不毛な関係


「あぶない!」

きっかけは簡単だ。駅のホームで転びそうになった私を引っ張り助けてくれた。危なく線路に転落するところだったのを同じ学校の有名人、黄瀬涼太くんが助けてくれたのだ。
瞬時に助けてくれたのと、相手が黄瀬くんだった二重の驚き。いくら世間の流行に疎くても彼くらいは知ってる。助けてくれたことにお辞儀して礼を言うと笑って「いいっスよ」なんて。優しいんだな。そう思った。

「君さ、工藤さんだよね?」
「あ…はい。知ってたんですか」
「うん。実は転ぶ前から見てたんだ。工藤さんかなって」

制服だから同じ学校なのはバレてるだろうが名前を知られてるとは思わなかった。転んだことに羞恥心を覚える。

「あの、本当ありがとうございました。お礼に何かできることあれば」
「…いいの?」
「も、もちろんです。命の恩人ですし!」

転んですぐ電車が見えたからもしホームから落ちていたら轢かれてたかもしれない。そう思うと黄瀬くんは命の恩人って言っても過言ではない。私は興奮気味に言った。
その様子が面白かったのか黄瀬くんはにこっと笑顔になった。「やったぁ」なんて無邪気にはしゃぐ。

「ほんとはね、工藤さんに頼みがあったんっスよ」
「頼み?」
「でもこの際それをお礼ってことにしてもらおうかな」
「うん、いいよ」

黄瀬くんが私に頼みって、なんだろう。よく分からないまま頷く。さっきと変わらない笑顔で彼は答えた。

「彼女のフリ、して欲しいんだよね」
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