育っていく


「…ちわっス」
「…え、」

妃が改札を出れば鞄を肩にかけ、壁に寄りかかっていた黄瀬が立っていた。妃を見ると待ってたと言わんばかりに隣に並び、行くぞと合図する。駅で会うなんて、黄瀬君に彼女のフリを頼まれた時を思い出す。ああ、そうか。周りに見せつけるためか。周りを見渡せば海常の生徒が多数。そして他校の制服を着た学生など。当然、視線の先は黄瀬だ。「黄瀬くーん」と声がかかればにっこりとそれに答えている。
だがすぐに振り返り妃を呼ぶ。立ち止まったままだった妃は小走りで隣に追いつく。嫌な視線は全て私に。もう慣れたことではあるが他校の生徒は妃の存在を知らないためかなりショックを受けている。「え、あれ誰」「海常の制服だよね?」「…カノジョ?」「えー、うっそ」「でもあれってお迎えじゃない?」騒ぐ女子たちにどう反応していいものか悩む。海常の女子たちは妃のことを知っているため冷たい視線を送るかコソコソ友達と話すか、それだけだ。

「怒ってる?」
「…怒ってはないけど。事前に言ってくれればもっと心構えできたのに」
「登校デートの?」
「冷たい視線からの」

期待外れだったのか「ああ」と不満気に答える。
迎えは朝の思い付きだった。連絡することも考えたがこの前した電話の会話を思い出しできなかったのが本音だ。考えてみれば自分から待つなんてかなりすごいことしてるんじゃないかと思ったが既に黄瀬と妃の関係は「周知」のことだ。待ってたっておかしくない。
脇道に逸れしばらく歩けばひと気も少なくなる。気を抜いたのかずっと半目になる黄瀬。そんな黄瀬を見て妃は「ねぇ」と見上げた。

「そういえば朝練は?」
「……」
「黄瀬くん」
「いや、気付いたら帰宅部が登校する時間になってたっつーか」

焦る黄瀬と眉をひそめる妃。妃の顔が本気で変わった。今までに見たことのない表情に更に焦る。中学の頃バスケ部のマネージャーだったからだろうか。真面目の性格も加えてサボりには敏感なのかもしれない。

「私を待ってる暇があったら走って行くとかしたらどうなの」
「お、怒ってる?」
「…怒ってます」

笑顔が逆に怖かった。

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