みんな大好きなんです


「すみません、薬持ってませんか」
「黒子くん具合悪いの?あ、ここ座りなよ」

一人で夕飯の下ごしらえをしていると黒子くんがやってきた。まだ夕方。練習してる時間だ。途中で抜けて来たんだろう、と慌てて椅子を差し出した。

「咳?鼻水?頭痛?」
「頭が少し…」
「風邪かなー、顔色悪い気がする」

座っている黒子くんの前髪を片手でどけてもう片方の手でおでこを触る。うーん、分からん。

「ちょっと待ってて。市販のだけど持ってきたはず」
「はい」
「薬ならあるぞ」
「わ、征くんも来たの?」

いつの間に入ってきたんだろう。ユニフォームのまま征十郎が薬の箱を持って立っていた。練習時間だからって油断してたよびっくりした…

「黒子、こういうのは最初が肝心だ。早く飲め」
「ダメだよ。まずなにかお腹に入れないと。黒子くん、なにか食べたいものある?作るけど」
「特にないです」
「風邪にはお粥だ。朱音、早めに頼む」
「りょうかい」
「黒子、ちゃんと汗を拭いてないな。急激な体温の変化が風邪をひく原因だ」

せっせとキッチンへ向かう朱音とペラペラ喋りながら黒子にタオルを渡す赤司。少し五月蝿そうにしている黒子。そして、その光景を密かに見ている二人。青峰と紫原がドアのガラス越しに盗み見ていた。

「テツの様子見に来たけど入り辛い状況だな」
「なんか家族みたいー」
「あー分かる。そういえば赤司って時々母ちゃんっぽいこと言うよな。飯はよく噛めとか残さず食べろとか」
「じゃあお母さんとお母さんと子ども?」
「複雑な家庭だな」

その例え話は意外と面白かったが赤司が聞いたら殺されると黙ることにした。ただでさえ練習を抜け出してこんな所にいるのに。

「黒子、今日は寝てていい。バスで酔っていたし移動の疲れも出たんだろう。しっかり休め」
「…でも、練習出たいです」
「明日からちゃんと出るために今日は休むんだ」
「……はい」

不服そうだが頷く黒子。こういう時に赤司の有無を言わせぬ口調は役に立つ。朱音は密かに感動した。あの俺様が役立つ場面があるなんて!

「大丈夫?歩ける?」
「はい、大丈夫です」
「朱音、ただ疲れが出ただけだ。そんなに心配しなくても黒子は倒れたりしない」そうは言っても普段から白いのに更に白い顔色になっている黒子を見ると流石に心配になる。無表情なのはいつものことだし苦しいけどそうは見えてないだけかもしれないし。
それを見た赤司は考え込んだ様子で「仕方ない」と呟いた。

「青峰、こっちに来て黒子を部屋まで運んでやれ」
「げ、バレてる」
「青峰もいたの?覗いてないで来れば良かったのに」
「お前と違って俺たちは赤司に甘やかされてねえんだよ」
「なんだそれ」
「そう思ってても黒子が心配だったから来たんだろう?」
「……まあな。大丈夫か、テツ」

ドアを開く。紫原は赤司に言われる前に先に戻って行った。黒子は小柄だし運ぶのも青峰だけで十分だから構わないが、赤司になにか言われる前に戻ったのは流石紫原だ。

「もうすぐお粥できるから、部屋に持ってくね」
「ありがとうございます」
「練習のことは気にするな」
「はい。……なんだか、夫婦みたいですね」
「え?」
「いえ、なんでもないです」

首を傾げる朱音と、その隣で固まる赤司。だが一番心臓が止まりそうだったのは青峰だった。

「(告げ口されんのかと思った…)」


みんな大好きなんです(黒子のことが)
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