命令です


ステージに座り足をぶらぶらさせているとしばらくして征くんが戻ってきた。あの三人を懲らしめたんだろう。「悪い、待たせた」と謝るとステージに上がりあたしの隣に座った。

「仲良いんだね」
「別に。部活が同じってだけだ」
「ふうん?ていうか征くんさ、人気あるんだね」
「は?」
「だって、覗いてる人たちいるじゃん」

さっきから体育館の様子が見れる窓からチラチラ覗いてたが赤司が戻った途端ずっと見てるからそうなんだろう。
朱音が言えば赤司は顔をしかめた。「最近纏まりつかれてるんだ」と。なんだ、気付いてたのか。

「まー征くん格好良いからしょうがないんじゃない?嬉しく思っときなよ」
「格好良い?」
「そうそう」
「……朱音は俺が格好良いと思ってるのか?」
「え、そこ広げるの?」

真顔で聞く赤司に朱音がこういうやつだったと面食らう。しばらく離れていた間に成長した赤司は男子と感じるようになった。格好良いって思ったのは事実。周りよりそういうの疎いあたしが思うんだから他の女の子なんてもっと思うだろう。

「けど、これ以上付き纏われるのは迷惑だ」
「迷惑なんて可哀想だよ」
「部活に迷惑がかかったら」
「征くんが周りの迷惑を考えてる!?わあ、成長したね!」
「……そういえばお前はそんなやつだったな」

呆れ顔の征くん。何よりも驚くことだよ、と言っても征くんは溜息を吐くだけだった。
練習しないでこうやって体育館を使ってるのもバスケ部に迷惑なんじゃないのかとも思ったけどあたしのせいにされかねないから黙っておく。

「ああやって練習中でも覗かれたら気が散る」
「まあ確かに。観にくるならちゃんと考えてって話だよね」
「ああ、そうだ」

顎に手を当て考え込んだ風の征くんは思い付いた、とニヤリとした。同時にあたしに嫌な汗が伝う。この表情のときの彼はあたしに迷惑しかかけない。無意識に距離を開けようとするとがしりと腕を掴まれた。ぐい、と引っ張られ唇を奪われる。

え、奪わ…え?

「な、ちょ、…征、くん!?」
「彼女のフリをしてよ、朱音。そうすればあいつらも勝手にいなくなる」
「はい!?」
「バスケ部を助けると思って」

それに、昔は結婚の約束もしてた仲だし。そう言って手を離した。キスしといてそれについての謝罪はないのか。
体育館の外から誰かの「イヤー!」って声が聞こえる。それ、あたしが言いたいセリフ…

「俺に逆らったりしないよね?」
「……もちろんです征十郎くん」

恥ずかしすぎて泣きたい。
ああ、でも昔からの言いなり根性も変わってないらしい。
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