日本一になります 昨日の早朝、朝礼前にボク以外の一年生バスケ部は屋上の前で意気込みを叫んだ。自分の番だと思ったら先生が来て、続きをすることが出来なかった。もし、バスケ部に入れなかったら。なにか別の方法を考えなければ…―― 朝、玄関を出たら朱音さんが家の前に立っていた。今は、朝練だとしても早い時間だ。驚いて固まってしまう。 「どうしたんですか。なにかありましたか」 朱音の姿を見て慌てて駆け寄った黒子に思わず朱音は笑ってしまう。 「心配しすぎ。…なんかでっかいことするつもりなんでしょ?」 「はい。手伝ってくれるんですか」 「うん。…良い人達だよね。キセキの世代を倒す以前に、みんなの力になりたいと思った」 「…でも大丈夫なんですか。カントクはセンパイで気をきかせてくれるとは思いますが。これから大変ですよ。キセキの世代にも会うことになります」 「まだ怖いけど、でも」 朱音は一度目を伏せ、まっすぐ黒子を見た。凛とした表情。ふと、昔の彼女と重なる。 「黒子くんが日本一目指すなら、あたしも隣で目指したい」 「……そ、れは。とっても頑張らないとですね」 「そうだよ。たくさん練習しないとだよ」 朝焼けの中笑う。早い時間で周りには黒子たち以外誰もいない。まるで修学旅行の朝のような清々しい空気。朝の冷たさで頭もしっかり働いている。決意は出来ていたけど、より固く強いものになる。 「で?」 「ん?」 「いつから待ち伏せしてたんですか?」 「……ついさっきだよ」 「い・つ・か・ら、待ち伏せしてたんですか?」 「二時間前です」 「バカですか!!真っ暗な時間に出歩くなんて!ただでさえ」 「あーあー!ごめんなさい!でも気になったんだもん!聞いたら怒られそうだったから黙って来たの」 「怒るに決まってるでしょう!」 こっぴどく叱るも耳を塞いで聞かぬ知らぬを貫こうとする朱音。ここに誠凛バスケ部の誰かがいればふたりの会話と態度に驚くだろう。「黒子が怒ってる!」「朱音ちゃんが子どもっぽい!」と。数か月後、その光景を見ても誰もなんとも思わなくなるのであるが。 「ね、朝早く学校行ってどうするの?なんか策ある?」 「ひとつ考えてます」 「リコ先輩があっと驚くようなものって難しそうだけど…どんな?」 「メッセージを書きます。校庭に」 「全裸告白は嫌ですって?」 「嫌ですけど」 「ていうか、あたしもそれ対象に入ってるのかな…」 「流石にそれはないでしょう」 不安に感じながら苦笑いする。「そ、そうだよね」と言いながら気付く。自分で言い出してしまったことだが、告白。その言葉にどっと暗い気持ちが襲ってくる。焦燥感、寂しさ、悔しさ。色んなものが渦巻いて苦しくなる。ある人の姿が浮かび、すぐに打ち消す。黒子に気付かれないよう「早く行こ」と急かすように先を歩いた。 先行く朱音に、黒子は視線を外さなかった。じっと見つめる。なにも言わず、ただ静かに溜息を吐いた。 体育倉庫の鍵を使い、ライン引きを手に取る。 「あったあったー。てか黒子くんどうやって鍵持って帰ったの?」 「きちんと放課後職員室に入ってお借りしますと言って持って帰りました」 「…それ、絶対気付かれてないよ」 「そうですね」 「確信犯か」 「日本一にします」という単純なメッセージ。でも、それだけで伝わるだろう。グラウンドいっぱいに書けば、それはもう立派な決意だろう。入部前のこれはメンタルを鍛える意味も含まれているのかもしれない。 「朱音さん…「ま」と「す」できますか?」 「できない〜〜〜!さっきから書いては足で消して書いてる…」 「曲がる部分が難しそうです」 「黒子くんやって!」 「はい。…あ、」 自分が書いていた文字を終わらせ朱音のところに行こうと歩き、盛大にコケる。学ランのままだったため石灰がまんま付着する。 「ああああ!馬鹿!真新しい制服が真っ白だよ!」 「やってしまいました。どうしましょう。これじゃ犯人がバレてしまいます」 「いや、多分バスケ部ってことはバレると思うよ…昨日の今日だもん…」 言いながらポケットからハンカチを出し黒子の腕をぽんぽん払う。転んでもテンション動じないのは流石と思うが呆れてしまう。やっぱりあたしがいないとダメだ…!と決意を固くする。黒子は黒子で同じことを考えているが。多分、お互いそう思われてることは分かっているのだろう。 そろそろ急がないと朝練のある生徒や先生たちが来てしまう、とふたりは「ま」と「す」の丸部分に取り掛かった。 「はあ、終わった……!」 「良かったです。間に会いましたね」 「でも鍵返せてないよ?」 「あとで堂々と返しに行きます」 「やだ、頼もしい!」 校舎脇にの階段に座り軽口を言って笑う。なんだかとても久しぶりな気がした。快晴の中、ふたりしかいない校庭、笑いながらなにかするのはとても楽しかった。気持ちも晴れているのは久しぶりだ。 「いつぶりだろうこんなに笑ったの」 「…そのうちすぐにまた笑えますよ」 「…そうかな」 「楽しいと思いますよ。誠凛バスケ部」 黒子は立ちあがり朱音の前で手を差し出して微笑んだ。まだ少し石灰がついている。まあ、一応証拠としてこれくらい付けておいた方がいいのかもしれない。黒子くんには、なんとしてもバスケをしてほしい。帝光バスケ部を辞めて、しばらく経って。まだバスケが好きだと聞けた時、そう思った。 朱音は微笑い返して手を取った。立ち上がる。 「練習メニュー赤司くんよりハードだったらどうする?」 「………それは、ちょっと無理ですね」 もう、こうやって冗談としてあの人の名前を言えるようになった。 いつか彼に会ったら、とはまだ考えられないが。だいぶ前進できた。朱音も黒子も。 「大丈夫だよ!黒子くんが倒れたらおぶってあげる」 「一昨日きやがれです」 |