見廻組局長こと佐々木異三郎は、今お気に入りの女中がいた。
彼女の名前はみょうじなまえ。
特別可愛い訳でも、何か秀でた特技がある訳でも無い…至って平凡な娘だ。

そんな彼女に佐々木が夢中になる理由は…



―――
――




「…佐々木さん、起きてください!」

「………」

「佐々木さん!!」


連日、深夜まで仕事が続いている佐々木は、女中達に部屋まで起こしに来るよう頼んでいた。

ひっそりと佐々木に好意を抱いているなまえは、喜々としてその役を買って出たのだが…いざ彼を目の前にすると、恥ずかしさからぶっきらぼうに起こすことしか出来ない。

しかし…なかなか起きない彼に恥ずかしさよりも苛立ちの方が勝りだす。
ついに強行手段として布団を引っぺがす為に手を伸ばした……が、

手首を捕まれ、あっという間に布団へと引きずり込まれてしまった。



「ひゃあっ…!?」

「…おはようございます、なまえさん。私の為に朝の忙しい時間を割いていただき、ありがとうございます」

「っ…別に佐々木さんの為じゃありません!仕事だから仕方なく…!!…もう!離してください!!」

「おや?そうなのですか?」



彼女は所謂“ツンデレ”属性。
なまえが佐々木を好いていることなど、佐々木本人から見てもわかる程態度に出ているのだが…彼女はばれていないつもりらしく、何を言っても認めようとしない。

そんな彼女をからかうことが、佐々木の毎日の楽しみとなっていた。



「おかしいですねぇ…女中長から聞いた話だと、なまえさんが物凄い勢いで立候補したということだったんですが…」

「なっ…!!ち、違います!佐々木さんじゃなくても立候補してました!!」

「……そうですか。ならば丁度良いですね。最近起床時間が著しく遅くなっている隊士がいるので…なまえさんにはそちらの方を起こしてもらいましょう」

「え……?」

「あぁ、私は大丈夫です。最近入ったばかりの…あの可愛らしい女中にお願いすることにします」

「………」


捲し立てるように言葉を並べて起き上がる佐々木に、なまえは思わず黙り込む。
尚も平然とした様子で、佐々木は彼女の表情をチラリと確認した。



(…そんな顔をするくらいなら、はじめから素直になれば良いものを…)



なまえの顔は今にも泣きそうな表情に変わっており、佐々木は内心ほくそ笑む。

先程の威勢は何処へ…あんなにも反抗的だった彼女は、今では涙を零すまいと必死に堪え、震えている。
…そう、彼女のこの“泣きそうな表情”こそ、佐々木を夢中にさせた理由だった。



自分を想って涙を堪える彼女の表情は、佐々木の加虐心に火を着ける。
普段が反抗的なら、尚更。


そして一層、愛おしく感じさせるのだ。



「…なまえさん、冗談です。泣かないでください」

「っ…!?……な…泣いてないです!何で私がそんなことで泣かなくちゃいけないんですか!?」



ゴシゴシと目を強く擦る彼女を見て、佐々木は単純に可愛いと思った。
同時に少しやり過ぎたと、ほんの僅かだが後悔の念も芽生える。


(…いくらなんでも、虐めてばかりでは可哀相ですね)


「…なまえさん。私、床に就いたの明け方なんです」

「え!?全然眠れてないじゃないですか…」

「えぇ、そうなんです…。仕事に支障が出てしまう前にもう一眠りしたいので、ひざ枕をしていただけませんか?」

「えぇ!?ひざ…っ……えぇぇ!?」

「……貴女に拒否権はありませんので…失礼します」

「………っ!!」



佐々木は躊躇うことなくなまえの膝の上に頭を下ろす。
最初こそ慌てふためいていたなまえだったが、気にせず目を閉じる佐々木に動きを止めた。



「佐々木さ〜ん…?」

「………何ですか」

「……他の子にもこんなことしてるんですか…?」

「………さぁ…どうでしょうね……」

「……っ………狡い人ですね………」



震える声に目を開くと、悲しみにぐにゃりと顔を歪める彼女が映る。




…それで良い。
彼女が私を想ってくれている何よりの証拠がその歪んだ表情ならば、それで…。



「…貴女は一生、私に振り回されていれば良いんですよ」




上へと伸ばされた手は彼女の頬に触れ、その手の温かさになまえはホロリと涙を零した。










素直になれない二人が心から笑い合える日が来るのは、もう少し先の話…。










(…佐々木さん、一生ってどれくらいですか…?)
(…貴女が死ぬまでじゃないですか)
(…それって…ずっと一緒にいても良いってことですか…?)


(………そうですね)






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