「ここが君の家?うーん雑魚寝すればなんとか2人入るか」
「なに言ってんの。泊めないからね!」
「えー、そんなぁ」と不満の声をあげる神威。有り得ないぞ、有り得ない。
さっき私はバイトしてコツコツ貯めたお金で大好きな高級チョコレートの購入券を買いに行く予定だった。大人気でチケットを買わないと入手出来ない超がつくレアモノ。
頑張って働いてようやく買えるのだ。気分も弾んでるんるんスキップさえしてたとき、道端にぐったり倒れている赤毛を見つけた。
るんるんだった私はその赤毛についうっかり話しかけてしまったのだ。
「赤毛さん、こんなところで寝てると通行の邪魔ですよ!」
「…寝てるんじゃないヨ」
「あれ、男の子?」
確かにズボンを履いてるけど、三つ編みできるほど髪長いから女の子かと思った。
「腹が空いて動けない」
「……肉まんいります?」
うつ伏せてたが肉まんの入った袋を見せるように突き出せばガサリと鳴る。
その音と同時にがばりと赤毛くんの顔が袋に向き、ばくばくとあっという間に肉まん計10コを平らげてしまった。ちなみに私は大食いである。
「ふう、ありがとう。助かったヨ」
「いえいえ、人助けができて良かったですヨ。ではさようなら」
密かに語尾をマネしつつ再びチケット入金に向かおうとすると通せんぼされた。
「…まだなにか?」
「この辺にお金なくても泊まれるホテルない?」
「そんなホテルないよー。なに、家出?迷子?」
「これでも青年って言える年食ってるんだけど」
日焼けを気にしてか傘をさし立ち上がる赤毛くん。にっこりと微笑まれる。
どうやらお連れさん大勢とはぐれたらしい。
「で、腹減ったからとりあえずこの街寄ったの」
「へえ」
「あいつら捜索するのに決まった拠点が欲しいんだよネ」
「ほお」
「でもお金持ってなくて」
「ドンマイ」
親指をグッとたてて言い放ち赤毛くんから立ち去ろうとすると頭をガシッと掴まれる。
「いた!いたたたたったい!」
「話してるのに素通りとか薄情だね」
「いや、肉まんあげたじゃん。だめだめこのお金はあげないよ」
「あ、金持ってるじゃん」
「なにそれ!カツアゲかよ!」
えらいのに話しかけちゃったらしい。けどこのお金だけは渡すわけにはいかない。念願のチケットなんだから!
「死んでも渡すもんかあ!」
「え?死んだら抵抗出来ないよネ。あ、そうしようか」
「どうぞお納めください」
掴まれていた頭に力を入れられそそくさと渡す。
いや、空気でこいつのヤバさが分かったんだ。私はとんでもないものに声をかけてしまったんだ。
渡せばにっこり「良い子だね」と頭を撫でられる。なんだコレ。
「君ってこの街に住んでんの?」
「うん。昔からね」
「ふうん」
「……じゃあ私はこれで」
「待って。これでどっか食べに行こうよ」
「それ私の金!っていうかお連れをさがす資金じゃないの!?」
「ただのホテル見つかったからいいんだヨ」
「……まさか」
顔が引きつる私を無視し腕を掴み歩き出す。「あっちで良い匂いしてる」と私の馴染みのラーメン屋に入る。
店長に彼氏かとからかわれ、赤毛くんは名物の「大盛り大盛りラーメン」を三人分完食し(私は一人分)流れで私は家の前まで来てしまったのだ。
後ろから赤毛くんが着いて来てるのに。
「赤毛くん!いい加減にしてよ!怒るよ」
「もう怒ってるじゃん」
「そりゃ怒るよ」
「だってどうせならタダのがいいじゃない」
「タダじゃないです。十万いただきます」
「金払えばいいの?」
「は?」
金取るぞって言って帰らすつもりだったのにポケットから財布を取り出して十万をポンと私の手に出す。
いやいやいや!つーかお金持ってるじゃん!
「違うの!いくら払っても泊めないよ」
「なんでよ」
「今日会ったばっかの人を泊めるはずないでしょ?しかも男の子を」
「エー」
「エーじゃない!」
夕方の鐘が鳴る。もうそんな時間か。夕飯作ってないから用意しないと死ぬ。
「とにかく、ダメだから。そのお金があればどこのホテルも泊まれるよ。つーか私の金返せよ」
「もう明日には俺いないよ」
「…?そうなの?」
「ほんとは街で遊びたくて抜けてきたんだ」
陽が落ちたからか傘をたたむ赤毛くん。なるほど私は色々騙されたわけだ。でも馬鹿力なの知ってるからつっかかりはしない怖いから。
「じゃあ泊まらなくていいじゃん、私夕飯の準備しないと。もうお金はいいからさ、じゃあね!」
無理矢理家に入ろうとすると慌てた様子で引き止められる。振り返るといつものにっこり顔じゃなくて真剣なちょっと焦った顔だった。
「俺が泊まるのダメなら俺の船に来てよ」
「ふね?」
「旅してんの」
「へえー」
「に、賑やかだし」
「……」
「服だってたくさん用意するし」
「(…たくさん?)」
「安全もお金の心配もない」
「はあ」
興味無いのが伝わったのか息を飲む赤毛くん。最後の切り札というように呟いた。
「……い、いっぱい食べれるヨ」
「行かせていただきます」
深々と頭を下げるとぱっと笑顔になる赤毛くん。気が変わらないうちにとおんぶされ屋根伝いに移動する。えええええ!身体能力高すぎだろ!だから大食いなのか?でも私別に身体能力高くないぞ……
「あ、団長!またこっそりどっか食べに行ってたでしょう!…あれ、そいつ」
「面白い子拾ったんだ。今日から一緒に住むから」
「……は?住むってなに!?ご馳走するって言うから来ただけだよ!」
「だって言ったら来なかったでしょ」
「当たり前でしょ」
赤毛くんの連れのおっさんは常識人らしい。私を返そうと赤毛くんに呼び掛けてくれる。
「団長が女連れなんて、下の奴らが知ったら士気が下がるぜ」
「だって惚れちゃったらしょうがないだろ?」
「……本気か?」
「いや、嘘ですよ。そう言えば良いと思ってんですよ。お願いだから返してください!!」
「ヤダ」
「………」
団長がこうなった時はどうにも出来ない。阿伏兎は溜息を吐いた。長年一緒にいるのだ。分かってしまう。
冷や汗をかいている彼女に哀れみを込めながら諦めろ、と肩に手を置いた。
行動を一緒にするようになってから半年。
阿伏兎の予想を外し名前が来たことで団長もただの男だった!と神威の親しみ度が上がり、名前の方も可愛がられている。
一番予想外だったのは神威の「惚れちゃった」宣言は本気だったことである。なにかと名前を甘やかし最初は家に返せばかり言っていた名前も最近はもう諦めているらしい。口に出さなくなった。
「あぶとおおおお!船員さんに貰った飴神威にたたき割られた!酷くない!?」
「独占欲激しいからなあ…」
「飴でどうにかなる女だと思わないでよ」
「はいはい悪かった」
「あんないたずら、小学生かっつーの。はあ…神威の将来が心配だよ」
「お前は食費の心配しろよ」