| 馬鹿な子 「壱原さん、僕のノート写しておいてください」 「ええ！」 「なんですか口答えですか」 「…いいえ」 終わったら黒板拭きやっておいてください。そう言い残して教室を出て行く黒子くん。いつものお遊びの延長線ではなくて本気でイラつかれてるらしい。征十郎のせいで「イラついてる人の命令は逆らわずに聞く」というクセがついてしまったらしい。今日はあたしと黒子くんが日直だけど、あたししか仕事してない。しかもノート写しは日直の仕事でもなく完全パシリだ。 といっても、元から機嫌が悪かったわけじゃない。朝には普通に挨拶してくれた。問題はその少しあと。黒子くんには話しておこうと征十郎の彼女のフリをすることになったと告げると黒子くんの態度が一変した。 話しかけても無視だし目線が冷たい。一番に言わなかったこと起こってるのかな… 「まだやってるんですか？もう先生が来ちゃいますよ」 「はい！すみません！」 帰ってきた黒子くんにツッコまれ手を速める。もうこうなったら黒子くんが許してくれるまでパシリでもなんでもしよう！ 「黒子くん！日誌もプリント配りもあたしがやるから休んでて！」 「……日誌は僕もやります」 「え？」 「放課後残りますよ」 「え、あ、うん」 とりあえず返事をすれば席に戻っていく黒子くん。日誌は一緒にやってくれるんだ。…てことは放課後二人で！？あの空気で二人で！？ 「……耐えられるかな、まじで」 あたしは遠くを見つめながら、そっと黒板消しを置いた。 「あの、黒子くん？今日の感想のとこなんだけど…」 「…」 「…あ、あたしが書くね」 「僕は」 日誌に今日の感想を書き込もうとした瞬間、黒子くんが口を開いた。放課後になって一言も喋らなかったのに。驚いて顔を上げた。 「僕は、怒ってます」 「…なに、を？」 「あなたが、赤司くんの彼女のフリをすることになったことです」 「やっぱりそれか。ごめんね、黒子くんに一番に言うべきだったのに」 「…違います。そうじゃないです」 溜息と一緒に言われる。え、違うの？ 「僕が壱原さんを赤司くんに会わせたのはそんなことをしてほしくて会わせたわけじゃありません」 「……黒子くん」 「ただ久しぶりにゆっくり話が出来たらって。それだけだったんです」 驚く。黒子くんはあたしに怒っているというより自分に怒ってるらしい。黒子くんにはなんの反省するところなんてないのに。 彼女のフリ。 確かに周りからしたら嫌なイメージが浮かぶかもしれないけどあたしとしてみたら征十郎に振り回されるのは昔からだしキスされたこともめちゃくちゃ恥ずかしかったけど嫌ってわけじゃなかった。相手が征十郎だし。 それに「大きくなったら結婚する！」とか言ってた頃に誓いのキスとか言ってしてた記憶も…うっすらある。今となっては全然気にしてなかった。けどそっか、黒子くんはそれで怒ってたんだ。 「ありがとう、黒子くん」 「…」 「黒子くんは友達思いの良い人だね」 「…なにしてるんですか」 「え？なでなで？」 「聞かないでください」 「あたし別に気にしてないから。大丈夫だよ」 「っ、」 「ありがとうー！！！」 「ちょ、わしゃわしゃしないでください！」 黒子くんが同じクラスで、隣の席で良かったって改めて思った日でした。 ／tiny |