めずらしい心配


「邪魔」
「…は?」
「そこに座り込んでたら通行の邪魔だろうが」
「ああ。どーぞ」

伸ばしていた足を曲げて道を作る。「んな座り方して、いつも言ってるモデルのイメージとかいいのかよ」と呆れたような声を出した。答えは求めてなかったらしくよいしょ、と声を出してオレの隣に座った。…通行しないのかよ。

「なんスか」
「お前、最近1on1って言ってこないな」
「…やってほしいんスか?」
「別に」
「そうっスよね。青峰っちがもうやりたくねえっつってボール持とうともしないんスよ」

言い放ってそっぽを向く黄瀬を青峰はじっと見ていた。最近、険しい表情をするようになってきている青峰。周りからしたら敬遠されがちだ。しかし、それはバスケが大好きだからというのはバスケ部なら、青峰の周りでバスケをしている者なら誰でも知っている。黄瀬はもちろん、青峰に臆していない。

「まだ怒ってんのか?」

なにがとは言わない。そんなことは言わなくても分かっている。怒って、ずっと怒ってるうちに色んなことがどうでもよくなった。イメージも、仲間も、好きな女の子のことも。

「青峰っちには分かんねっすよ。つか、あんたたちも秘密を言わなかったってことで同罪だと思ってるし」
「…」
「別に謝ってほしいわけでもないし、なにをしてほしいってんでもない。オレのことは放っておいてくれればいいんスよ」

朱音っちみたいに。
そう言えば青峰は「ああー」と頭をガシガシかいた。そして悪戯を咎められた子どものようにぼそりと呟いた。

「俺なんだよ」
「は?」
「黄瀬はともかくその周りの女子が知ったら痛い目に合うって」
「……青峰っちが?」
「…おう」

目を合わせて頷く。居心地が悪いのかそわそわしている。

「あいつ気を付けてないとすぐボロ出すからな。バラすにしてもバラさねーにしても最初に一言いっとかねえと」
「……青峰っち」

黄瀬は驚いた眼をして青峰を見る。

「朱音っちのこと、好きなんスか」
「おいどうしてそうなる」

間髪入れずつっこむ。なんだかんだ言って仲が良い朱音と青峰。それは見てるだけで友達としてと分かる関係だ。が、思った以上に青峰は朱音を大事に思っていたらしい。

「青峰っちが言い出したからって実行したのは当事者の朱音っちっス。言い出したのが青峰っちだから許すとか、そういうもんじゃない」
「んなの分かってる。けど、言っとくべきだなと思った」

言って、青峰は立ち上がる。言いたいこと全部言って満足したのか「んじゃ」と来た方向へと向いた。通行しないんスね。
青峰が見えなくなってそのまま下を向き、はーっと息を吐く。分かってる。分かってるよ言われなくって。自分で呆れる。

「……騙されてても、まだ好きとか」

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