わがままな純情に爪をたてる


黄瀬という有名人がいても、赤司征十郎という人物は目立つ。バスケットボールの主将という意味でも、それを抜きにしても。この年頃の集まりは噂が広まるのが早い。それが恋愛関係ならなおさら。赤司と朱音、そして赤司の「彼女」である女子生徒のことで話題はもちきりになった。
最近朱音はバスケ部に来ていない。赤司と彼女の光景を見てから、ずっと。他のメンバー(特に桃井)は朱音の様子を心配して教室を尋ねたこともあったが赤司の姿はなく。同じクラスの黒子くらいしか話さなくなっていた。朱音と少しでも関わりある女子生徒は心配そうに赤司とのことを聞いてくる。もちろん、心配そうなテイを装っているのだろうと丸分かりだ。苦笑いしながらもそれに応じている朱音は、昼休みには机に突っ伏していた。

「疲れましたか」
「……ううん、別に」
「赤司くんとはあれからなにか話しました?」
「赤司くんとは。ただ、告白は断ってきた」
「ああ、それは。良かったです」

これ以上噂に登場人物は増えないですよ、と励ますが噂はどう変わっていくか分からない。今だってどんな話題になっているのだろう。黒子はクラス全体でも友人が多いわけでもないし朱音と近い存在だ。黒子にわざわざ噂を広める人間はいない。同じ部活の自分たちでさえ、そして本人の朱音でさえ現状が理解できていないのだ。これでどう噂が動くのか。
緑間や紫原でさえ、赤司のやっていることには困惑している。なにも語ろうとしないのだ。朱音の名を出せば「もう終わったことだ」と表情も変えず告げた。にも関わらず、遠くで教室へ続く通路を朱音が歩いているのを、姿が見えなくなるまで見ていたらしい。意地を張っているだけかと最初は思っていたがそれもどうやら違うようだ。
ただ彼女のフリをやめて「友達」の関係に戻り、赤司が彼女を見つけたというのも納得いかない。朱音に対する赤司を見てきた黒子たちからすれば全くすっきりしない。朱音が言っていた「新しい彼女」の言葉。むしろ嫌な方向に向かっている気がする。
唯一本当に付き合っていたと思っている黄瀬は、喧嘩したまま別れたと思っているのか他のメンバーよりは大事にとらえてない。ただ、大きくなっている噂には静めようと動いている。他ならぬ朱音の噂で我慢が出来なかったのもあるだろう。こういうときだけは黄瀬の存在は有難いとみんなで話せば「だけってなんスか!」と抗議された。

「……黒子くんは?」
「なにがですか」
「バスケ部。あれから他にも色々起こってるんでしょ?」
「…」
「疲れてない?」

机から顔をあげ黒子の顔を見つめる朱音に「はい」と息をついてから告げる。きっと、今の赤司くんは朱音さんのせいだけではない。バスケ部にも問題があるのだ。けど今は朱音さんには知ってほしくない。自分のことで一杯一杯のはずだ。
しかし答えた黒子を見て朱音は顔をむっとさせた。起き上がり黒子に体ごと向き直る。

「あたし、部活行くわ」
「え、」
「親友が無理してんのに自分だけしょげてちゃダメでしょ」

黒子くんが元気ないの分かるから、と笑う朱音。最近の辛そうな顔はどこへやら。いや、辛いのは変わらないんだろうがその印象を薄くさせた。
そうだ、この人は。我儘でいい加減だけど、強い人なんだった。

「隠そうと思った?残念でした」


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