「ただいまぁー」

「…おい、なまえ。最近帰りが遅いんじゃねぇか……こんな時間まで何処で誰と何してやがる」

「え…。トシ兄…年頃の妹にそんなこと聞かないでよ」

「あ?お前まさか……男でも出来たんじゃ…!?」

「ヤダなぁトシ兄、そんな訳ないじゃん!
最近帰りが遅いのは…えーっと……あ、ボランティア活動やってて…「日付変わる時間まで活動するボランティアなんざ聞いたことねぇよ!!」



この…鬼のような形相で、鬼煩く小言を並べているのは、此処…真選組で鬼の副長をやっています私の兄です。

口は悪いけど優しくて大好きなお兄ちゃんなんだけど、最近何でかやたらと過保護で……ちょっとウザイ。


(まぁ…原因は私だから文句は言えないけど……)


トシ兄の言う通り、私は最近帰る時間が遅い。…もちろんボランティア活動なんてやっている訳もなく……。



(……もっと異三郎さんといたかったなぁ…)



そう、私の帰りが遅い理由は見廻組局長の佐々木異三郎さんと会っていたから。
彼と私は所謂恋人同士なのです。

異三郎さんを目の敵にしているトシ兄には絶っ…………対に言えない。



「トシ兄、あんまり怒鳴ってばっかりいると……禿げるよ」

「誰のせいだと思ってやがる!!」

「ほらほら、今ので十円禿げが広がったよ。じゃ、おやすみー」

「十円禿げなんて元から無いんだけど!?
……っておい、待てコラ!!」




トシ兄を軽くあしらいつつ部屋へ戻る。
静まり返った室内で一人きりになれば、自然と頭に浮かんでくる愛しい恋人。


あぁ…今日も楽しかったなぁ……。


布団を敷きながら今日のデートの余韻を楽しんでいると、窓枠をコンコンと叩く音が部屋に響く。




何だろう?ちょっと怖い………けど、気になる。




間隔を空けて再度鳴り出したその音に、恐る恐る障子を開くと……

そこには、今し方思い描いていた愛しい恋人が、月明かりに照らされて立ち尽くしていた。



「異三郎さん…!?どうして……」

「貴女を攫いに………と言いたい所ですが、これを届けに来ました。車内に忘れていましたよ」

「あれ?私のお財布……わざわざありがとう!」

「どういたしまして。…さ、今日は疲れたでしょう…ゆっくり休んで下さいね。
それでは、私はこれで……」

「あ、ま、待って!もうちょっとだけ…一緒に……いて…?」



また離れるのが寂しくて勇気を振り絞って伝えれば、クスリと笑われてしまい何だか恥ずかしくなる。

思わず目を逸らせば異三郎さんの手が私の頬に触れた。


………あぁ、キスされるんだ……と目を閉じれば、そっと近付く彼の気配。




後少しで触れ合える……その刹那、
背を向けていた部屋の襖がスパンと開いた。



「なまえ……あー…さっきは怒鳴って悪かっ……た………」

「…………」

「…………」















「………見て!トシ兄、サンタさんだよ!!」

「どうも、サンタです。イイ子にしていましたか?」

「っ……どっからどー見ても佐々木じゃねぇか!何でてめぇが真選組の敷地にいやがる!?」



突然入ってきたトシ兄に咄嗟に嘘をつくが……敢え無く撃沈。
せっかく異三郎さんも乗ってくれたのに…。





……とりあえず、
この状況どうしましょう。









――――――――
―――――









仁王立ちでこちらを睨むトシ兄の前で、
異三郎さんと私は並んで正座。


どうしよう、どうしよう、

私のせいで二人が鉢合わせてしまった。
もはや空気が淀み過ぎて、トシ兄の顔がまともに見れない…。


解決策も見付からず、不安で押し潰されそうになっていると…異三郎さんの大きな手が私の手を包み込む。


「…異三郎さん……」

「大丈夫ですよ」


そんな私達のやり取りを見たトシ兄は、眉間の皺を深くした。


