Dazzling yellow


「…は、ほんとなにやってんだか」

勢いで学校まで来てしまった。けど予想通りというか当たり前というか。辺りは真っ暗。閉まった門、真っ暗な昇降口。見た瞬間我に返った感覚になる。
この時間に人がいる方が怖いっつの。幽霊でも出そうなほど静かな校舎に新鮮ささえおぼえる。すぐ帰るのもなんだかな、と頭をかく。特に理由はないが学校の周りを歩いてみることにした。今度中学の友達を連れて肝試しでもしたいなーなんて思いながら。あ、でも誰かに見つかったら先輩たちに迷惑かかるなー。
明日になったら妃になんて言ってやろう。お前のせいでオレは夜中にこんなところまで来てしまった。本当意味分かんない。本当、どこいんのお前。

はーーっと溜息を吐く。最後のあがきだ。これで出なかったら帰ろう。つか、出たとしても帰る!ズボンのポケットから携帯を取り出し電話をかける。

「―――え、?」

電話を片手に、黄瀬は目を大きく開けた。
暗闇で映える光。電話をかけたのとタイミング良く、校舎のある階の窓が光っていた。電気ではなく、携帯画面が明るくなったような光。

「妃…?」

驚きながら確信する。胸に手をあてなくても鼓動が大きく脈打つのが分かった。黄瀬は勢いに任せて跳び塀を超えた。







「ああ、また鳴ってる…」

もう何十回目だろう。携帯が鳴っているのを聞く度に恨めしく思いながら妃は体育座わりをして頬杖をついていた。体を縮こませて少しでも寒さを凌ぐこの大勢が一番楽だった。
ていうか電話はめちゃくちゃ鳴るくせに誰も来る気配ないんですけど。黄瀬くんは帰ったんだろう。それは仕方ない。放課後約束をしてそれを破ったとしても、来なかったことを不審に思うかムカついているだけで半日連絡がついていない状態だ。明日問い詰めようとか普通はそう思うだろう。まず帰ったと思ってるはずだ。問題は親だ。この時間になっても帰って来ない。連絡もつかない。流石に警察に行くなり辺りを探すなりしてもらわないと困る。本当、どうして携帯を鞄に入れてたんだろう。いつもはポケットに入れて持ち歩いてるのに。
結局そう考えずにはいられない。何もすることがないこの状態ではネガティブ思考のループだ。
まあ誰が一番悪いかって。
どう考えても中谷さんですけどね。その時、また電話が鳴った。
もうまたですか!

「妃!」
「…え、」

名前を呼ばれて驚く。走ったのか息を整えるのが聞こえる。立ち上がってドアの方へ近づく。今の声は、
名前を呼んだ瞬間ドアが開く。
暗闇でも映える黄色。見たことがない焦りの入った黄色い目と、動きに応じて跳ねる髪が目に焼き付いた。

「黄瀬くん」
「―――……あ、あんたなにしてるんスか。こんなとこで」
「えっと、閉じ込められて。携帯鞄の中だったから誰か来てくれるまで待ってた」
「はあああああ」
「き、黄瀬くん!?」

力が抜けたようにがくんと膝を折る。俯いたまま動かない黄瀬に慌てる。
大丈夫?と屈んで覗き込むと手を掴まれた。ぎゅっと握られ、妃は握り返すべきなのか迷いながらそっと握る。

「それ、アンタの言うセリフじゃないから」
「でも苦しそうだし」
「そりゃ、いくら電話しても出ないし。絶対ないだろうと思って学校行って電話鳴らしたらタイミング良く廊下が光ったら走るっしょ」
「そ、そうだよね」

そりゃそうだと頷きながら屈んでいた妃は座って黄瀬の目線に合わせる。握っていた手に力を入れた。

「ありがとう。心配して来てくれたのと、助けに走ってきてくれて」
「……誰にやられたんスか?」
「…長くなりそうだからまた今度でいいかな?お腹空いちゃって」
「あ、ああ」

ぱっと手を放して廊下に出る。
名残惜しそうにしてたのには気付かず妃は伸びをした。

「本当に助かったよ。ありがとう」
「…それは、どういたしまして」

疲れた顔で答えると「あ、そういえばお菓子が入ってるはず!」と転がっていた鞄を漁る妃。親に連絡は後回しなんスね…。まあ、本当にお腹が空いてたのかもしれないけど。校舎はまだ寒いし真っ暗だしこんなところにいつ出れるか分からない状態だったなら余計空腹を感じてたのかもしれない。
黄瀬もようやく廊下に出ると携帯が鳴った。お菓子を既に口に運んでいる妃も聞こえているだろうに出ようとしない。本当こいついいメンタルしてるわ。

「また鳴ってるっスよ」
「え、黄瀬くんじゃないの?」
「いや?かけたのは夕方と二時間くらい前と学校の外にいた時の三回。オレがこの部屋に着いたときも鳴ってたスけどあれは違うよ」
「そうなの?あんなにたくさん鳴ってたのに」
「だから親でしょ。心配してるんでしょーが」
「たくさん鳴らすくせに来てくれたの黄瀬くんだけだし…」

なかなか外に出られなかったことに不服なのかブツブツ言って中々出ようとしない妃。その言葉にちょっとテンション上がりつつ。鳴り続ける電話を鞄から見つける。「ホラ」と渡そうとした瞬間、着信の文字と相手の名前が表示されている画面を見て固まる。それは、彼女の親の名前ではなかった。

「高尾、和成…?」


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