short「万事屋の不幸な一日」の続編です。








「なまえさん……愛していますよ」

「っ……わ、わた……私………私……!」

「……無理せずとも、貴女の気持ちは十分伝わっています。本当に可愛い人ですね」

「…う………ごめ…なさい……」




―――また、伝えられなかった。




『いつかきっと……自分の口から……気持ち……ちゃんと伝えるから……っ』


彼にそう言って暫く経つが…、
なまえは未だに自身の口から気持ちを伝えられずにいた。


(このままじゃ一生伝えられない…!)


何かきっかけがあれば良いのだが……と、そこまで考えてふと思い立つ。

きっかけ作りくらいは、誰かに相談しても良いのではないだろうかと。







―――――
―――







「………で?万事屋に何の用だよ。また惚気ですかー?コノヤロー」

「ちょっと銀さん、なまえさんは依頼で来てるんですよ?そんな言い方失礼ですよ!」

「久しぶりの依頼アル!…文句あるなら仕事探して来いよな天パ」

「うるせェェェ!!
俺ぁこいつに依頼ドタキャンされた挙げ句、食ってもいねぇペペロンチーノの代金払わされたんだよ!!」

「………っ」



声を荒げる銀時にビクリと肩を震わせたなまえだったが、恐がっていては何も始まらないと自分を奮い立たせる。

なまえは持ってきた袋から週刊少年誌程の大きさのホワイトボードを取り出すと、
黒色のマジックでさらさらと文字を書き始め………程なくして書き終えたそれをそっとテーブルに置いた。



【先日はごめんなさい(´・ω・`)
今回はドタキャンしません!依頼をお願いしますm(._.)m】

「…何これ。これで会話すんの?
どっかのペットと被ってんだけど?だだ被りなんだけど?」

【これで会話した方がスムーズに進んでとっても助かるんですが…
………ダメかな(´・ω・`)】

「や、別にダメじゃねーけど……っつーか、顔文字入れるのやめてくんない?何か無性にイラッとするんですけど」




………ホワイトボードのお陰で、なまえは事の次第を難無く説明することが出来た。

すると、一緒に話を聞いていた新八が何か閃いたようでその口を開く。



「……手作りの料理なんてどうですか?
もし気持ちを上手に伝えられなくても気持ちが篭った料理があれば、十分カバー出来ると思うんです」

「おぉ!良いじゃねぇーかそれ!!
やっぱ人間かけてる眼鏡はひと味違ぇなぁ、おい!!」

「本当アル!ダメガネにしてはかなり冴えてるアル!!」

「あんたらいい加減にしろよォォォ!!」



憤慨する新八を無視して、銀時は嬉々とした表情でなまえの方へと振り向く。

この程度のことを提案するだけで報酬が貰えるなんて夢のようだ……と、彼の頭はお金のことでいっぱいだ。



「……うっし!この作戦でどーだ、なまえ………」




しかし、そんな甘い考えが通用するはずも無く……





【私、料理苦手だお……(;_;)】






新たにぶつかった問題に

万事屋一同全員、
あんぐりと口を開くしかなかった。






「「「…………まじでか」」」








――





なまえの料理が苦手だという告白を受け、万事屋では急遽“初心者でも簡単、やさしい料理教室”が開かれた……が、



「あぁっ!!…なまえさん、それ、塩じゃなくて砂糖です……」

【ガーン!!(´;Д;`)】



さすが料理が苦手と言うだけあって、
なまえの実力は、それはそれは散々なもので……



「なまえ……卵の殻、入り過ぎアル……さすがの私でも食べる気失せるヨ」

「………っ!?」



一日でどうこう出来るレベルではなく…
料理教室は朝昼夜関係なく数日間に渡った。

……もちろん、異三郎には内緒で。



「な!?おまっ……パフェのてっぺんに明太子添えてんじゃねェェェェ!!」

「……っ…ごめ…なさ…!!」




「「「……もう一回作り直し!!」」」


「はっ…はいィィィ!!」








………一方、そんな彼女の奮闘を知らない異三郎は……



「……今日も留守ですか。ここ数日、なまえさんは一体何処へ出掛けているのやら…」


メールのやり取りはあるにしろ、なまえに会えない日々が続き…少しずつ普段の凛々しさを失いつつあった。


直接話すのが苦手な彼女を思って、電話は避けていたのだが……これはあまりに寂し過ぎる。

もうこの際、無理矢理理由を付けて掛けてしまおうと懐から携帯電話を取り出すと、タイミング良く彼女からメールが届いた。








―――――――――――――――

from:なまえたん

―――――――――――――――

最近会えなくてごめんね(;_;)

今夜お家に来れますか?
…ていうか、来てください!!

