理解する


「どうしたんスか」
「どうした、って…」
「いいから、好きなもの選んで」

ほら、とメニューを私に向ける黄瀬くん。昼休みにメールがあり、お洒落なレストランに連れて来られた。
もちろん放課後教室までやって来てデートだということを周りに広める。最初はそれだけで解散だと思っていた。しかも奢ってくれる雰囲気だ。お金の貸し借りはしたくないのに。…ここは払ってもらっても後で返そう。
にこにこしているのはファンがいるかもしれないからか、それともこのレストランに黄瀬くんの「彼女」がいるのか。

「ここのドリアすっげえ上手いんスよ」
「じゃあ…それで」
「ん、」

すみませーん、と店員を呼ぶ黄瀬くん。席まで来た店員さんが黄瀬くんを見るなり表情を変えた。さっきからチラチラ黄瀬くんを見てたのに呼ばれて黄瀬くんだと気付いた風を装う。そして私を一瞬視界に入れた。睨まれた気がしなくもない。

「ドリアとデミグラスオムライス一つ」
「え?ドリア食べないの?美味しいって言ってたのに」
「だから妃、半分こしよ」

ね、と甘える声を出す黄瀬くん。それを聞いてなるほどと理解する。今回の相手はこの人なのか。様子からすると黄瀬くんのことを一方的に好きで、黄瀬くんは付き合うつもりはないんだろう。付き合ってないならただ彼女がいると見せつければいいだけ。

「いいよ、涼太」

黄瀬くんみたいに演技力はないから変な演技をするよりも、とけっこうな無表情で答える。でも言えば黄瀬くんはにっこりと笑う。任務完了したってことなんだろう。私はとりあえずほっとした。

「あ、やっぱドリアもう一つ」

黄瀬くんはここのドリアが本当に好きらしい。スポーツマンの彼が一人前で足りるわけもなく半分こはせず追加注文した。
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