「お前等一体どういう関係だ……。
…まさか付き合ってるなんざふざけたことぬかすんじゃねぇだろうなぁ…?」

「……その“まさか”ですよ……なまえさんとは、三ヶ月程前からお付き合いさせてもらっています」

「っ……コイツの帰りが遅いのはてめぇのせいって訳か…!」

「そういうことになりますね」

「ふざけやがって……俺は絶対に認めねぇからな!
大体、嫁入り前の女を深夜まで引っ張り回すなんざ男の風上にも置けやしねぇ……


………………今すぐ別れろ」



トシ兄の言葉に思わず目を見開く。



「…や、やだやだ!別れるなんて絶対にイヤ!!」

「うるせぇっ!!
何でよりによって佐々木なんだよ!!もっと他にイイ奴いただろうが!!」

「いないよ!!サディスティック星の王子とか、死んだ魚の目した白髪侍とか…私の周り変な人ばっかりじゃん!!」

「……………それでもコイツよりはマシだァァァ!!」

「絶対に思ってないでしょ、トシ兄」



結局…誰を紹介したって、トシ兄からの小言は付いて回ってくるんだ。
ムッと膨れていると、私達の怒鳴り合いを傍観していた異三郎さんが口を開いた。



「お義兄さん、落ち着いて下さい」

「誰がお義兄さんだコラァァ!!」

「いいから聞いて下さい……なまえさんとは真剣に交際しています。それも至って健全なお付き合いです。
あんなことや、こんなことだってしていませんよ…………



………接吻はしましたが」

「てめぇマジで叩っ斬る……!」



睨み合う二人。
このままでは本当に別れることになってしまう……そんなのは絶対にイヤだ…!


(トシ兄が折れるまで頼み込むしか…っ)


意を決して畳に両手をつき、頭を下げようとした………が、私は動くのをやめた。




「っ……おい……何のつもりだ……」



「……異三郎…さん……っ」




……動くことが出来なかったのだ。

私の隣で頭を畳に擦り付けてしまいそうな程深く…深く頭を下げている異三郎さんから目が離せなかったから…。




「…彼女を、愛しているんです……。

どうか、交際を認めていただけないでしょうか……」

「わ、私からも…お願いします!
……異三郎さんの傍にいさせて下さい!!」



異三郎さんの言葉に慌てて私も頭を下げる。







「………」


「…………」


「………ったく…なまえの趣味を疑うな。

佐々木なんかと一緒にいたら心が荒むぞ。
…喧嘩でもしてみろ……ネチネチ、ネチネチ回りくどく責められて、鬱陶しいことこの上ねぇだろうよ……」

「…………」




「………………頭、上げろ。

あのエリート様が土下座までするとは……どうやら本気らしいな……。

………しょうがねぇから認めてやらぁ」

「っ……本当に!?」

「あぁ…妹にも土下座されて嘘なんかつけるかよ。…おい、佐々木……なまえを泣かせてみろ、そん時は即刻別れてもらうからな」

「泣かせませんよ……約束しましょう。
……ありがとうございます、お義兄さん」

「だから誰がお義兄さんだァァァ!!」














……こうして、私達の関係は見事「鬼の副長」そして「私の兄」である土方十四郎公認となりました。


まだまだ前途多難な私達ですが、
二人でしっかり支え合って過ごしたいと思います。





……トシ兄が認めてくれたんだから、堂々とね!








(なまえさん、明日は私の家に泊まっていって下さい)
(わぁ、良いの!?)
(なっ……んなもん駄目に決まってんだろーが!!)
(おや、お義兄さん公認はお泊りOKの意味では無いんですか?)
(そんな訳あるかァァ!っつーか、お義兄さん呼びほんとにやめてくれるゥゥゥ!?)








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