※夢主は人の記憶や精神に干渉できる(記憶を見たりできる)能力持ち




「日下部くん、今日はありがとうございました。」
「いえいえ、これくらい礼を言われることでもないですよ」
「でも貴重な休暇に買い出しの手伝いをさせてしまったわけですし…あっ」

買い出しの量が少し多いなと困っていた私の所に、偶然居合わせた日下部くんが手伝いを買って出てくれたのが約1時間前。
おかげで予想よりも早く、買い物を終わらせることができた。
そのお礼を考えていたら最近できたフルーツジュースの店が目に入った。

「あそこのお店、最近できたんですけど美味しいって有名なんです。
今買ってきますから、そこで待っていてもらえますか?」
「あ、いや俺は別に…」
「せめてものお礼ですから、気にしないでください。すみませんが荷物、見ていてくださいね」

混雑時はかなり並ぶと聞いていたが、幸いなことに列には数人しかおらず、すぐに私の番がやってきた。
適当に注文を済ませ、二人分のドリンクを持って日下部くんの所へ戻る。

「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます!」

日下部くんの隣に腰掛け頼んだドリンクを飲む。
噂通りの味だと感動していると、急に寒気が走った。

「よォ、悪魔」
「―…っ!ジョーカー!」

日下部くんが咄嗟に私を庇うように立つ。
ちらりと私を見るジョーカー。
(書類では見たことはあるけど、こんなに恐ろしい存在なんて)
心臓が早鐘のように打っているのが分かった。

「まあそんなに警戒するなよ。…残念だが、用があんのはお前じゃないんだ」
「…は?」
「お前の後ろの、鈴音だよ」
「お前、何言って…」

私を指名してきた理由はなんなのか、日下部くんにもこの状況は飲み込めていないようだった。
どうして、と問いかける前に私は意識を失っていた。




「う、ん…」
「目が覚めたか?」

目が覚めると薄暗い建物の中にいた。
広さからして使われていない廃工場だろうか。
目の前には薄ら笑いのジョーカーがいた。

「…何故、私を攫ったりしたの」

私なんか攫ったところで何の価値もないのに、する意味が分からない。
戦闘力なんてないし、邪魔になるような人間でもないのに。

「似たような境遇のお前にプレゼントをやろうと思ってな」
「何言って…」
「お前の家族はな、事故でもなければ病気で死んだわけでもない。
…皇国に殺されたんだよ」
「何よそれ…どういう…」

私を驚かせるのには十分すぎる言葉だった。

「嘘だと思うなら俺の記憶を見てみればいい」

笑いながら私の手を掴んだ。
瞬間、記憶の断片が流れてくる。
私の意志で記憶を見ているわけではないので全てではないが、様々な感情や風景が流れてきた。

「お前の家族もこうやって"処分"されたんだろうさ」
「やめ…てっ…!!」

私は流れてくるものに対応するのが精いっぱいで、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

「…って、俺は同情されたくて見せてやったわけじゃねぇんだけど。酷ぇ顔」

ジョーカーは吸っていた煙草を地面へ吐き捨て足で火を消した。
どうやら私は泣いているらしい。

「事の真相が知りたきゃ俺の所に来い、判断するのはお前だけどな」
「…この国は御伽噺みてぇな綺麗なところじゃねぇって分かったろ」

そう言い煙のように消えていった。



(お姫様が救われてハッピーエンドとは限らない)





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