取り繕い


休み時間にクラスの女子達が騒ぎ始めた。なんだろうと顔を上げれば近づいてくる彼と目が合う。その人物に溜息を吐きたくなるのを必死で耐えた。

「あ、いたいた」

にっこり笑う黄瀬くん。手を振り私の席まで来る。その彼の後ろで私を睨んでる女子達が怖いが気付かないフリをする。
あなたたちに背中向けてるから油断してるのかもしれないけど怖い顔してるの黄瀬くんも多分気付いてるよ、と言いたい。

「妃。来ちゃった」
「…おはよう、涼太」

笑い返すがもちろん私も作り笑いだ。
周りからの目が痛い。こそこそと私たちを見ながら話してる。学園の人気者とほとんど誰とも話さない私の組み合わせだ。そりゃ注目されるだろう。
いつもは用がない限り連絡も会いにも来ない。(もちろん私もしない)けど、周りに付き合ってるんだということを主張するように黄瀬くんはたまに私のクラスに顔を出す。たまにでも会いにくれば続いてることも認識される、という彼の案だ。
彼女のフリを引き受けてから黄瀬くんの言う決まりごとを守るように、約束させられた。一つは、誰かがいる前では黄瀬くん呼びではなく「涼太」と名前で呼ぶこと。二つ目は誰かに付き合ってるのかとか詳しく聞かれても私からは答えないということ。問い詰められても曖昧に受け流して肯定も否定もしない。
三つ目は、黄瀬くんを好きにならないこと。
三つ目は楽々クリアする自信があるけど。もう黄瀬くんのこのにこにこした笑みを見ても、胡散臭くて仕方ない。

「また読書っスか」
「読書もいいよ?涼太にとってのバスケと同じ」
「じゃあ妃にとっては大切なもんっスね」
「うん、そうだね」

いつものキャラが作りものと分かって驚いたけどバスケへの熱は本物らしい。いつも練習していると女子たちが話してるのをよく聞く。中学では全国一だったのに変わらず練習に打ち込んでいるなんて、そこは尊敬する。そういえば、バスケしてるところは見たことないけど。…見に行ったほうがいいのかな。彼女が見に行かないっておかしいよなあ。一度は顔出して噂になった方が…でも一人で見に行くの寂しいんだけどな。

「…妃?」
「…えと、バスケ…今度見に行っても」

言うと黄瀬くんは驚いた顔になり目が大きく開いた。そんなに驚かなくても。けどすぐに笑みに消えた。私の意図に気付いたのだろう。大きな声で頷く。

「もちろん!妃が来るならやる気出るっスよ!」
「はは、ありがと」

苦笑いすればもう今日の役目は終わったと言うように「んじゃそろそろ帰るね」とすぐに教室を出て行く。私と話すのはもちろん女子たちを遠ざけるためでしかない。そういう約束だから別にいいけど。
女子たちの視線は黄瀬くんに着いていき黄瀬くんが教室を出れば私に集中した。ああ、また質問攻めにされる。私は拒否オーラを出すため本を開き文字に噛り付いた。
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