が似合う」

「異三郎さんも……すごく素敵です」



手を取り合い、幸せそうに微笑む二人が
誰にも知られずひっそりと式を挙げるのには理由があった。







――片や、しがない百姓の娘。


――片や、名家の跡取り長男。








身分違いの恋だった。








特に花嫁……なまえは、愛する彼が恥をかかぬようにと、自身が彼の恋人であることをひたすらに隠し続けた。
挙式すら目立つから挙げなくていいと、頑なに拒否した程の徹底ぶりだった。


気にすることはないと異三郎も食い下がり、普段人が近寄ることのないこの教会で、二人きりで式を挙げるのを条件に話は落ち着いたのだ。





「…異三郎さん、私……貴方と結ばれて幸せです。貴方と生涯共に過ごすことを誓います…だから……」

「待っていただけませんか、なまえさん。……私は誓うことが出来ません。今は、まだ……」



「え……?」






異三郎の言葉に思わず固まるなまえ。



…まだ誓えないとは、どういうことだろう。

ここまできて、今は結婚したくないということだろうか。



ぐるぐる、ぐるぐると…考え出したら止まらない。
突然の異三郎からの申し出に、なまえはどうすれば良いかわからず目を泳がす。

睫毛の手前まで押し寄せていた涙が、俯いた拍子にこぼれ落ちそうになった、
その時……








「その挙式、ちょーっと待ったぁ!!」






叫び声と共に開くはずの無い教会の扉が、
鈍い音を立てながら開かれた。







「神父も参列者もいねぇ間に、勝手に誓われちゃあ困るんだよなぁ…」

「……来るのが少し遅いんじゃないですか、坂田さん」

「文句言うんじゃねぇよ!こっちだってなぁ、いろいろと準備ってもんがあんだよ!!」

「…え…!?銀、さん…?!」



現れた良く知るその顔に、なまえは思わず目を見張る。



「どうして、此処に……」

「どうしてって……お前らを祝いに来たに決まってんだろーが」

「っ…!?」

「それに…来たのは俺だけじゃねぇ」



そう言った銀時の後ろから、続々と入場してくる見知った顔ぶれ。

万事屋一同だけでなく、真選組から長谷川まで…今までなまえが世話になり、仲良くなった者達ばかりだった。



「おめでとうごさいます、なまえさん」

「なまえ、めっさ綺麗アル!」

「本当、綺麗だわなまえちゃん」

「お妙さんも近い将来、あの純白のドレスを着ることになりますよ!この、近藤勲との結婚式でね……ぐふぉっ…!!」

「……嫌だわ参列者にゴリラが紛れてる。誰かキリストの代わりに十字架へ張り付けてちょうだい」



さも当然のように参列席に腰掛けていく皆に、なまえは鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、何度も何度も瞬きを繰り返した。



「アホ面……何て顔してんだよ。お前の祝いの席だろ、もっと嬉しそうに笑えよ」

「土方さんまで…!どうして……」

「真選組の隊士全員いる…もちろん鉄もな」

「鉄君も…!?」

「……そこで素知らぬ顔してやがるお前の花婿が、俺達に招待状寄越したんだよ」



驚いて隣を振り返ると、しれっとした態度の異三郎と視線が交わる。
どういうことかと彼を見つめれば、不意に視線を逸らされてしまった。



「…貴女に知って欲しかったんです……私達が、反対されるばかりの関係では無いことを。

……ここにいる方々は皆、私達を祝福しに来ているのですよ」

「でも…私……皆さんには秘密に……」

「あー…無駄無駄。そいつ、遭遇する度に待受のお前の写メちらつかせてくるしよぉ…」

「え…?」

「毎回毎回のろけてきて、いい迷惑だったアル」

「…えぇーーー!?」


皆に全て筒抜けだったのなら、
必死に隠し通そうとした自分の努力は何だったのか……
……ていうか、待受の写メって何!?



「私…かなり無駄なことしてましたね…」

「そんなことありませんよ。貴女が隠し通してくれたお陰で、佐々木家から何の妨害も受けずに式を挙げることが出来ましたからね」



ありがとうございますと優しく頬を撫でてくる異三郎に、引っ込んだはずの涙が再び押し寄せ、
今度こそ堪え切れずにこぼれ落ちた。



「泣いてる場合じゃねぇぞなまえ。これから式の本番だ」



銀時は祭壇の前へ立つと、コホンと一つ咳ばらいをした。



「え〜……結婚式の神父さんなんてやったことないので、銀さん式のルールで進めたいと思いまーす」

「…神父役を務めるつもりがあったのなら、少しくらい勉強なさってから来たらどうです」

「うるせー!いちいちケチ付けんな!!ったく……あー………お前ら……、


……どんな時にも支え合え。喜びも悲しみも、二人で分け合って過ごせ。それと……何か困ったことがあったら、此処に集まった奴らの誰かに必ず相談すること。……特になまえ!」

「うぇ!?は、はい…!!」

「今の、誓えるか。……これからは誰に頼っても良いんだ。一人で背負わねぇって…ちゃんと誓えるか」

「…っ………誓い……ます…!」

「…よし。……そんでもって…佐々木、お前は絶対になまえを幸せにしろ。泣かせたら……俺が花嫁かっ攫うからな」

「そんなのとうの昔に誓ってます。それと…要らぬ警告までしていただき、どうもありがとうございます」



誓いを立てる二人に、銀時はニヤリと笑うとまた一つ咳ばらいをする。



「誓い合ったら…えーっと……次は…指輪交換か?…賛美歌か?……まぁいいや、とりあえず……チューしろ」

「えぇ!?何か…何か嫌です!!」

「うるせーうるせー。ほら、チューウ!チューウ!」


銀時の悪乗りに参列者達も加わり、教会中にコールが響き渡る。
普通の結婚式では有り得ない状況に、なまえは顔を真っ赤にして狼狽え、異三郎は溜め息を吐いた。



「…本当にムードもへったくれも無い方達ですね……」

「い…異三郎さん……私、恥ずかしい……」

「この勢い…事を済まさずに収まるものではありませんよ。諦めなさい」

「うぅ……はい………」



ベールが捲られ、見つめ合うと、
ゆっくりと重なる二人の唇。


周りの囃し立てる声も一層大きくなる。





羞恥から更に強く目を閉じたなまえだったが、
口づけの後、異三郎にそっと囁かれた言葉に今度は涙を流した。






「なまえさん、貴女を生涯愛することを誓います……一緒に幸せになりましょう」












青空にベルの音が鳴り響いた。














(なまえちゃん、ブーケトスは私の方に投げてちょうだいな)
(何勝手なこと言ってんのよ!ブーケは銀さんとの結婚を控えてる私の物よ!!)
(フザケンナ!ブーケハ私ノ物ダヨ!!)


(異三郎さん……このブーケトスから戦争が起こってしまいそうなんですが…)
(……うんと遠くに投げてしまいなさい)






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