親友の定義 夕飯を届けに桃井さんが来た。この合宿は桃井さんのデータを主体に作られた練習メニューで動いてるため今回は相当忙しいらしい。今の今まで様子を見に来れなかったとしょげていたのを励まし、夕飯を食べ終わればまだ仕事が残っているという彼女を食器とともに桃井さんを見送った。 それから眠っていたらしい。どのくらい眠ってたんだろう。夜だというのは分かる。目を開ければ付けっ放しだった明かりに目が眩んだ。 ぼーっとしていると扉の外から話し声が聞こえた。 「なんで着いて来るの?」 「なんでって、黒子っちは俺の親友っスよ?様子見に行くくらい当たり前じゃないっスか!さっきは来れなかったんだし」 「…黄瀬くんが思ってるだけで黒子くんはそう思ってないんじゃないの?」 「ひどっ、なんでそんなこと言うんスか!」 「黒子くんの親友はあたしだもん!!」 うるさいのが来た。 バンッと勢いよくドアを開け、さっきまで言い争ってたはずなのに「黒子っち大丈夫ー!?」と仲良く入って来る。 「……今の騒音で元気がなくなりました」 「ほらー黄瀬くんのせいだよ」 「今のは朱音っちっしょー」 「黄瀬くん、にやけてますよ」 「えっ」 頬が緩みまくっている黄瀬を黒子が指摘すれば赤くなる。 最初に比べれば随分親し気に話しかけられるようになった。けど、見舞い目的じゃなく朱音さんに着いて来ただけだな、これは。 「さつきちゃんが夕飯と一緒に薬持ってったはずだけど、ちゃんと飲んだ?」 「はい」 「熱は?」 「ないです。薬が効いたのか頭痛も…」 「あ、ちょ…!」 「なに?黄瀬くん」 「あ、いやあ……なんでもないっス」 話をしながらナチュラルにベッドに足を乗っけて黒子のおでこに手を当てる朱音。 思わず黄瀬が声を出すが分かっていないのか朱音は首を傾げる。黒子もこれぐらいのスキンシップは慣れているのか何も言わない。 「黒子っち、フルーツ持ってきたんスけど食べれるっスか?」 「林檎と缶詰めのパイナップルとみかん持ってきたけど」 「林檎食べたいです」 「じゃあ剥くね」 「……摩り下ろしたのがいいです」 「はいはーい」 それも予想済みだったのか摩り下ろす道具も持って来ていたらしい。果物ナイフを掴み半分に切ったあとザッザッと摩る音が響く。 「朱音っちって、けっこう家庭的っスよね」 「そう?」 「料理はふつーに出来るし面倒見良いし、気も利いてるし、良妻賢母って感じ」 「その暇つぶしに口説くクセやめたらいいのに」 「本心っスよ」 「はいはい」 本心なのか暇つぶしなのか判断できない話し方。朱音は暇つぶしだと判断したらしい。会話半分に手を動かす。摩り終わるとスプーンと一緒に黒子に渡した。 「どーぞ、黒子くん」 「ありがとうございます。…朱音さん」 「ん?」 「お迎えが来てますよ」 その言葉に黄瀬は赤司だと思ったのかギクッと肩を震わせるが入って来たのは青峰だった。 「よ、テツ。大丈夫かー」 「はい。明日には練習出れます」 「そりゃ良かった。朱音、明日の買い出し行くんだろ」 「え、もうそんな時間?行く行く!」 時計を見て慌てる。しまった、ゆっくりしてた。青峰の後に続いてドアへ向かう。 「ごめん黒子くん、今日はこれで」 「はい、林檎ありがとうございます」 「黄瀬くん!あとヨロシクー」 「はーい」 にっこり頷く黄瀬。朱音がドアを閉めるとしん、と静かになった。 「…黄瀬くん、君も帰っていいですよ」 「えー、黒子っちつれないこと言わないでくださいよ。それに林檎まだ食べ終わってないじゃないっスか」 「食べるの遅いので」 「あ、なんなら俺『あーん』するっスよ!」 「やめてください自分で食べます」 変わらずにこにこ話す黄瀬に懐かれてるのは本当だった、と確信する黒子だった。 みんな黒子がry |