一番の被害者


「ん、さつきからの買い物リスト」
「え?青峰来ないの?」
「はあ?なんで俺が」
「荷物持ち」

白けた目で見てくる青峰に「着いて来てよー」と服をくいくい引っ張る。一本道だから迷うことはないが慣れない場所に夜一人で出るのはなんとなく嫌だ。

「赤司でも誘えば?」
「征十郎…?でも、さっきから忙しそうだし」
「お前が誘えば行くって」
「あたしが嫌だ!」
「あ?なんでだよ」
「……だって、二人きりとか…デートみたいじゃん」

顔を赤く染めて呟く朱音に更に白けた目を向ける青峰。え、なにこいつキモい。いつもちゅーちゅーやってるくせに買い出しで照れてるとか意味分かんねえ。
キスするのは誰かに見せているから。彼女のフリをしていると思っているから出来るもので買い出しに行くのはフリとしてではないから緊張するのだ。朱音にとっては決定的な違いだ。青峰にとっては知ったことではないが。

「じゃあなんで俺には来いって言うわけ?」
「青峰とだったらただの買い出しじゃん」
「……絶対行かねー」
「ええ!?来てよ!」

慌てる朱音をスルーして自販機で缶のコーラを買う。「黒子くんが元気なら一緒に行くのに!」と項垂れているが黒子じゃ荷物持ちになるか微妙だ。ついでに言えば「夜は危ないから」という理由でも同じだ。

「黄瀬でも誘えば?」
「黒子くんのこと任せたし」
「紫原」
「駄目だよ。お菓子買うもん」
「緑間」
「……ああ!」

忘れてた、と言い出しそうなほど閃いた顔をする朱音。良し!と思った青峰は飲み干したコーラの缶を捨て「じゃ、俺はこれで」と逃げるように階段を上がって行った。
朱音は青峰と別れ、うろうろ探しまわった。見つけたのは赤司と将棋中の緑間。
……あれ?

「朱音。どうしたんだ?」
「えっと…緑間くんに用事というか…」
「なんだ?テーピングなら既に終わっているが」
「そうじゃなくて。その、買い出しに付き合ってほしいなーって」

瞬間緑間くんは目を見開き赤司は静かに目を閉じた。なにこの対比。そうツッコむのも忘れあたしは恐怖を感じる。やばい。怒らせた。

「朱音」
「は、はい」
「なぜ緑間を誘う?」
「…青峰誘ったんだけど行かないって言われて」
「そうじゃない」

狼狽えている朱音を緑間はしばらく見つめていたが眼鏡をかけ直しながら溜息を吐いた。

「赤司はなぜ一応彼氏なのに自分を誘わないのかと聞いているのだよ」
「緑間、『一応』と言うな」
「だ、だって」

デートみたいで恥ずかしいとか本人を前に言えるはずがない。なんの罰ゲームだ。最新に青峰に言った忙しそうだからという理由は二人が将棋をしている時点で言えなくなった。必死に他の言い訳を考えるが見つからない。

「緑間」
「……さっさと行くのだよ」
「へ?」

赤司が駒を動かす。将棋は全く知らないため勝負が終わったのか分からないがすくっと赤司は立ち上がった。

「買い出しだ。行くぞ」
「来てくれるの?」
「ああ」
「…やった!ありがとう征十郎、緑間くん!」
「は?」
「え?三人で行くんじゃないの?」
「「…」」

「え、違った?」
「…いや、三人だ」
「ちょっと待つのだよ!俺は」
「行くぞ」
「……」

こうなったら三人で行くと、ムキになってしまったらしい赤司。先に歩き出してしまう。命令されれば行くしかない。緑間は今日のラッキーアイテムのリップ(桃井から借りたもの)をポケットから出し、ふりかかった不幸に今日何度目かの溜息を吐いた。
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