騙したもん勝ち


静かな部屋に響くばちん、という音。それと同時に頬に感じる痛み。同い年の女の子に全力で叩かれるなんて思わなかったなと思いつつ昼ドラかと内心ツッコミを入れる。まあ、状況的に昼ドラっていうのは合ってるんだけど。

机を挟み目の前に座っている女の子と、私の隣に座る黄瀬くん。頬をおさえる私を睨むこの人は黄瀬くんに飽きられてしまった彼女だ。私は彼女のフリをして二人を別れさせなければいけない。というか他校の子だし黄瀬くんが連絡を断てばいい話じゃなのかな。

「そういうことなので涼太と別れてくれませんか」
「なんで」
「え?えっと…」
「勝手になに言ってるの。やめてよ。あんたが変なことして涼太くんを取ったんでしょ!」
「違うっス。妃を責めないで」
「…涼太くん…!」
「君との関係を終わらせれば妃は別れないでいてくれるって言ってくれたんス」

悪いのは俺っス。だから妃を責めないで。

そう呟く黄瀬くんは誰もが反省してるように見える。拍手したいほどの演技だ。モデルだけじゃなくて俳優も出来そうだ、と思う。
ただそんな演技をするものだからまんまと彼女は黄瀬くんの思惑通りに怒りの矛先を私だけに向けた。
彼が二股をかけたということは問題にならず、私が黄瀬くんを取り上げたと睨まれる。
そして、ばちんと引っ叩かれたのだ。

「妃!」
「…大丈夫」
「っ、さよなら!」

叩いてしまったことで少し頭が冷えたのか黄瀬くんの態度も気にせず部屋から駆け出して行った。ほら、昼ドラみたいだ。

彼女が出て行き、黄瀬くんは表情を真顔に変える。戻す、と言った方が自然かもしれない。ソファへ移動し背もたれにもたれ掛かる。私を見て「これで一人目完了っス」と言った。酷い人だ。

「今日はこれで終わりっスけど今度呼ぶ時は三人くらい連続でお願いするんで」
「はあ」
「んじゃ、お疲れっス。ほっぺた腫れないように気をつけてくださいね」

用が終わればさっさと帰れと私を促す。腫れないように、と言いつつ濡れタオルとかだしてくれないんだ。…出してくれないか。
静かに溜息を吐き、私も彼女と同じく部屋を出た。
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