私、佐々木なまえは、見廻組局長であり名門佐々木家の長男である佐々木異三郎の妹でございます。
兄様はとても素晴らしい方です。
高学歴・高収入・高身長…世の女性が目を血眼にして伴侶に求めるという、三高と呼ばれる物も全て兼ね備えております。
お陰でお見合いの話もそれはそれは沢山……
しかし、兄様はどういう訳か頑なに結婚しようとしないのです。
「…そういえば。兄様、今日はお見合いに行っていましたわ……今日こそうまくいくと良いのですが……」
ふと、今朝から姿の見えぬ兄の予定を思い出したなまえは、自身の部屋に戻るとぽつりと呟く。
敬愛している兄には早く素敵な女性と出会い、結婚してもらいたい。
…ゆくゆくは、二人の間に産まれた赤ん坊を抱かせてもらいたいとも思っている。
(きっと兄様に似て、強く賢く…凛々しい男の子が産まれるでしょうね…)
異三郎そっくりな男児を想像して、一人微笑みながらベッドへと入っ…………
「………どうして兄様が私のベッドで寝てらっしゃるのですか…」
「私が留守の間、なまえが寂しさのあまり泣いているのではと心配になり駆け付けたのですが…今度は貴女が留守だったのでベッドで待たせていただきました」
「………」
「寂しかったでしょう?でも大丈夫です…私はもう何処へも行きませんよ。さ、安心して一緒に寝ましょう」
掛け布団をめくり、空いた空間をポンポンと叩く彼。
この、至って真面目な顔でよくわからない言葉を並べている彼こそが、なまえの兄、佐々木異三郎である。
「…父上から、兄様の帰りは明日になると聞いていたのですが…」
「明日までなまえの顔が見れないなんて耐えられません。死んでしまいます」
「…お見合いは……」
「ちゃんと行きましたよ……断りに」
「っ…もう!兄様ったら!!」
信じられないと憤慨していると、手を掴まれそのままベッドへ引きずり込まれる。
「ちょっと……兄様…!?」
「あぁ、やはりなまえの傍が一番落ち着きます。あんなどぎつい香水の香りを漂わせた女…生涯を共にするなんて絶対に無理です」
ギュウッとなまえを正面から抱きしめると、彼女の頭のいただきに顔を埋め髪の香りを堪能する。
「たかだか香水の付け方ひとつだけで断るなんて…兄様の余生が心配です。…それよりくすぐったいので離してください」
「嫌です。それに、断る理由は香水に関してだけではありませんよ」
「…そうなのですか…?」
流石三高を備えているだけあり、理想の女性像も高いのだろうか。
…うん、それなら結婚しないのも頷ける。
「えぇ。出会う女性皆そうですが……なまえのように賢くなければ、立ち振る舞いすらなまえのものとは全く違うのです」
「……は?」
「美しさに関してはなまえの足元にも及ばな……「ちょっ…ちょっと!ちょっと待ってください…!」……なんです?」
淡々と理由を説明し始める兄を慌てて止める。
聞き間違いだろうか…説明の中に出てきた理想の女性像に自分の名前が入っていた気がする。
異三郎の胸に押し付けられていた顔をおずおずと上へ向けると、半信半疑で問い掛けてみる。
「あの…兄様?兄様の理想の女性って…」
「…今更そのようなことを聞くのですか?……貴女に決まってるでしょう」
「……!!」
こちらを真剣に見つめる双眼に、思わず赤面する。
「っ…兄様!悪い冗談はよして下さい!」
「私は本気です。結婚するなら相手はなまえが良いです。…貴女も幼い頃に私と結婚したいと泣いていたではありませんか」
「…!……そんな昔のこと…。それに…私には兄様とそのお相手との間に出来た赤ん坊を抱かせてもらうという夢があるんです!これは譲れません!!」
「……私の幼い頃の写真を差し上げます。それで我慢してください」
(……それは欲しい、かもしれない…っ)
言葉に詰まるなまえを余所に、異三郎は再び彼女を抱きしめると小さく呟いた。
「…佐々木家の血が途絶えようが、私には関係ありません。私にはなまえがいれば…それだけで……」
「…兄様…………」
「……それに……」
「…?」
「私の言葉にいちいち振り回されるような、ずっと一緒にいて飽きない女性は貴女以外にいませんからね」
「なっ…!兄様っ…からかいましたね!」
「さぁ……どうでしょうね?」
くつくつと喉を鳴らして笑う異三郎に、なまえは頬を膨らますが……
見上げた彼の顔が何とも幸せそうな笑顔だったので、つられて一緒に笑ってしまった。
(兄様ったら…もし私が結婚してしまったらどうなさるんですか)
(は?……なまえ、好い人でもいるんですか?)
(いませんけど…いたらどうするんです?)
(男を斬ります)
(……はい!?)
(なまえはずっと私の傍にいれば良いのです。他の男の所に行く必要などありません)
((…………私も…結婚出来ないかも……))