終わりのはじまり


「好きです!」
「…え?」

部活中、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下で突然叫び声がした。声に驚いて振り向けばあたしと目が合う。そこでようやく気付く。えっ、告白!?あたしは思わず歩きを止めた。

「あ…あたし…ですか?」
「うん。朱音ちゃんが、好き」

名前を知られている。まあそうか。好きな人の名前くらい…ってあたしこの人の名前知らないんだけども。告白なんてそんなされたこともないし返事に困る。どうしよう征くん!黙っていると慌ててることに気付いたのか「返事、待ってるから」と言い残して消えていった。せめて名前くらい言えよ!!!

「…と、いうわけなんだけど」
「……だけどなんですか?」
「どうすれば良いのかな」
「…自慢ですか」

本を手に冷たい目であたしを見る黒子くん。そんなんじゃないよ本当に悩んでるんだって!そんで本読まないで!こっちの話聞いて!近くの席から椅子を引き黒子くんの方に向いて座る。
窓際に座る黒子くんを見ると夕日も一緒に目に入ってきて眩しい。けど今はそれどころじゃない。

「親友の相談くらい親身になって聞いてよ!」
「朱音さんはどう思ってるんですか?」
「なにが?」
「付き合うんですか」
「え、」

普通に言われて言葉に詰まる。付き合うって、名前も知らない人なのに。でもそういう始まり方もあるっていうのは知ってる。別に抵抗があるわけじゃない。けどあたしがあの人と付き合ってるところが想像できない。好きか嫌いかって聞かれても何も知らないんだからどっちにも答えられない。

「…難しい」
「数日すれば返事を聞きに来るでしょう。その時付き合うか断ればいいんじゃないですか?」
「え、うーん」

なんか気乗りしないな。気まずいの苦手だし。数日っていつなんだろう、その間ずっともやもやしてなきゃいけないのかな、やだー。

「付き合うなら朱音さんはやらなきゃいけないことがありますよ」
「……征十郎でしょ?」

ため息混じりに言えば気付いてたんですかと心底意外そうに言われる。そんなにあたし鈍くないよ。多分このもやもやは征十郎のこともある。
彼女のフリ。一年以上続いてる征十郎との関係。ただ部活に遊びに来る女の子除けとして半強制的にさせられてる。最初の頃は効果があったけど黄瀬くんが入部してからそれも無意味になってる。見に来る女の子の数は昔より増えた。
けど、未だに「フリ」は続いている。
時折征十郎のきまぐれでキスもするし、抱きしめられることもある。いつまでこんなこと続けるんだろうって思わなかったわけじゃないけど言い出さなかった。みんなと一緒に馬鹿してるのもみんながバスケしてるのも征十郎がたまに甘えてくるのも好きだったからだ。

「いつまでも今の関係続いてられないし。だから、それを終わらせるためにあの人と付き合うってのもアリかなって」
「…それを踏まえての『どうすれば良いかな』だったんですか」
「うん」

黒子くんを見ればいつの間にか本を置いていてじっとあたしを見ていた。真剣に聞いてくれてる。

「まず、赤司くんに説明します」
「えっ説明するの!?」
「黙ってたってすぐ分かることなんですから自分から言っておく方がいいです」
「う、うーん」
「朱音さんが返事を決めるまで彼女のフリはやめさせてほしいと言います」
「……」
「クラス違いますし部活に顔を出さなければ赤司くんと会わないと思います。フリをやめると言っても周りは気付かないでしょう。もしこれからも続けるんであっても部活に来ればいいだけですし」
「……うん」

気が重かった。征十郎に話すと黒子くんに言われてからもやもやが更に酷くなった。征十郎はなんて言うだろう。怒るかな。それともすんなりフリをやめる?
顔に出てたのか黒子くんは席から立ち上がりあたしの頭に手をおいた。意味が分かったから少し下を向いた。すると優しくなでてくれる。この手つき、好きだな…。

「上手くやってください。僕は応援しています」

何に対しての応援か、は言わなかった。

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