「あ!いたいた!佐々木さん探しましたよー!!」

「……また貴女ですか。今度は何の用です」

「んも〜、佐々木さんったら相変わらずツンデレなんですからぁ〜☆そんな所も大好きですよ☆☆」



パンッ パンッ パンッ



「次は頭を狙います」

「っ……す、すいませんでしたぁぁぁ!!」

「………はぁ……」



この究極に鬱陶しい女はみょうじなまえ。
いつだったか、柄の悪そうな連中に絡まれているところを助けたことが佐々木の運の尽きであった。

あの日以来、なまえは事あるごとに佐々木に付き纏うようになったのだ。



「……で、結局何の用なんです。貴女と違ってエリートは暇ではないんですよ」

「理由が無いと会いに来ちゃ駄目ですか……?」

「駄目です。貴女の場合は理由があっても駄目です」

「ちょっと!それは酷すぎますよ!」

「……本当に用が無いのなら、私はもう行きますから。それでは、さようなら」

「あっ……佐々木さん!待っ………………行っちゃったぁ……」



去っていく佐々木の背中を見て、なまえはシュンと項垂れた。

自分は、ただ彼のことが好きなだけなのに。



(どうしたら伝わるんだろう……)










――――
―――






「でね?今日なんかついに銃で撃たれちゃって……もう絶対嫌われた……」

「馬鹿ね。それは愛情の裏返しよ」

「え。そ……そうなの……?」

「そうに決まってるじゃない!だって銀さんはいつもそんな感じよ!むしろそれ以上よ!氷河期レベルの冷たさよ!!」

「…………」

「冷たく返すことで私が興奮してしまうのを知っているから……」



ポッと頬染める猿飛あやめを横目に、なまえはアイスティーを口に含む。
想像していた味よりもずっと甘く、何だかホッとして溜め息が零れた。



「……何にせよ、このまま押し続けてもラチが明かないわ」

「じゃあどうすれば……」

「簡単よ!古典的だけど“押して駄目なら引いてみる”作戦よ!」

「引くって……」

「もう!鈍いわね!違う人に気があるフリをするのよ。勿論……彼の目の前でね♪」

「えー……」















(私にそんな器用なこと出来るかな……)



今日は真選組の屯所で見廻組と合同訓練があると聞き、なまえは慌てて駆け付けた。
けれど、友人から提案された作戦が頭を巡り、なかなか門をくぐることが出来ずにいた。



「今日は佐々木さんじゃない人に……今日は佐々木さんじゃない人に…………よし!」



気合いを入れ直し、ようやく門をくぐる。
幸いにもまだ合同訓練まで時間があるようで、ガヤガヤと賑やかな雰囲気に緊張が緩む。

ふと何気なく視線を向けた先に、偶然にも佐々木が座っていた。
相手もこちらに気付いたようだが、特に気にも留めずなまえから持っている携帯へと視線を移した。



(佐々木さん、カッコイイ………)



「……じゃなくて!ひ、土方さぁ〜ん!」



佐々木の少し前を横切ろうとした土方になまえは駆け寄り、その手を取る。
突然のことに土方は驚いて頬を染め、それを見た佐々木は眉をピクリと動かした。



「えと、お久しぶりです。お元気にしてましたか……?」

「お、おぉ……どうしたんだ急に……」

「今日、見廻組と合同訓練だって聞いて……その、土方さんを応援しに来たんです!」

「は?……あー……応援なんかなくとも見廻組に負けるつもりは無ぇけどな」

「わ、頼もしいんですね……カッコイイです!素敵です!!」

「久しぶりに会ったと思ったら……調子良すぎだぞ、お前」



自分のことなど、まるで見えていないかのように土方と楽しげに笑っているなまえに、佐々木は言いようのない苛立ちを覚える。



(散々私を好きだの何だのと騒いでおいて……私が靡かなければ次は土方さんですか……)



まさか佐々木がそんなことを思っているとは知りもしないなまえは、更なる嫉妬を煽るように行動に出た。



「ね、土方さん……耳貸してください」

「あぁ?なんだよ……」

「あのですね……」



顔を近付かせて内緒話を始めた二人に、最初こそ佐々木は見て見ぬフリをしていたのだが……バランスを崩したなまえが、まるで抱きしめられるように土方に支えられているのを見て思わず立ち上がった。



「わっ……すいません、土方さん」

「いや、こっちこそ悪かった……大丈夫か?」

「は、はい……っ!」


自分の今の状況に気付いたなまえの顔がみるみるうちに赤くなる。
いつも佐々木に猛アタックしているなまえだが、実は男性慣れしておらず、今にも心臓が爆発しそうだった。



「あ……っあの……「こんな所で淫行ですか、土方さん」

「なっ……誰が淫行なんかするか!!」

「ではその腕を離してはどうですか。そちらで阿呆面下げてるなまえさんに、私は用があるんです」

「……チッ……不可抗力だろうが……」

「まぁいいでしょう。……行きますよ、なまえさん」

「え?!あ、は、はいぃ……!」



佐々木はグイッとなまえの腕を強く引き、人集りから離れた建物の陰に連れていく。
わたわたと焦るなまえを壁際へと押しやると、冷たく見下ろし口を開いた。



「………どういうつもりですか」

「え……?」

「私ではなく土方さんにベタベタと付き纏うのは、どういうつもりなのかと聞いているんです」



(……こっ、これは………もしや、作戦が効いてる………!?)



「……なまえさん?黙っていては……「佐々木さーーーん!!」……なっ!?」



耐え切れず佐々木に抱き着くなまえ。
一方佐々木は唐突な出来事に驚いて固まり、その両手を宙に彷徨わせた。



「ごめんなさい!」

「なまえさん……?」

「私、佐々木さんに振り向いてもらいたくて……わざとあんなことを……」

「…………はぁ。まんまと貴女の策略に嵌められたわけですか………まったく、貴女には敵いませんね……」



呆れたような声が零れた後、佐々木の腕がなまえの背中に回り優しく抱きしめる。

予期せぬ事態に、今度はなまえが固まった。



「え……」

「……私の負けです。………好きですよ、なまえさん」

「………………えぇぇっ!?」

「おや?気付きませんでしたか?」



いつも笑顔で駆け寄ってくる貴女を、嬉しそうに話し掛けてくる貴女を、本当はずっと……………









(お、戻って来たか。訓練もう始まるぞ。……あ〜……なまえ、応援よろしくな)
(土方さん!すみません、私、佐々木さんの応援するんで!)
(は……?)
(どうもすみません、土方さん。なまえさんは私しか眼中に無いので……)
(キャーー!佐々木さんカッコイイ!!)
(……お前、本当に調子良すぎだろ………)






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