―――――――――――――――





久しく見ていなかったなまえからの誘いのメール……

それを目にして思わず動きを止めた異三郎だったが、メールを何度も読み返す内にじわりじわりと喜びが溢れ……緩む表情もそのままに素早く返信をした。



(……もちろん、行くに決まってるじゃないですか……)










そして、夜も暮れ……。

ついにこの時がやってきた。



初めての料理に、初めての直接的な告白。

上手くいくだろうかとなまえが不安に押し潰されそうになっていると、
間延びしたインターホンの音が部屋に響いた。




「お久しぶりです。……なまえさん、貴女に会えなくて死んでしまいそうでしたよ」

「わっ…ご、ごめ…なさい……あの、こっち来て…?」


ドアを開けるなり抱き着いてきた異三郎をなんとか引きはがし、ダイニングへ向かうように促す。


異三郎は渋々ダイニングへと歩みを進めると、テーブルの上にいくつも料理が並んでおり驚いて目を見開く。

卵が破けてしまったオムライス、少し焦げた唐揚げ。均等じゃない大きさに切られたトマトが乗ったサラダに、少し色の濃いコンソメスープ………

……どれもこれもいびつな形だが、きっとこれは……



「……なまえさんが作って下さったんですか…?」

「ん……ちょっと…失敗しちゃったけど……。デ…デザートもあるんだよ…」



失敗を気にするように、はにかんで笑うなまえに愛しさが溢れ出る。

大方…会えなかった数日間は、この料理の特訓でもしていたのだろう。
絆創膏だらけの手を隠す健気さに、堪らずなまえを強く抱きしめた。



「……どうもありがとうございます……。
まさか貴女の手料理が食べられるなんて…幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうですよ……」


耳元で囁けば、なまえはいつも照れて固まってしまうのだが……
おずおずと彼女が背中に手を回したのを感じ、カッと胸が熱くなる。



「っ……なまえさ…「あ……あ……あの………あのね……っ」

「……?」

「………………………好、き……」

「………なまえさん…?」

「っ………異三郎さんが…………好き……です…………。
…………いつも…ありがとう…」


小さく呟くように伝えられた言葉に、心臓が高鳴る。


「…っ…………貴女からそんなに可愛らしいことを言われて…本当にどうにかなりそうです。
……食事の後は覚悟しておいて下さいよ…


きっと今夜は抑えが利きませんから……」




甘い囁きを残して席につく彼に、今度はなまえの心臓が激しく高鳴り、暫し呆然と立ち尽くしてしまう。

そんな彼女を尻目に異三郎は料理をパクリと口にすると、幸せそうに表情を緩めた。





「料理、とても美味しいです。ありがとうございます……なまえさん」








――――
――







「………で?今度はバカップルの片割れが何の用だよ。惚気なら聞かねーって」

「惚気たいのは山々ですが、今日は先日の謝礼金をお渡ししに来ました。
なまえさんに料理を教えて下さったようで……

皆さんのお陰で、とんでもなく可愛らしいなまえさんを見ることが出来ましたよ」

「なまえからも貰ったのに、また貰えるアルか!?」

「それも僕ら一人一人に……本当に良いんですか?」

「えぇ、もちろんです。

あぁ、そうです……坂田さんは前回のお詫びも含めて、皆さんより多めに入っていますよ」



それを聞いた銀時は即刻お札を数えだし、
新八と神楽に向かってニンマリと笑った。



「……ところで、坂田さん。
貴方には今回なまえさんと共に過ごした日々について、全てお話ししていただきたいのですが」

「ひー…ふー…みー………あ?なまえと過ごした日々?んな対したことしてねぇよ。

まず一緒にメニュー考えて…「…マイナス五千円」……え?」

「どうしました?続きをどうぞ」

「続きをどうぞ…じゃねーよ!何だその聞き捨てならねぇマイナスのカウントは!!」

「あぁ、言ってませんでしたね。
話を聞いて、少しでも如何わしい行動だと思えることがあれば報酬から差し引かせてもらいます。
ちなみに、嘘や発言の拒否は一度で報酬ゼロとなりますので……悪しからず」



さぁ、続きを…と促す異三郎に銀時は顔を引き攣らせた。
新八や神楽に助けを求めて視線をやれば、ニンマリと笑われ冷や汗が吹き出る。



嫌な予感がする……!



「そういえば……銀さん、なまえさんと一緒に買い物も行ってましたよね」

「なっ…!?」

「それはそれは…マイナス一万円」

「料理教えてる時は、なまえに怒鳴り付けてたヨ」

「ちょっ…ちょい待ち…っ」

「酷いですね…マイナス五万円」

「っ…待てっつってんだろーがァァァっ!
何で万事屋のお前らまで俺の報酬が減るように働き掛けてんだよ!?

おかしいだろ!?仲間だろ?!」

「「一人だけ報酬の額が多くて気に入らない」」

「っ…ふざけんなァァァァァ!!」






こうして、なまえは自身の気持ちを異三郎へと伝えることが出来た……

…………銀時の報酬を犠牲として。






そんなことになっているとは露知らず…
なまえはまた近い内に万事屋へ料理を教えてもらいに行こうと、ひとり計画を練っていた。




万事屋の不幸はまだまだ続きそう―――。







(銀さんとなまえさん、最後の方はホワイトボード無しで話してましたね)
(ほぅ……マイナス七万円)
(もう、ほんと、これ以上は……これ以上は…っ)
(上手に卵割った時は頭撫でてたアル)
(マイナス………おや?……坂田さん、どうもすみません…差し引きし過ぎていつの間にか報酬がマイナスになっていました)

(っ…俺の……俺のうん十万がァァァァ…!!)







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