僕は、私は、


話は数時間ほど遡る。

「コートの掃除をしておいて」
「う、うん」

どもりながらも首相である赤司の言葉に頷きミーティングへと移動する彼らを見送る。赤司の姿が見えなくなるとほっとしてしまう自分に呆れる。好きな人だって気付いてもこの状態じゃ彼女のフリをしていた時の方が断然親密だった。それで自覚がなかった分、まえに戻りたいとは思わない。
彼らが出ていった扉を見ながらぼーっとしていたことに気付き慌てる。今日は一年生がいないのだ。あたし一人で掃除しなきゃ。掃除用具は後ろの倉庫だ。勢いよく後ろを振り向き一歩踏み出す。と、誰かにぶつかった。

「いって」

勢い良かったせいで相手も尻餅をつき朱音も反対に転ぶ。頭をおさえるが相手が立ち上がったのを感じる。ていうか、さっきみんな出ていったよね?ミーティング中なのに。誰がここにいるんだ。声もぶつかったときの体格も、男子のものだ。赤司の言葉を無視してサボるなんて。なんて恐ろしいやつがいるんだ…。じんわり痛む頭だが、あてていた手を放し相手の顔を見上げる。
そして、相手を認識すると朱音は目を丸くした。

「こんの石頭!!動かないと思ったら急に動きやがって」
「……灰崎?」





ベンチに二人並んで座る。あれ、なんでこの状況で掃除中断して座ってんの?しかも灰崎と…と遠い目をする。落ち着かず背筋を正して縮こまる。灰崎はといえば幅を使えるだけ使い偉そうに座ってるだけだ。黙り続けている。どうしてここに来た。

「あの、灰崎…なんでここに?」
「お前赤司と別れたんだって?あ、『恋人ごっこ』か」

笑顔で話す灰崎にあー、これが目的ですかと苦笑いする。笑いに来たのか。理由が分かり、それが灰崎らしいことと分かったら安心した。ご機嫌そうな灰崎と対比して半目になる朱音。

「そーだけど。わざわざ出向いて笑いにくるとかどんだけ喜んでんのあんた」
「デートキャンセルして来たから」
「うわ、うわうわ」
「いやぁ、最近あんたらの話ばっか聞くからさ」
「…そんなに広まってるんだ」
「乗り換えた女の子がまた目立つ子だしねー」

脚を組んで見下すように見てくる灰崎。話したこともない人たちが話してるのを聞くより見知った奴が馬鹿にしてくる方が楽ではあるがさすがにその話題はグサッとくる。

「その子のが可愛いし」
「…まあ、それはそうだね」
「……あ?なんだよその反応。沈んでんの」
「うっさいな。失恋したんですー」

ムカつくのと恥ずかしいのとで肩を殴る。男子相手にダメージを与えられるわけではないが全力でいった。意外そうな顔をする。

「やっと自覚したんか。んじゃ赤司が冷めた的な?」
「冷めたんじゃないよ。元からあたしが彼女のフリしてたのは幼馴染で頼みやすかったからで元から」
「やっぱうっざいのは変わってないな」

本気で嫌な顔をする灰崎。ようやく人から見てもバレバレだった気持ちに気付いたのかと思ったら赤司の気持ちの方には気付いてないのか。これは本格的に赤司がこいつの興味薄れたんだなと確信する。

「あ〜残念だね朱音チャン」
「その嬉しそうな顔むかつく」
「ありがとう」
「ばーかばーか」

昔のような会話に懐かしさを覚える。そういえば灰崎とは青峰と同じように馬鹿な会話しかしてなかった。青峰の方が仲が良かったけど。

「でもそのわりには元気そうだな」
「…それがあたしですから」
「ふーん。その方がお前らしいんじゃん?」

遠慮せずがしっと朱音の頭をつかむ。あれ、撫でてるのかと気付くのに時間がかかった。
まさかの灰崎からの言葉に思わず涙腺が緩む。黒子や周りのみんなには落ち込んでたら心配されるのは分かってるから心配させまいと強がっていた。別に無理して強がってたわけではないけどやっぱり気を張ってるとは思う。バスケ部内部のことを知っていてかつ身近ではない灰崎だから油断したのかもしれない。身近じゃないからこそ、弱ってるところを見せてしまった。口喧嘩する奴に励まされるとちょっと感動というか。
泣いてることに気付いてるんだろうけどそれについて言ってこないことにもなんかきてしまう。反則だ。灰崎のくせに。

「ま、頑張れよ。お前の味方はしねーけど」
「……」
「黒子がなんとかしてくれるんじゃね?俺とのときもそうだったろ」



「僕と付き合っているフリ、しますか?」

ふと気づく。いつも傍にいてくれてるのは、助けてもらってるのは黒子くんだった。なんだか黒子くんに全面任せてる気がするなあ。朱音はまだ寝ぼけているはっきりしてない頭のまま「うん」とだけ頷いた。

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