こんなはずじゃなかった


やっべ

血出た。指を見ながら焦る。慌てるほどの怪我ではないがモデル的には怪我なんてNG。それは当たり前。けど、バスケをするなら怪我なんて当たり前。痛いのが怖くてバスケなんかできるか。でもバスケで怪我をするのでもなく授業中に怪我してしまうとは思わなかった。ただぼんやりとしている黄瀬に隣の席の女子が驚いた顔をした。

「黄瀬くん、血でてるよ!?」
「ははは、うっかりしちゃった。紙ってときどき鋭利っスね」
「ダメだよ。黄瀬くんモデルなんだから!大丈夫?保健室行こう」

大丈夫、よりモデルが先に出てくるのね…
内心馬鹿にする。この子が心配してるのは俺自身ではないんだな、と。もしかしたら心配なんてしてないのかもしれない。こんな怪我、なんてことないからただ心配してみせてるだけかもとか、可愛くない考えが浮かぶ。笑って「じゃあ行ってくるっス」と席を立つ。付き添おうとしてきたのを丁寧に断る。こんなのつばでもつけとけばいいけどな。
そうだ、と思い浮かぶ。保健室にむかって歩いていたのを止め、向きを変える。怪我したなら少しはいつもと反応変わるかな。ちゃんと心配してくれるだろうか。



こういうときに限っていないし。
使えないやつ。むかつく。わざわざ出向いたのに。携帯で「ばか」と送信する。妃にとってはとんだとばっちりである。応急処置としてティッシュで指をくるんでいるが意外と血が出ている。こんなことならさっさと保健室に行っておけば良かったと黄瀬は後悔した。

「すんませーん、絆創膏貰いたいんスけど」

保健室に入るが先生も誰もいなかった。移動してるうちに休み時間が終わってしまったからだろうか。絆創膏なんてそのへんの棚に入ってるはずだし勝手に貰っちゃおうとしたとき、ベッドを隠すようにあるカーテンが開いた。

「……黄瀬くん?」
「…は、」

眠たそうな顔でカーテンを開けたのは探していた妃だった。まさかここにいるとは思ってなくて反応に遅れる。だから教室にいなかったのか。

「ごめんいま起きたんだけど…どっか怪我したの?先生呼ぶ?」
「いや、ちょっと指切っただけで」
「ティッシュだけで処置はダメだよ。待っていま消毒するから」
「自分でできるからいーって!それより妃のが具合悪いんじゃないの?寝てたんでしょ」
「んー、…ちょっと眠くて」
「仮病かよ」

呆れ顔する黄瀬に妃は苦笑いをする。見つかってしまったと思ってるのかもしれない。ベッドから起き上がり消毒液を取り出す。どこにあるかも完全に把握してるらしい。「手、出して」と言いながら黄瀬の手をとりティッシュを捨てる。慣れた手つきで消毒する。されるがままでただ処置を見てるだけだった黄瀬。急に恥ずかしくなってくる。さっきまで寝てたせいで少し髪がボサついてる。目をそらすと少し乱れたシーツやらが目に入る。

「っ」
「ちょっと、急に動かないでよ」
「ご、ごめん」

じっとしててと怒る妃に謝る。なんでこんな自分が動転してるのか分からない。こんなの全然、別に、なんともないはずなのに。こいつ限定…?いやいやそこまで俺がはまってるわけない。てかこいつの反応見ようとしてたのになんでこんなことになってるんだろ。

「はい、思う存分動いてください」
「…どもっス。絆創膏外さないようにする」
「うん。傷治るまでは剥がさないほうがいいね。あ、付け替えは大切だけど」
「……」
「ほら、授業中でしょ?戻りなよ。私は戻るから」
「ベッドに!?アンタ意外とサボり魔っスね!」

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