ふと、目が覚めた。
外は少し白んでいて、朝がもう数時間で来ることが分かった。
隣を見ると規則正しく寝息を立てる鈴音がいて、少し安心する。

(…安心ってのもなんか変だけどな)

『紅ちゃん、私たちに何かあったときは鈴音のこと、よろしく頼むよ』


(…なんで今思い出すんだよ、昔のことなんて)




鈴音がここに来たのはまだ俺たちが小さい頃だった。
元々浅草とは別の場所に暮らしていたが、特殊消防官だった父親が殉職、続け様に母親が病死した為、身寄りがなく親戚の婆さんに引き取られた、というわけだ。
外から来た、というのもあったが引っ込み思案な性格や、その容姿──透けるような白い髪に空色の目も相まって、町に馴染むまでには時間がかかったのは10年以上経った今でもよく覚えている。

そして、俺と初めて会った時のことも。
婆さんの後ろで隠れるように涙目になりながら立っていて、まるで怯える白兎の様だった。


「ほら鈴音、ちゃんと紅ちゃんに挨拶おし」
「う…うぅ……ひと、こわい……」

そんなあいつを婆さんが半ば強引に引きはがして、前に出した。
鈴音は俺を見ると、泣きそうだったのが嘘のように、その瞳を大きく開けて俺にこう言った。

『あなた、わたしとおなじ色だ』

何でも、鈴音は人に宿る炎を色で見ることができるらしく、その色は人によって様々だが俺と鈴音の色が同じ色をしていた、という話だった。
それから婆さんの頼みではあったが、ほぼ毎日のように鈴音の話し相手になってやっていた。

(あんなやつが今じゃあ口達者になりやがって)

そんな事を思い出しながら、鈴音の髪を手で梳くと、さらさらと落ちていった。
白い肌も相まってこのまま消えてしまわないか、と在りもしないことが頭によぎる。
瞬間、鈴音が身動ぎした。

「んん…」
「悪い、起こしちまったか?」
「…別に…って…」

俺と自分を交互に見て鈴音は耳まで真っ赤になっていた。
ああ、もしかして、

「まだ恥ずかしいのかよ…今回でな「皆まで言うな!」

枕で顔を殴られる。
(ま、こういう反応も見てて面白れェが…そろそろ慣れねェかな)

「あんまり騒いでると他の奴らが起きちまうから静かにしろ。布団から追い出すぞ」
「寝ます!寝ますからそれだけはやめて!」

大人しくなった鈴音の頭を撫でてやると「子供じゃないし」と悪態をつかれる。

「そういえば」
「なに?」
「髪、伸びてきたな。このまま昔くらいまで伸ばすのか?」
「…まあ、そのつもり。それより紅丸は前髪切ったら?邪魔じゃないの?」
「別に気にならねェからいい」
「あっそ。…紅丸がそれでいいならいいけど……」

徐々に下がっていく鈴音の瞼。
寝顔だけは昔から変わらない。

(―…婆さんに言われなくても俺は必ず、)

再び寝息を立てている鈴音の額に、触れるだけの口づけを落とす。

(…必ず護り通してやるさ)

静かに誓いを立て、俺も再び眠りについた。






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