ちゃんと言わなきゃ伝わらない


最初は部活終わりまで待って一緒に帰ったり、練習試合を見に行く程度だった。けどいつの間にか雑用を押し付けられ、毎日体育館に顔を出し、気付いたらマネージャーになっていた。
もちろんさつきちゃんみたいに完璧じゃないけど一通りはこなしている。
つまり、合宿にも同行するわけだ。

「朱音っち見て見て!前に美味しいって言ってたお菓子の季節限定版!食べる?」
「……食べる」
「はいあーん」
「おいしー」
「あ、ちょ、紫っち!いま朱音っちに渡してたんスよ!」
「だって美味しそうだったんだもん」

合宿先へ向かうバスの中。私の両隣には黄瀬くんと紫原くん。くじで席順が決まったとはいえ中々うるさい(黄瀬くんが)
誰かこの席変わってくれないかな…黒子くんの隣に行きたい。でも黒子くんの隣には嬉しそうにはしゃいでいるさつきちゃんがいる。ダメだ、邪魔できない。反対隣には青峰がいてこっちも黒子くんになにか喋って楽しそうである。
ちなみに征十郎は隣の緑間くんと一緒に眠っている。

「朱音っち、もっかい。あーん……だから、なんで邪魔するんスか!」
「朱音ちんにあーんなんてさせないし」
「これぐらいいいじゃないスか!ていうかその手なに」
「ホールド」
「ずっ……」

ずるい、という言葉をなんとか堪える。睨みつけると紫原はにやりと笑みを浮かべた。
朱音はさっきから周りをきょろきょろしてるだけでここの会話には入って来ない。一方的に黄瀬が話しかけ、紫原が阻止してるだけである。紫原はただ「赤司の好きな子」を守ってるだけなのだが黄瀬からすれば事情を知らないため紫原も朱音が好きなんだと思っている。

「紫原くん、寝るからはなして」
「…んー」

少し間があったがちゃんとはなしてくれる。目を覚ました征十郎がこっちを見たからかもしれない。
あたしもそれに気付いたから寝ようとした。
「あ、寝るの?おやすみ」と意外にもすんなり会話を終わらせてくれた黄瀬くんに軽く頷いて目を閉じた。



「女の子の寝顔って無防備で可愛いっスよね」
「黄瀬」
「は、はい。なんスか…?」

突然赤司に名前を呼ばれ無意識に背筋がぴんとなる。独り言のつもりだったけだまさか今の聞こえてた?一気に青ざめる。

「席替えだ」
「え、」
「聞こえなかったか」
「き、聞こえてたっス」
「ならさっさと動け」
「はい!」

返事と共に立ち上がる。すると紫原も「俺もそっち行こーっと」と朱音を起こさないように跨ぎ移動してきた。
赤司と緑間の席は一つ空いてる席があるため移動は可能である。一つスペースが空いた分過ごしやすかったのが二人来たせいで埋まったため、目を瞑っていたが緑間の機嫌が悪くなったのが分かった。

「おい、着いたぞ」
「…へ、」
「重い」

目を開けると窓に肘をつけ頬杖をついている征十郎の顔が目の前にあった。え、なんで…?窓際って紫原くんじゃなかったっけ。あたしいま征十郎さまの肩に寄りかかって寝てた?
一気に冷静になる。重いと言っていた。不機嫌だ!慌てて頭を起こし謝る。

「ご、ごめん!寝ちゃうとさ、ほら、意識なくて」
「別に怒ってない。着いたから起こしただけだ」
「え、あ…着いた?」

振り返れば隣だったはずの黄瀬くんもいなかった。代わりにさっき征十郎がいた席に二人がいた。みんな降り始めている。なぜか黄瀬くんはちらちらこっちを見てる。

「…朱音」
「なに?」
「あんまり寝るな」
「え、」

そう言うと征十郎は立ち上がり自分の荷物とあたしの荷物を上の棚から引き上げ、あたしのを渡すと先に降りてしまった。
あんまり寝るな…?

「合宿じゃ寝ずに働けってことか…無理だ…」

青ざめる朱音にバスにいた残りの誰もがいや違うだろ、と心の中でツッコミを入れた。
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