どしゃぶりの愛は新世紀


頭の中がむしゃくしゃしている。急に今までの赤司と朱音が付き合ってなかったと言われても事態が呑み込めない。あの二人を見てたらそんなこと気付けるはずがない。だってあんなに。あんなに、楽しそうだったのに。みんな、あれを見ながら偽物の関係だと思ってた?有り得ない。なんで今までニセモノの関係と知りながらなにもしなかったんだ。一年以上?もはや意味が分からない。全員知ってた。俺を除いて。
ダメだ。イライラしてちゃんと頭が働かない。今すぐなにか蹴飛ばしたい衝動に駆られた。ああ、頭を冷やさないと。
黄瀬は朱音たちから背を向けた。ずんずんと進んでいく。しかし、体育館を出ればロッカールームに行ったはずの赤司が立っていた。まるで黄瀬を待っていたかのように。立ち止まり、赤司を見据える。近くに赤司の「彼女」は見当たらなかった。

「立ち聞きとは悪趣味っスね」
「涼太、僕は目がいいけど聴覚は一般的だ。ここまで話が聞こえるわけないだろう」
「…じゃあここでなにしてたんスか」
「誰も戻ってこないから呼びに来た。けどなにか揉めているようだったからね、様子を見ていた」
それらしく聞こえるが相手が相手だ。それだけではないだろうと分かる。今、なにかとてつもない違和感があった。なんだろう。自分の感覚が正しければ赤司はなにか隠している。

「あんた、朱音っちと付き合ってなかったんスね。まんまと騙された」
「……お前はどこでも人気者だからな。どこから真実が漏れるか分からない。注意しただけだ」
「俺のこと『分かってた』くせに?」
「朱音が鈍感なだけだ」

「どっちが」と心の中で呟く。分かってないのは赤司だって同じだ。さっき朱音は俺になんと言ったか。けど、教えてやらない。俺には教えてくれなかったんだから、おあいこだ。

「で、今の彼女サンは?いないみたいっスけど」
「マネージャーでもないからな。帰ったよ」

素知らぬ顔で赤司は体育館に入りキセキたちを呼んだ。ミーティングの時間だ、と。良い空気ではないが今は部活中だ。やらないわけにはいかない。青峰を先頭に歩き出した。

「朱音」
「え、な、なに…赤司くん」
「ミーティングの間にコートを掃除しておいて。一年は今日社会科見学でいないから」
「…うん。分かった」

赤司をしっかり見ようとしない朱音にもどかしさを覚える。それに比べ、いつもと変わらないと思うくらい普通に接する赤司。いや、この状況で普通の方がおかしいだろう。

結局、ミーティングは予定よりも大幅に遅れて終了した。
赤司を除く全員が上の空だったためだ。
朱音のこと、そして自分たちのプレーのこと。悩む問題はいくつもあった。





「さん…朱音さん」
「ん、……黒子くん?」
「ベンチで寝ないでください。もう帰りますよ」
「……えっ、もうそんな時間!?」

ベンチで横になっていた朱音はがばっと起き上がった。モップをかけ終わり、いつの間にか寝てしまったらしい。目の前に立っている黒子は既に制服姿。どんだけ寝てたんだろうと目頭をおさえた。

「気分悪いんですか?」
「いや、自分の馬鹿さに頭を抱えたくなったというか」

笑おうとするが逆に涙目になって慌てて俯いた。今日は色々ありすぎた。気を抜いたら泣いてしまいそうだった。自分が悪いのに。そんな朱音を見て黒子は小さく息をはいた。鞄を肩から下ろし朱音の隣に座る。

「やっぱり部活に来るのは辛いですか」
「…黒子くんに言われたくないなあ」
「え、」
「自分のことで手いっぱいでしょ。あたしは大丈夫だから」
「朱音さん」

言うが早いか黒子は俯いている朱音の頭にこつんと自分の頭をくっつけた。朱音がびくりと動いた振動が伝わる。
朱音は頭をくっつけたまま少し角度を変え黒子の顔を覗いた。前髪が垂れて彼の表情は見えない。ただ、口元は少し笑ってるように見えた。今までで一番近い距離で彼の顔を見ている気がする。寝起きで思考がぼんやりとしているからか、黒子くんってこんなに色白いんだとマイペースに考える。そして名前を呼ばれたことを思い出す。
なに、と今更ながら聞くと黒子くんは口を開いた。


「僕と付き合っているフリ、しますか?」


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