転がす


学校から帰ってきてすぐに買い物を頼まれた。財布と携帯だけを鞄から取り、制服のまま家を出た。
買い物を済ませ、スーパーから出ると秀徳の制服を着た二人組が目に入った。

「あ、」

思わず出た声に二人は足を止めた。偶然、その二人は妃の知り合いだった。背の高い方の彼はびっくりした顔で私を見ている。あ、覚えててくれてる。その緑間くんの隣から、聞き慣れたはしゃぎ声で秀徳の制服を着た和成が私を呼んだ。

「あれー妃じゃん。買い物?」
「うん。おつかい頼まれて。そっちこそ部活は?」
「それが嬉しいことに今日は練習無し!だから真ちゃんとスポーツショップ寄ろうと思って。妃の家の近所じゃん?会えるかなーって思ってたけどまさかこんなとこで会うとはね!」
「ああ、あのスポーツショップか。まあ近所ってほどでもないけど…。部活ないのに結局バスケのことで行動してるのが高成らしいね。緑間くんも」
「ちげーよ!俺は楽しくのんびり過ごしたかったのに真ちゃんがどうしてもテーピング買いたいって言ってさ。使ってるメーカーいつものとこになかったんだってー」
「へえ」
「テーピングにこだわり持つ人なんて真ちゃんぐらいっしょ!もう笑える」
「五月蝿い。毎日着けるものなのだから拘りがなくてどうする。なにもおかしいことはない」

眼鏡をくい、と持ち上げ真面目に答える緑間に高尾がぎゃははっと笑う。こいつはいつも五月蝿いと顔を顰めるが妃を見ればなんとも思っていないようだった。幼馴染、と言っていた。(高尾は親友だと言っていたが)これには慣れているんだろう。性格もあるのかもしれない。会ったのは二度目だが高尾とのやり取りでなんとなくこんな人間だというのは伝わってきた。

「他に買うものは?」
「ないよ」
「んじゃ三人で行こう」

自然な手つきで妃から荷物を取り、一瞬持ち上げて自分が運ぶと合図する。礼を言うと返事代わりににっこりと笑った。

「行こうって、私も?」
「どうせ妃ん家そっちの方じゃん。一緒にいこーぜ」
「…そうだけど、緑間くんに迷惑じゃ」

ちらっと申し訳なさそうに緑間を見上げるが高尾が素早く妃の顔に詰め寄る。

「お前さ、気にしすぎ。ね、いいでしょ?真ちゃん」
「……ああ」

特に断る理由もない。それに、俺や工藤がなにか言ったところでそうするつもりなんだろうと言えば「さすが真ちゃん!分かってる〜」と笑った。
緑間が頷けば妃は「ありがとう…」と礼を言いながらなぜか驚いた顔をしていた。

「あ、じゃあちょっと待って!和成、ちょっと返して」
「んー?」

レジ袋をごそごそ漁り紅茶味の飴玉の入った袋を取り出した。開けてそこから小分けになった袋を四つ取り出した。二つずつ、高尾と緑間に手渡す。

「荷物持ってくれるお礼と、和成の我儘に付き合ってもらってありがとうってお礼ってことで」
「妃ちゃん、俺の保護者みたい」
「こんな子に育っちゃって。面倒見る側は大変」

どちらかといえば妃は大人しめの印象で、高尾と親友だというが中々結びつかない。けど高尾の冗談に素早く乗っかるあたり流石だ、と思う。
冗談は苦手だがどことなく自分に妃と似たところを感じる。自分があまり話さない方だと分かっているし、高尾や先輩がいる限り有り得ないが話しかけられなければ誰とも話さず学校が終わるだろうと思っている。彼女からすればこんなこと思ってないかもしれないが、そんな自分とどこか似た部分を感じる妃を緑間は同族意識を持っていた。会ってまだ二回目なのに、(高尾がいるからというのも大きいが)気まずさを感じない。自分にとってはだいぶ珍しいことだ。
今日の運勢は7位でまずまずだ。しかし、悪くない。緑間は渡された飴玉をじっと見つめた。
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