そしてまた始まるんだ


あれから一年。あたし達は中学二年生になり本格的にみんながレギュラーになり始めた。相変わらずあたしは征十郎の彼女役を続けている。
もうレギュラー達を除いてはみんな信じてるしそろそろ終わらせても良いと思うんだけど征十郎は何も言って来ない。自分から言うのはなんだか寂しい気もしてなんだかんだ一年経ってしまった。
この一年で色々と慣れた。慣れたというか諦めたって方が正しいかもしれない。「うん、もういいや」っていうのが最近の口癖です。

「あれ、朱音ちゃん!?」

いつもの通り体育館へ行けば征十郎の声ではなく、他の部員たちでもない声が聞こえてきた。まだみんな部室で着替えてる頃なはずだ。
名前に反応し振り返れば、モデルでイケメンと毎日女子達が話題にする黄瀬くんがいた。

「黄瀬くん!」
「あ、名前覚えててくれて嬉しいっス。朱音ちゃんバスケ部だったんスね!」
「ええ!いやいや、それはこっちの台詞だよ。あたしの方が名前覚えててくれて嬉しいよ」

黄瀬くんの名前を知らない生徒なんていないだろう。有名人が同じ学校にいるなんて自慢だし。イケメンだし。
それに黄瀬くんとは入学式の日に一度話したことがある。征十郎が帝光中にいると知って探してた時。名前覚えててくれたなんて感動だ。

「…あれ、なんで黄瀬くんがここに?」
「ああ、オレ、今日から入部することにしたんスよ」
「え!そうなの!?」
「はい。よろしくっス」
「おい黄瀬、そいつにそんな近づかねえ方がいいぞ」
「へ?」
「ちょっと青峰!なに人聞きの悪いこと言ってんの!」

黄瀬くんが誤解するじゃんか!あたしは素直で元気なのが取り柄だぞ!
授業サボってずっといたんだろう。ステージの上で寝っころがっている青峰を睨めば上半身を起こしこっちを、黄瀬くんを見た。

「こいつの彼氏こえーぞ」
「……」
「朱音ちゃん彼氏いるんスか?」
「え?ああ、まあ…うん?」

狼狽えたあたしに青峰がステージから降り耳打ちしてきた。

「(おい、なに狼狽えてんだよ)」
「(部員になるのにフリってこと隠すの?)」
「(こいつが口滑らせたら周りの女子が怖えぞ。黄瀬ごと隠してた方がいいと思うけど?)」
「…確かに。青峰にしては先を考えてううっ!」
「殴んぞ」
「もう殴ったじゃん!」

頭をおさえて痛いアピールをすると呆れたような目を向ける青峰。あんたにそれやられるとへこむわ。青峰に呆れられたよ。

「…彼氏って青峰っちっスか?」
「は?」
「へ?…いやいや、違うよ!」
「なんかすごく仲良さそうっスけど」
「こいつアホだからな。仲間意識が」
「…それ自分がアホって言ってるようなものだけど」

確かにふざけ合ったり青峰とは気が合う。さつきちゃんと話すうちにいつの間にか仲良くなっていた。黒子くんの光だし。ちなみに黒子くんと今年も同じクラスだ。

「こいつの彼氏っつーのは、アイツだ」

頭にぼす、と手を乗せられる。お、重い…身長ある分乗せられただけで頭にくる。
話に気付いたのか入ってきた征十郎がこっちを向いた。目線からして青峰を見てる。するとすぐに頭から手を放された。
そして次に黄瀬くんを見る。あ、征十郎にも黄瀬くんには秘密にはしておこうって言わないと。

「例の新入部員か」
「あ、ねえ、征」
「朱音の彼氏だ」

…あれ。
もしかして話聞いてた?見事な笑顔な征十郎に少し慌てる。こんな笑顔見たことない。逆に怖い。

「名前は?」
「赤司」
「征十郎です」
「な、息ぴったりだろ?」
「確かに」
「青峰から少し聞いている。少し見せてもらいたい」
「…いいっスよ」

よし、と呟き、離れて行く。これから青峰との1on1が始まるから離れてなくちゃいけない。あたしもそれに続いた。

「他の部員たちがくる前に見ておきたい。コートは効率良く使いたいからな。朱音」
「はい、ストップウォッチ」
「な?あれ。夫婦みたいだろ?」
「夫婦っていうより……舎弟」
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