ごめんねのエンドレス


今の状況が典型的なお話だった場合、あたしはショックで倒れたりするんだろうか。冷めた頭で考える。でもショックなわけでもムカつきもしない。赤司くんはそれから素知らぬ顔でロッカールームへと消えていった。もちろん彼女もその後を着いていく。あるのはただ、喪失感。

「あたし振られたんだね」

赤司と彼女のキスを見てぽつりと呟いた。だってあんなに彼女、幸せそうだ。そりゃ偽物の彼女じゃなくて本当の彼女なら。あたしは赤司くんが好きなのにキスされてもそれに気付かなかったなんて。どんだけ馬鹿なんだろう。でもあたしと赤司くんのキスはただの見せつけるためだけのキスだった。
まさか告白する前から振られるとは。告白するかは微妙だったけど。きっとこれが喪失感の理由だ。あたしは振られた。

「ありえません」
「…ありがとう黒子くん。けど」
「テツの言う通りだ」
「いや、大丈夫だよ。多分みんなが思ってるほどショック受けてな」
「絶対に違います」
「……」

誰か喋らせて!!!
フォローしてくれてるのは分かるけど!なにこのディフェンス!平均身長の高い彼らをじ、と睨んだ。
「てかさー。赤ちんは朱音ちんに振られたと思ってるとかない?」
「え?」
「一年以上彼女のフリしてたんだったら赤ちんの中ではどっからか本当にカノジョだと思ってて、朱音ちんにフリをするのをやめたいって言われて。じぼーじきってやつ?」
「自暴自棄だ」
「…それはないと思う」

あの時確かに「彼女のフリをやめたい」と言って赤司は承諾したのだ。仮に本当に恋人同士だと思っていたとすれば、あの日になにか言われたはずだ。それ以前に、本当になんて思ってるわけがない。

「…なんにしても、赤司のプレーに支障はない。ならば俺たちにとってそこまで重要なことではないのだよ」
「緑間くん、やめてください」
「部活中に手を休めて話すことではないと言っているのだよ。…まあ、他の奴が抜けたところで勝敗に変わりはないだろうがな」
「アン?」

冷たい目線を送る緑間に青峰が反応する。が、それをも遮る声が響いた。

「ちょ、ちょっと待って!!」

それまで黙っていた黄瀬が両手を左右に振り慌てた様子で声をあげた。今まで見たことないような慌て具合にどうしたのだろうと驚く。そして慌てた表情から真剣な表情に変わった。

「彼女のフリってどういうことっスか?」
「…あ」
「そういえば黄瀬ちんって」
「もしかして、騙してたんスか?」
「騙したなんて」
「俺以外の全員知ってたんスね?」
「……」

動揺からだろうか。黄瀬くんがいるのも秘密にするのも忘れていた。終わったことだし、と気を抜いていたのかもしれない。見たことがない彼の目つきに少し震える。睨まれている。
いや、怒って当然だ。一人だけ知らなかったのが自分だったらと思うと。怒るに決まってる。
「黄瀬ちんそれは」とフォローしてくれる紫原の声を止め「ごめん。大丈夫だから」と告げる。これはやっぱり当事者が謝らなきゃいけないことだ。

「そう。本当はあたしと赤司くん付き合ってなかった。黄瀬くんが入部してくる前から」
「っ、」
「黄瀬くんを騙したかったんじゃないの。でも結果的に黄瀬くんにも隠してた。ごめん。…でも彼女のフリして、フリするのやめて、ようやく分かったの。あたしは赤司くんが好き」
「なんスかそれ」
「ごめんなさい」
「……そうじゃないっス」


顔を背けて、彼は呟いた。

「赤司っちは仲間だしそんなことしないって思ってたけど、違ったんなら本気で狙いにいったのにって話っスよ!!!」
「…え?」
「知ったときには赤司っちが好きって自覚してるとか。意味分かんないっスよ、いい加減にしろっつの」

睨みつけてから立ち去る黄瀬。身長差からか気迫のある表情を見て朱音は固まってしまった。いや、それだけではない。黄瀬の言っている意味が分かってしまった。今まで朱音たちがしていたことは、自分が思っていたよりも彼を傷つけたということも。
固まった朱音を心配してか青峰が「朱音…?」と声をかけた。

「黄瀬くんのこと、知ってた?」
「…ああ」
「朱音さんだけです。知らなかったのは」
「テツ!」
「直接言われたことはないですが見てたら分かります」
「…そっか」
「朱音さんと同じくらい分かりやすかったですから。はっきりと」
「そ、そっか…」

強調されるように言われ突き刺さる。分かりやすかったのか、黄瀬くん。それにあたしもかい…。二重でグサッとくる。
やっぱりお前冷てェ、という青峰の呟きが静かなコートに響いた。

/tiny

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