会いたくないけど逢いたかった


「壱原さん、次美術ですよ。移動です」
「あ、そうだ」

休み時間寝てたら隣の席の黒子くんに起こされた。あれからけっこう経って彼とは随分仲良くなった、と思う。黒子くんの手には美術の教科書が握られていた。寝ぼけ目で周りを見渡せばあたしたち以外誰もいない。もうみんな行っちゃったのか。
先に行っててと言い私は教室の後ろにある自分専用のロッカーを漁る。びじゅつ、びじゅつ…あった!
教科書を見つけて引っ張り出す。振り返れば静かな教室にぽつんと立っている黒子くんと目が合った。

「あ、待っててくれたの?ありがとう」
「どういたしまして。…急がないと始まりますよ」
「うん」

ドアを開き教室を飛び出す。するとちょうど通りかかった人にぶつかる。

「わっ、ごめんなさい!」
「……朱音…?」
「え?」

名前を呼ばれ顔を上げればまず目立つ赤髪。驚いた顔で私を見つめる彼は例の、

「…征くん」
「なんでここに…帝光に入ったのか…?」
「あ、うん。久しぶり」

混乱してるらしい。そういえば、あたしが越して来た事も同じ学校だってことも知らなかったんだから当然か。
また何か言おうとしたのか口を開いた赤司より先に朱音の後ろで見ていた黒子が口を開いた。

「すみません赤司くん。僕たちもう行かないと授業に間に合わないです」
「……黒子」
「放課後、体育館に壱原さんを連れて行くのでそこで話してください」
「えっ、黒子くん!」
「行きましょう、壱原さん」

すたすたと廊下を歩く黒子くん。征くんを置いて慌てて着いて行く。ちょっと目を話した隙に見つけられなくなってしまうからだ。黒子くんの影の薄さは逆に凄いと思う。友達として失礼だけど。あれだ、貶し愛ってやつだ。追いつくまでちょっと走った。

「……覚えてた」
「だからすぐにバスケ部見にくれば良かったんです」
「う、うん」
「今日は体育館来てくださいね」
「…」
「じゃないと僕が怒られちゃいますから」
「…分かった」

征くん怒ると怖いもんね、そう呟くと黒子くんは少し驚いた顔をした。そして少しだけ、笑った。


/ストロベリー夫人はご機嫌斜め
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